2003.11.01

【日本高血圧学会速報】 脳血管障害は急性期からの血圧管理を、5学会合同脳卒中治療ガイドラインが提示−−教育講演より

 脳卒中管理に関する最新知見をとりまとめた本邦初の治療ガイドラインが今年5月に発表され大きな話題を呼んだが、10月31日の関連学会教育講演「脳血管障害を合併した高血圧の治療−5学会合同脳卒中治療ガイドラインを中心に−」では、同ガイドラインの作成委員長である東海大学神経内科教授で日本脳卒中学会理事長の篠原幸人氏が登壇。ガイドラインのうち高血圧に関わる部分を解説し、脳卒中管理における血圧管理の重要性を訴えた。

 このガイドライン「脳卒中治療ガイドライン2003」は、日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本神経学会、日本神経治療学会と日本リハビリテーション医学会の5学会が合同で作成したもの。既に海外では複数の脳卒中治療ガイドラインが発表されているが、「脳卒中大国」日本にいまだ確立されたガイドラインがないことが、策定の契機となった。ガイドラインを作る上では、できるだけ日本のデータを重視し、かつ「本邦ではどのような項目にエビデンスが欠けているかを明確にすることを心掛けた」と篠原氏は話す。

 同ガイドラインはエビデンスを収集・吟味した上で各治療戦略の推奨グレードを決めるという、ガイドライン作成の定法に従って作られている。さらに、十分なエビデンスがない部分には、専門医の合意(コンセンサス)に基づき「『行うことを考慮してもよいが十分な科学的根拠がない』(推奨グレードC1)あるいは『科学的根拠がないので勧められない』(同:C2)のいずれかを示した」(篠原氏)点が大きな特徴となっている。

 ガイドラインの全文は近く日本脳卒中学会のホームページ上で公開される予定だが、篠原氏は、1.脳卒中の予防、2.脳卒中超急性期の管理、3.病型(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)診断確定後の急性期管理、4.脳卒中の慢性期管理−−のそれぞれについて、自験例や篠原氏自身の考えも加味した上で解説した。

超急性期では病型確定後に降圧を、脳梗塞はSBP220mmHg、脳出血は180mmHgが降圧開始の目安に

 篠原氏はまず、無作為化試験のメタ分析に基づき、脳卒中の予防に関して「高血圧患者への降圧療法」(推奨グレードA)が強く推奨されていることを紹介。一方、脳卒中の超急性期や急性期では、脳血流の自動調節能が損なわれているため全身の血圧に脳血流が左右されることはわかっているが、現時点では特定の治療戦略を推奨するだけのエビデンスが揃っていないことを明らかにした。その上で、専門医間の合意により提示した主な治療戦略(推奨グレードC1)は次の通り。

◎脳卒中発症直後(超急性期)
 高血圧性脳症やくも膜下出血が疑われる場合以外は、病型診断が確定してから高血圧管理を行う。著しい低血圧(ショック)は速やかに是正する。
◎脳梗塞急性期
 「乖離性大動脈瘤や急性心筋梗塞、心不全、腎不全の合併時」や「SBPが220mmHg以上または平均血圧が130mmHg以上」の場合に限り、慎重に降圧療法を行う。
 血栓溶解療法を予定している患者では、出血性副作用の予防のため、より低い血圧(SBP180mmHg以上または拡張期=DBP血圧105mmHg)でも降圧療法を行う。
◎脳出血急性期
 SBPが180mmHg超、DBPが105mmHg超または平均血圧が130mmHg超のいずれかの状態が20分以上続いたら降圧を開始する。
 外科治療を考慮する場合はより積極的な降圧を行う。
◎くも膜下出血急性期
 発症直後は再出血を来たすことが多いため、積極的な検査や処置は避ける。
 重症例では脳循環動態の改善のため、頭蓋内圧降下薬の投与や全身循環動態の管理が必要。

 次に、脳卒中慢性期の血圧管理に関し、篠原氏は発症6カ月後までには脳血圧の自動調節能が回復する、つまり全身の血圧を下げても脳が血液不足に陥ることはないことを示した自験例を紹介。脳卒中既往者では血圧値と脳卒中の再発率がリンクしていることや、「PROGRESS」(Perindopril Protection Aainst Recurrent Stroke Study)研究で降圧薬服用群の血圧がプラセボ群よりも9/4mmHg下がり、脳卒中再発率が相対的に28%有意に低下したことを提示した。これらのエビデンスに基づき、ガイドラインではグレードAの推奨レベルで「脳梗塞再発予防のための降圧療法」を推奨している。ただし、「PROGRESS」試験で使用されたアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬±利尿薬という薬剤の組み合わせが最適かどうかは、「今後の検討待ち」と篠原氏は話した。

無症候性脳梗塞患者の血圧管理はエビデンスが不足も「降圧が望ましい」

 脳卒中患者で合併例が多く、脳卒中の危険因子の一つと考えられている無症候性脳梗塞については、ガイドラインでは「十分な科学的根拠はないものの一次予防のために高血圧管理などが推奨される」(推奨グレードC1)とされている。さらに、高血圧を合併した無症候性脳梗塞患者が、脳卒中を発症するのを防ぐ“二次予防”のためにも、降圧療法が望ましいと篠原氏はみている。

 その根拠として篠原氏が挙げたのは、共同研究を行っている脳ドック施設、山中湖クリニックでの追跡調査結果。この研究では、21〜86歳の2139人を平均38カ月追跡したところ、無症候性脳梗塞がなかった1953人と比べ、無症候性脳梗塞があった186人では明らかに追跡期間中の脳梗塞発症率が高かった。多変量解析による解析でも、内径動脈狭窄(オッズ比9.18)に次いで、無症候性脳梗塞(オッズ比6.34)が脳梗塞発症の危険・予知因子として浮かび上がった。

 さらに、篠原氏らが実施した「PICA」(Prevention of Ischaemic CVD with Antihypertensive Nilvadipine)研究でも、高血圧を合併した無症候性脳梗塞患者429人を全員カルシウム拮抗薬で治療し、3年間追跡したところ、血圧が十分に下がった人では下がらなかった人より脳梗塞や脳心イベントの発症率が低かったという。

 以上から篠原氏は「無症候性脳梗塞患者における高血圧も、脳梗塞既往者と同様に治療が望ましい」との考えを述べ、近い将来、より高いグレードでの推奨が行えるよう研究を進めたいと話した。(内山郁子)

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