2003.11.12

【AHA2003速報】 AF患者への抗トロンビン薬治療に新たなエビデンスが追加、“市民AED”の有用性も示唆−−11日のLBCTより

 11月11日のプレナリー(必須)セッション7「Late Breaking Clinical Trials」では、心房細動(AF)患者への「ワーファリン療法」を代替し得る薬剤として期待を集めている、経口抗トロンビン薬の二重盲検試験結果が報告された。非虚血性の心不全患者に対する、体内植え込み型除細動器(ICD)の救命効果をみた試験結果も発表された。さらに、わが国でも普及が進みつつある自動体外式除細動器(AED)に関する、二つの無作為化試験結果が明らかになった。

 オープン試験の「SPORTIF 3」と同じ試験設計の「SPORTIF 5」は、AF患者を対象に、新規抗トロンビン薬のキシメラガトランとワルファリンカリウム(商品名:ワーファリンなど)とを、二重盲検法で比較した試験。脳卒中+血栓症の予防効果は2薬で“同等”(非劣性)であり、副作用はキシメラガトランで少なく、大筋では「SPORTIF 3」と同じ結果になった。「DEFINITE」は左室機能が低下した非虚血性心不全患者を対象に、5年に渡り行われた試験。ICDの植え込みは不整脈死を有意に減らすが、総死亡には有意差が認められなかった。

 AED関連の2試験、「ORBIT」と「PAD」は、救急現場や街角など病院内以外の場所という条件下で行われた試験。「ORBIT」では、最大放電での除細動成功率が、定電流の2相式除細動器で単相式除細動器より高いことが示された。「PAD」からは、心肺蘇生術(CPR)やAEDによる除細動の実施経験がほとんどない一般市民に一定の訓練を行い、AEDを配備すれば、ハイリスク地域での心停止者の救命率を向上し得ることが示唆された。以下に試験結果を紹介する。

◆ SPORTIF 5
(Stroke Prevention using an Oral direct Thrombin Inhibitor in atrial Fibrillation 5)

 北米の心房細動(AF)患者3922人を対象に、標準治療であるワルファリンカリウムと、経口抗トロンビン薬のキシメラガトランとを比較した無作為化二重盲検試験。今年3月の米国心臓学会(ACC)で発表され、キシメラガトランの「投与量調節がいらない経口抗凝固薬」としての潜在力を示した「SPORTIF 3」はオープンラベル形式の試験だが、今回の「SPORTIF 5」は二重盲検形式。両群とも割付薬に加えプラセボを服用、キシメラガトラン群では凝固能検査値によらずワルファリンカリウムのプラセボ投与量を増減させるという形で二重盲検形式を保った。

 対象患者の組み入れ条件は、AFがあり、かつ脳卒中の危険因子(75歳以上の高齢、脳卒中または血栓症の既往、心不全、高血圧)を一つ以上持つこと。糖尿病や冠動脈疾患がある場合は65歳以上から組み入れた。一次評価項目は虚血性・出血性の脳卒中と血栓症。この試験デザインや評価項目は、二重盲検であることを除けば、「SPORTIF 3」と同じものだ。ワルファリンカリウム群のプロトロンビン時間の国際標準比(INR)は目標値が2.0〜3.0で、68%の患者はこの範囲内で管理された。

 最長24カ月追跡したところ、脳卒中+血栓症の1年当たりの発症率はキシメラガトラン群(1960人)が1.6%、ワルファリンカリウム群(1962人)が1.2%となり、「SPORTIF 3」(順に1.6%、2.3%)とは逆に、有意差はないもののキシメラガトラン群で高くなった。ただし、非劣性解析では、キシメラガトランがワルファリンカリウムに劣らないことが示された。出血は脳内出血、大出血には両群に差がなく、大出血+小出血はキシメラガトラン群で有意に少なかった。「SPORTIF 3」や「ESTEEM」試験などで示されたキシメラガトラン群の肝機能検査値異常は「SPORTIF 5」でも認められたが、他の試験と同様、一過性のものだった。

 研究グループは、AF患者の6割以上がワルファリンカリウム投与を受けていない現状を鑑みると、最初の6カ月は肝機能検査値をモニターする必要はあるが、キシメラガトランはワルファリンカリウムの代替薬として考慮に値すると論じている。

■ 参考トピックス ■
◆ 2003.11.6 ASHで発表の3臨床試験「MATISSE PE」「EXULT A」「THRIVE 3」、原著論文がNEJM誌に掲載
◆ 2003.9.5 ESCで発表の3臨床試験「CHARM」「EUROPA」「ESTEEM」、原著論文がLancet誌HP上で早期公開

◆ ORBIT
(Out-of hospital Rectilinear Biphasic Investigational Trial)

 定電流の2相式除細動器(rectilinear biphasic defibrillator)と、従来の単相式除細動器の有効性と安全性を、救急現場での使用という条件下で無作為化比較したカナダの研究。救急車48台に二相性除細動器と従来の除細動器をランダムに積み込み、どちらの除細動器を用いたかで、除細動成功率や病院到着時死亡(DOA)率などが変わるかを調べた。2相式除細動器は従来型の除細動器よりも、低い電圧で除細動を行え、心筋へのダメージが少ないと報告されているが、既存の報告はすべて院内使用におけるデータで、救急現場で行われた無作為化比較試験は初めて。

 試験期間中に救急車が呼ばれた患者のうち、持続性の心室細動(VT)など除細動の適用となる病態だったのは436人。平均年齢は67歳で4分の3は男性、9割がVTで残りが心室頻拍(VF)だった。放電量は2相式は120、150、200J、単相式は200、300、360Jの3段階で増加させ、放電から5秒以内に洞調律に戻った場合を「除細動成功」とした。評価は独立の評価委員会が、除細動器に記録された波形データや救急記録、病院のカルテなどに基づき、どちらの除細動器を使用したかを伏せた状態で実施した。

 放電3回以内の除細動成功率は、2相式除細動器が54%、1相式が45%。2相式で高い傾向はあったが有意差はなかった(p=0.06)。有意な差があったのは最大放電量で除細動を行った時の成功率で、2相式が23%、1相式が14%だった(p=0.02)。病院到着時の生存率(57%対57%)、24時間生存率(23%対22%)、生存退院率(7%対7%)に差はなかった。この研究にさらに症例を追加する「ORBIT 2」研究では、700人以上の患者を登録し、「ORBIT」研究では症例数不足により行えなかった「除細動方法の違いが生存率に影響するか」を調べる予定だ。

■ 参考トピックス ■
◆ 2003.11.10 AHA2003速報】2相式と単相式で除細動の成績に有意差なし、日本国内初の比較研究結果まとまる

◆ PAD
(the Public Access Defibrillation trial)

 北米24地域のボランティア993団体が参加して、高齢者アパートやショッピングセンターなどに誰でもが使える形(公衆アクセス)で除細動器を設置することが、心停止者の救命に役立つかを調べた。こうした公衆アクセス型の除細動器はPADと呼ばれ、わが国でも近く医師以外の非専門職でも使用が可能になる見込み(関連トピックス参照)。参加条件は、50歳以上の人が250人以上滞在する場所、あるいは過去2年間に心停止者が一人以上目撃されている場所でボランティア活動を行うこと。各団体は20人程度のチームを組んで地域の救命活動にあたるが、医師や看護師、救急隊員、フライトアテンダントなど、CPRやAEDの使用に精通している人はチームから除外、こうした専門職以外の一般市民約2万人がボランティアとして参加した。

 参加団体を活動地域(公共の場所か居住エリアか)や予想心停止者発生率などで層別化した上で、無作為に2群に割り付け、一方にはCPRのみ、他方にはCPRとAEDの使用法を指導。平均21.5カ月追跡して、心停止者の生存退院数を比較した。研究の実施主体は、米国国立衛生研究所(NIH)の関連機関である米国国立心肺血液研究所(NHLBI)と米国心臓協会(AHA)。参加ボランティアへのCPRやAEDの指導をAHAが担当した。

 追跡期間中、CPR指導地域では103件、CPR+AED指導地域では129件の心停止事例(確定例)が発生。年齢(約70歳)や男性比率(7割)などに地域間の差はなかった。生存退院者数は、CPR指導地域が15人、CPR+AED指導地域が29人で、CPR+AED指導地域で有意に多くなった(p=0.042。心停止か否かの判断が微妙なケースが多かったため、「確定例」を分母にする「救命率」ではなく「救命者数」で比較を行った)。ただし、高齢者アパートなど居住エリアでの救命率は両群とも極めて低く、公共の場所ほどはAED設置の効果は期待できないこともわかった。

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.9.9 短期集中講座◇心肺蘇生とAED】なぜ医師以外にもAEDを認める必要があるのか
■ 参考トピックス ■
◆ 2003.11.10 AHA2003速報】家庭用AED、訓練を受けていない初心者でも高い除細動成功率を実現

◆ DEFINITE
(DEFibrillators In Non-Ischemic Cardiomyopathy Treatment Evaluation)

 左室駆出力(LVEF)が35%以下の症候性、非虚血性の心不全で、非持続性心室頻拍(NSVT)や心室性期外収縮(PVC)がある458人を対象に、無作為化試験でICDが総死亡や不整脈死を減らし得るかを検討した。対象からは、既に米国ではICDの適応症となっている「冠動脈疾患を合併した心不全患者」が除外されている。対象患者の平均年齢は61歳、7割が男性で、平均LVEFは21%。全員が心不全に対する十分な薬物治療を受けている。平均追跡期間は26カ月。

 一次評価項目の2年総死亡率は、標準治療群(229人)が13.8%、標準治療+ICD群(229人)が8.1%で、標準治療+ICD群で低い傾向はあったが有意差はなかった(p=0.06)。二次評価項目の、追跡期間中の不整脈死は、標準治療群より標準治療+ICD群で有意に低かった(33%対13%、p=0.01)。サブグループ解析では、男性や心不全症状が重い(NYHA心不全分類で3度の)人で、ICDを標準治療に追加することによる死亡予防効果が有意に高かった。

 研究グループは、総死亡に占める不整脈死が3分の1と予想外に低かったことが、総死亡で有意差が出なかった理由の一つだと考察。有意差には至らなかったが、2年死亡率を絶対値で5.7%、相対的に34%下げる傾向が認められたことを考えると、非虚血性心筋症患者の一部にはICD植え込みが有用である可能性があるとみている。(内山郁子)

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