2003.11.02

【日本高血圧学会速報】 高齢者高血圧に年齢別の降圧目標は必要か? ガイドラインの改訂含みで議論−−DEBATEセッションより

 日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン「JSH2000」では、高血圧患者のうち60歳以上の高齢者を「高齢者高血圧」として別枠で扱い、若年者より一段緩やかな降圧目標値を設定している。この妥当性についてはこれまでも議論が繰り返されてきたが(関連トピックス参照)、11月1日のディベートセッション「高齢者高血圧の年齢別降圧目標 是or非」でも、再度この課題が取り上げられた。

 東京都老人医療センターの桑島巌氏は、年齢別降圧目標を否定する立場から「養老孟司氏の近著(「まともな人」中公新書)には『あたりまえ』を疑えとあるが、高齢者高血圧を考える上でも『あたりまえ』を疑うことが大切」と指摘。「若中年者の降圧目標値より、高齢者は高めでもよい」「高齢者の血圧は140mmHg以下には下がりにくく、若い症例より多剤併用になり、副作用が出やすい」など、高齢者高血圧を巡る様々な「あたりまえ」を列挙し、反例となるエビデンスを挙げて論破した。

 桑島氏は、高血圧患者の大半は高齢者であることを考えると、「高齢者高血圧はもはや特殊な高血圧ではなく、高血圧診療の中心をなす存在である」と強調。「高齢者だから」と厳格な治療を行わないのはラベリング(レッテル貼り)であり、エイジズム(高齢者差別)であると述べた。さらに、高齢者では治療開始血圧値や降圧目標値に幅がある(治療開始の収縮期血圧値は60歳代で140〜160mmHg以上、70歳代で160〜170mmHg以上、80歳代で160〜180mmHg以上。降圧目標の収縮期血圧値は順に140mmHg以下、150〜160mmHg以下、160〜170mmHg以下)点も、臨床現場では「高めでも良い」と受け取られてしまう恐れがあると指摘した。

 続いて登壇した大阪大学加齢医学の荻原俊男氏は、「JSH2000で高齢者の降圧目標値に“幅を持たせた”点は、確かに誤解を招いた恐れがある」と、桑島氏の主張の一部を容認。2002年に発表された厚生労働省長寿科学総合研究事業「老年者高血圧の長期予後に関する研究」班ガイドライン三訂版では、年代別の降圧目標値(60歳代:140/90mmHg未満、70歳代:150/90mmHg未満、80歳代:160/90mmHg未満)は設定したものの、幅を無くして「低い方の数字」(荻原氏)だけを提示した上で、「いずれの年代でも140/90mmHg未満の降圧に予後改善の可能性が期待できる」と付記したことを紹介した。

 その上で荻原氏は、欧米でも65歳以上の高齢者の場合、収縮期血圧を140mmHg未満に下げることで追加効果が得られるかは不明(whether levels below 140mmHg provide additional protection is unclear)であり、特に高齢者における最適な治療目標値の設定は今後の課題と考えられていることを提示(NEJM;348,610,2003)。確としたエビデンスがない中、今年6月に日本の循環器専門医160人を対象に行った「理想的で実用的な高血圧治療」アンケートでも、7割は高齢者と若中年者とで降圧目標血圧を区別すると回答しており、降圧目標値の平均値も若中年者より高齢者で高くなっていることを挙げ、専門医の意見としては高齢者に個別の降圧目標値を設けるとの考え方が主流であることを示した。

 日本高血圧学会のガイドライン「JSH2000」は、当初は5年後の改訂が予定されていたが、今年の総会で改訂を1年前倒しし、2004年の総会に間に合うように新ガイドラインを策定することが発表されている。司会を務めた獨協医科大学循環器内科の松岡博昭氏は「(どちらの見方にも)支持するエビデンスがあるが、『どこまで』下げるのが最良かは、現在進行中の臨床試験などを踏まえ、来年発表される日本のガイドラインに反映してほしい」と話した。

■ 関連トピックス ■
◆ 2001.10.30 日本高血圧学会速報】高齢者の血圧はどこまで下げるべきか、エビデンスの解釈で紛糾

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