2003.11.13

【AHA2003速報】 CABG後患者対象の臨床試験結果で明暗、スタチン系薬の初の“直接対決”も−−12日のLBCTより

 いよいよ最終日を迎えた米国心臓協会(AHA)年次集会。11月12日のプレナリー(必須)セッション11「Late Breaking Clinical Trials」では、冠動脈バイパス術(CABG)を受けた患者の予後改善に焦点を当てた、二つの臨床試験結果が明らかになった。また、心血管疾患の新たな危険因子として注目を集めている、「プラーク容積」と「微量アルブミン尿」を評価基準にした2臨床試験結果も発表された。

 CABG後ハイリスク患者の複合心イベント抑制効果をみた「EXPEDITION」では、ナトリウム(Na)/水素(H)交換系(NHE-1)の阻害薬であるカリポリドが、プラセボより有意に死亡または心筋梗塞(MI)を減らすことが示された。しかし、個別にみるとMIは減らすものの死亡例は増加、脳卒中や腎不全も実薬で多く、NHE-1阻害という戦略の潜在力は示されたものの臨床に供するのは難しいことがわかった。一方、「PAPABEAR」からは、CABG後患者に生じる一過性の心房細動(AF)の予防に、年齢やβ遮断薬の服用の有無などによらず、塩酸アミオダロン(商品名:アンカロン)が役立つことが判明した。

 「REVERSAL」では、高用量のアトルバスタチンカルシウム(商品名:リピトール)と中用量のプラバスタチンナトリウム(商品名:メバロチンなど)とで、プラーク容積の変化を比較。高用量のアトルバスタチンで積極的な脂質低下療法を行うと、冠動脈疾患患者のプラーク容積の増大を、18カ月間抑制できることが示された。「PREVEND IT」は地域コホートから微量アルブミン尿を呈する健常者を抽出、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やスタチン系薬で介入して予後を比較するという、珍しい設計の試験。ACE阻害薬の服用者でのみ尿中微量アルブミン量が低下し、心血管イベントの発症率が下がるという結果になった。以下に試験結果を紹介する。

◆ EXPEDITION
(Na+/H+ EXchange inhibition to Prevent coronary Events in acute carDIac condiTIONs)

 NHE-1阻害薬のカリポリドが、冠動脈バイパス術(CABG)を受けたハイリスク冠動脈疾患患者の予後を改善し得るかを調べたプラセボ対象大規模試験。Na/H交換系は心筋虚血時の細胞アシドーシス改善に伴い、細胞内のカルシウム(Ca)過負荷をもたらすが、このCa過負荷はCABGや経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の心筋障害(再灌流障害)の主因だと考えられている。NHE-1の阻害薬をこうした再灌流療法の前に投与すれば、再灌流障害を予防できる可能性があり、先に行われた「GUARDIAN」(GUARD During Ischemia Against Necrosis)研究でもその可能性が示唆されていた。

 対象は26カ国235施設から登録された、CABGを受けるハイリスク患者(緊急CABG、再CABGまたは65歳以上、女性、糖尿病など)。無作為に2群に割り付け、カリポリドまたはプラセボを、CABG施行の2時間前から49時間に渡り段階的に減量しながら持続投与して、5日後の複合心イベント(死亡または非致死性MI)を一次評価項目として比較した。この試験では患者を7000人登録する予定だったが、2002年に独立の安全性モニタリング委員会が早期中断を勧告。その時点までに登録された5761人に関する解析を行った。

 一時評価項目の5日後までの複合心イベント発生率は、プラセボ群(2891人)が20.3%、カリポリド群(2870)人が16.6%で、実薬群で有意に低いことが判明。しかし、構成要素である「死亡」と「非致死性MI」に対する効果は異なり、「非致死性MI」発生率はカリポリド群で有意に低かった(18.9%対14.4%)が、「死亡」率は逆にカリポリド群で有意に高かった(1.5%対2.2%)。この傾向は、30日後、6カ月後でも変わらなかった。脳卒中(2.4%対4.5%)や腎不全もカリポリド群で有意に多く、この“安全性上のアンバランス”は、非致死性MIの減少というメリットを打ち消すとの判断が下された。

 昨年7月に発表された、「EXPEDITION」試験の早期中断に関するフランスAventis社のプレス・リリースはこちら、今年5月発表の、同薬の開発中断に関するプレス・リリースはこちらまで。

◆ PAPABEAR
(Prophylactic Amiodarone for the Prevention of Arrhythmias that Begin Early After Revascularization)

 抗不整脈薬の塩酸アミオダロンが、CABGなどの心臓手術後に生じる一過性のAFを予防し得るかを調べたカナダのプラセボ対象試験。対象者を無作為に2群に分け、プラセボまたはアミオダロン(1日量:体重1kg当たり10mg)を、手術の6日前から6日後まで服用してもらった。対象はCABGなどを待機手術で受ける600人で、重度の心不全やアミオダロンが禁忌の患者、既に抗不整脈薬の投与を受けている患者などは除外されている。割付は年齢(65歳未満・以上)、β遮断薬服用の有無、手術の種類(CABGのみか弁置換術を同時に行うか)で層別化した上で行った。

 対象患者の平均年齢は62歳、8割が男性で4分の3に冠動脈疾患があり、高血圧は半数、糖尿病は2割強、心不全は4分の1が合併している。6割弱が術前からβ遮断薬、半数弱がアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を服用していた。平均手術時間は2.7時間、人工心肺使用時間は1.3時間、阻血時間は0.9時間で、こうした患者背景に群間の差はなかった。

 「周術期のAF発生」(術後6日目まで、5分以上継続し治療を要するAF)を一次評価項目として比較したところ、アミオダロン群(299人)で有意に、プラセボ群(301人)よりもAF発生が少ないことが判明(16.1%対29.6%、p<0.001)。年齢やβ遮断薬服用の有無、手術の種類によるサブグループ解析でも、すべてのグループでAF予防効果がほぼ均等に現れた。入院日数が6日未満の人の比率もアミオダロン群で有意に多く(54.8%対46.2%、p=0.03)、徐脈などの副作用に注意は必要だが、周術期のアミオダロン服用はAFを予防し、在院日数を短縮し得ることがわかった。

◆ REVERSAL
(the Reversal of Atherosclerosis with Aggressive Lipid Lowering trial)

 脂質低下薬のアトルバスタチンカルシウムとプラバスタチンナトリウムの、冠動脈プラークに対する効果を比較した。スタチン系薬間の“直接対決”はこの試験が初めて。冠動脈疾患患者に2薬のいずれかを投与、18カ月追跡して、血管内超音波(IVUS)検査でプラーク容積の変化を評価した。

 投与量はプラバスタチンが1日40mg、アトルバスタチンが1日80mg。この用量の場合、プラバスタチンでは中等度の脂質低下、アトルバスタチンでは強力な脂質低下が期待できる。対象は症候性の冠動脈疾患があり、冠動脈造影検査で20%以上の狭窄が確認され、8週間の脂質低下薬服薬中止(wash-out)後の低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール値が125〜210mg/dlの654人。評価血管1枝を決め、IVUS検査で評価血管のプラーク量を計測した後、無作為に2群に分けて中等度または強力な脂質低下療法を18カ月行った。その後、再度IVUS検査を行い、最初に決めた評価血管のプラーク量変化を評価した。最終的な評価対象患者数は502人。年齢(56歳)や男性比率(72%)など、主な患者背景に2群間の差はなかった。

 介入前の平均LDLコレステロール値は両群とも平均150.2mg/dlだったが、介入後は中等度脂質低下群(249人)で110mg/dl、強力脂質低下群(253人)で79mg/dlと、低下幅に有意な差が付いた(p<0.0001)。プラーク容積は中等度脂質低下群で2.7%増加したのに対し、強力脂質低下群では0.4%減少しており(p=0.02)、アトルバスタチンを用いた強力な脂質低下でプラークの増大を食い止められることがわかった。さらに、炎症性マーカーのC反応性蛋白(CRP)値は、中等度脂質低下群で5.2%、強力な脂質低下群で36.4%低下していた。サブグループ解析では、LDLコレステロール値が100mg/dl未満に下がった人(プラバスタチン群の67%、アトルバスタチン群の99%)に限った検討でも、プラバスタチン群でプラーク容積が1.9%増加していた。

 薬剤の差と脂質低下度の差のどちらがプラーク抑制に関与しているのかが、この試験からは厳密にはわからないことには留意すべきだ。さらに、プラーク容積増大の抑制が、心イベント抑制など臨床的な意義を持つかに関する、今後の研究が待たれる。

◆ PREVEND IT
(Prevention of Renal and Vascular Endstage Disease Intervention Trial)

 糖尿病患者や高血圧患者において、心血管疾患の新たな危険因子として注目されている「微量アルブミン尿」が、一般市民においても心血管疾患リスクを反映するかを地域コホートを用いて検討した。微量アルブミン尿を呈する健常者に、心疾患リスク者の尿中微量アルブミンの減少効果が示されている2薬剤またはプラセボを2×2形式で投与、4年間追跡して心血管性イベント(心血管死+心血管疾患による入院+末期腎不全=ESRD)の発生率を比較した。

 研究グループはまず、試験への参加を、オランダGroningen居住の28〜75歳の男女8万5421人に呼びかけた。呼びかけに応えた4万856人のうち「血圧が160/100mmHg未満」「総コレステロール値が308mg/dl(8.0mmol/l)未満(MI既往者は193mg/dl未満)」「尿中の24時間アルブミン量が15〜300mg」の3条件を満たす1439人に、介入試験への強力を要請。許諾した854人を無作為に4群に分け、ACE阻害薬とスタチン系薬の微量アルブミン尿および心血管性イベントに対する効果を調べた。ACE阻害薬にはフォシノプリル(海外での商品名:Monopril)、スタチン系薬にはプラバスタチンナトリウム(商品名:メバロチンなど)を用いた。1日量はフォシノプリルが20mg、プラバスタチンが40mg。

 対象者の平均年齢は51歳、男性が6割強で、平均総コレステロール値は222mg/dl、血圧の平均値は130/78mmHg。尿中の24時間アルブミン量の中央値は22mg前後だった。フォシノプリル服用群では血圧が5/4mmHg下がり、プラバスタチン服用群では総コレステロール値が43mg/dl下がった。尿中24時間アルブミン量は、フォシノプリル服用群で約30%低下したが、プラバスタチン服用群ではほとんど下がらなかった(p<0.001)。

 心血管イベントの4年発生率は、フォシノプリルの服用で、有意ではないものの相対的に44%低下(p=0.07)、患者背景を補正すると有意に47%低下した(p<0.05)。構成要素の中では脳卒中の予防効果が大きかった(ESRDは一人も発症していない)。プラバスタチンの服用で心血管イベントの4年発生率に有意な変化は現れなかったが、構成要素別ではMIの有意な抑制効果が認められた。この研究を契機に、微量アルブミン尿に対する注目が一層高まることになりそうだ。(内山郁子)

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