2003.11.02

【日本高血圧学会速報】 糖尿病合併高血圧における降圧薬の選択、「最初の1剤」巡り議論−−DEBATEセッションより

 今年5月に発表された米国の新ガイドライン「高血圧の予防、発見、診断、治療に関する米国合同委員会第7次報告(JNC7)」(関連トピックス参照)や、6月に出された欧州高血圧学会(ESH)−欧州心臓学会(ESC)のガイドライン(関連トピックス参照)では、糖尿病を合併した高血圧患者に対し、α遮断薬以外のすべての降圧薬を一律に推奨している。11月1日のディベートセッション「Pro- or anti-JNC7,ESH/ESC recommendation」では、この「5剤一律推奨」に賛成または反対の立場から、二人の演者が議論を戦わせた。

 冒頭、座長を務めた札幌医科大学第二内科の島本和明氏が、テーマの変更について説明を行った。実は、このセッションの当初のテーマは「Pro- or anti-ADA recommendation」。2002年に米国糖尿病協会(ADA)が発表したガイドラインで、糖尿病合併高血圧患者の第一選択薬としてCa拮抗薬以外の4剤が推奨された“事件”を受けて企画されたテーマだ。しかしその後、ADAはガイドラインを改訂して「Ca拮抗薬外し」から「5剤一律推奨」へと立場を変更(関連トピックス参照)。JNC7やESH/ESCガイドラインも同じ「5剤一律推奨」の立場を取ったため、急遽テーマを差し替えることとなった。

 欧米のガイドラインに賛成との立場で登壇したのは、北九州市立若松病院内科の阿部功氏。阿部氏は、2型糖尿病患者を対象とした英国の大規模追跡研究「UKPDS」 (UK Prospective Diabetes Study)で、厳格な降圧を行えば糖尿病患者の細小血管障害だけでなく大血管障害も予防できるが、そのために6割は2剤以上を併用する必要があるとのデータを提示。同病院を受診した糖尿病患者101人に対する検討でも、やはり6割は十分な降圧のために2剤以上の降圧薬併用が必要であり、糖尿病患者の血圧管理には降圧薬の併用療法が基本になることを示した。

 その上で阿部氏は、対象高血圧患者の36%が2型糖尿病を合併している「ALLHAT」(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)研究(関連トピックス参照)では、糖尿病の合併例だけに絞っても、心血管疾患の発症率は利尿薬、Ca拮抗薬とアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬で変わらなかったことを紹介。糖尿病を合併した高血圧患者にとって「一番大事なのは厳格な血圧管理であり、多くは併用療法が必要になることを考えると、どの降圧薬から治療を始めても差し支えない」と述べた。

 一方、駿河台日本大学病院循環器科の久代登志男氏は、欧米の「5剤一律推奨」ガイドラインに反対する立場で登場。ACE阻害薬やアンジオテンシン2(A2)受容体拮抗薬は副作用の用量依存性が他の降圧薬より少なく(BMJ;326,1427,2003)、糖尿病性腎症の発生抑制効果が他薬より高い上、生活の質(QOL)に大きく関わる勃起障害(ED)や糖尿病の新規発症が少ないことを考えると、第一選択薬にはレニン−アンジオテンシン(RA)系抑制薬を用いるべきとした。

 利尿薬については「ALLHAT研究でACE阻害薬より糖尿病の新規発症率が高いことが示されており、副作用の低カリウム血症も日本人ではより発症率が高い可能性もあることを考えると、第一選択薬としては使いにくい」と指摘。Ca拮抗薬も「腎症の進展抑制を考えると最初の1剤として選ばなくてもよいのでは」と久代氏は話した。β遮断薬は「心筋梗塞や狭心症などを合併している場合は2次予防を考慮して使うべきだが、動脈硬化性疾患を合併していない糖尿病高血圧者には必ずしも使わなくてもよい」との見方を明らかにした。

 両者の直接討議では、阿部氏が「『最初の1剤に何を使うか』で医療費は相当変わってくる。Ca拮抗薬はRA系抑制薬より薬価も安い上、日本人に多い脳卒中の予防効果はRA系抑制薬より優れているのに、なぜACE阻害薬などを初期治療薬として選ぶのか」と問いかけた。これに対し久代氏は「RA系抑制薬は他の降圧薬より、糖尿病の新規発症を3〜4割抑制できる可能性が示されている。20年、30年使い続けることを考えた場合、1錠の価格が安いからといって、本当に医療費が安いということになるか、もっと広い視野で考えてもいいのでは」と答えた。

 また、腎保護作用に関して、島本氏が「『ALLHAT』研究では、糸球体濾過量(GFR)が最も落ちなかったのは意外なことにCa拮抗薬だったが、それでも糖尿病合併高血圧患者に対してRA系が第一選択薬となるか」と質問すると、久代氏は「糖尿病患者のようにGFRが“落ちつつある”場合は、エビデンスに従ってCa拮抗薬よりRA系抑制薬を選ぶべき」と回答した。島本氏は最後に、「討議を伺って、患者の病態に応じて薬を選ぶという観点では、お二人とも似た立場で話しているとの印象を受けた。今後、この議論を踏まえて日本高血圧学会のガイドライン改訂が行われることと思う」とまとめた。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.5.15 米JNCが高血圧ガイドラインを改訂、血圧120〜139/80〜89mmHgを「高血圧前症」に
◆ 2003.6.16 ESH/ESCの欧州版高血圧GLが発表、「高血圧前症」を用いず旧来通りの血圧分類を採用
◆ 2003.4.2 2型糖尿病患者の血圧管理でACPがガイドライン発表、降圧目標は135/80mmHg、利尿薬またはACE阻害薬を第一選択薬に
◆ 2002.12.18 「利尿薬はACE阻害薬、Ca拮抗薬に勝る」−−NHLBIが「ALLHAT」研究結果を発表

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