2003.10.17

【DDW-Japan 2003速報】 胃MALTリンパ腫のH.ピロリ菌除菌療法、遺伝子診断で「不応例」の事前判別が可能に

 日本ヘリコバクター学会の改訂ガイドライン(関連トピックス参照)で「除菌が勧められる疾患」(Aランク)に位置づけられた胃MALTリンパ腫。除菌により7割以上の患者で完全寛解(CR)が得られるためだが、2割は除菌にまったく反応しない。愛知県がんセンター消化器内科の中村常哉氏らは、115人の胃MALTリンパ腫患者を対象とした多施設共同研究で、腫瘍にある特定の遺伝子が発現している場合、100%の確率で除菌に反応しないことを見出した。研究結果は、10月16日のシンポジウム「H. Pylori除菌療法の総括と新しい展開−適応・診断・治療−」で報告された。

 胃MALTリンパ腫は、胃にできた粘膜関連リンパ組織(MALT)の周辺部から発生するB細胞性リンパ腫。リンパ腫の中では比較的悪性度が低いが、抗癌薬が効きにくく、治療には外科切除や放射線療法が必要だった。

 胃MALTリンパ腫患者にヘリコバクター・ピロリ菌(H.ピロリ菌)の感染者が多いことは古くから知られていたが、10年前に、H.ピロリ菌を除菌すると胃MALTリンパ腫が消退することが報告。複数の症例報告により、7〜8割の患者ではH.ピロリ菌除菌だけで癌が寛解することがわかった。しかし、除菌治療に腫瘍が反応しない「不応例」が存在することも判明。除菌療法では半数に下痢などの副作用が出るため、事前に「除菌の意味がない」患者を判別する手法が模索されていた。

 中村氏らの研究グループは、胃MALTリンパ腫でよくみられる染色体異常の一つである、11番染色体−18番染色体間の転座、t(11;18)(q21;q21)に着目。この転座で生じる融合遺伝子API2-MALT1の発現の有無と、除菌による腫瘍縮小効果との関連を後ろ向き(レトロスペクティブ)に調べた。

 対象は胃MALTリンパ腫患者115人で、平均年齢は59歳、男性が半数強。19人(17%)が臨床病期2以上で、99人(86%)がH.ピロリ菌陽性だった。研究グループは、H.ピロリ菌感染の有無を問わず、全員に除菌療法を実施。平均30カ月の観察期間で、除菌療法への反応例と不応例を判定した。さらに、除菌前の生検標本を用いてAPI2-MALT1遺伝子の発現の有無を調べ、除菌治療に対する反応性との関連を評価した。

 その結果、API2-MALT1遺伝子が発現していなかった94人では、うち72人(76%)がH.ピロリ菌除菌によって腫瘍が寛解したことが判明。一方、API2-MALT1遺伝子が発現していた21人(全体の18%)では、H.ピロリ菌除菌に反応した人が一人もおらず、すべて不応例であることがわかった。

 API2-MALT1陰性で除菌療法に反応した72人は、全員がH.ピロリ菌陽性で、9割は臨床病期が1期。API2-MALT1陽性の21人(全員が不応例)の場合、H.ピロリ菌の陰性例が半数を占め、男性や臨床病期2期以上の患者が比較的多かったが、高悪性度成分を持つ人は少なかった。残りの「API2-MALT1陰性だが治療に反応しなかった」22人の場合、進達度が深い隆起型の病変を持つ人が多く、臨床病期は2期以上で、高悪性度成分を持つ例が多かった。この層のH.ピロリ菌陽性率は比較的高く、4分の3で陽性だった。

 以上から中村氏は「API2-MALT1が陰性でH.ピロリ菌が陽性、癌の進達度が浅く(smまで)、臨床病期が1期の胃MALTリンパ腫には除菌療法が有効。一方、18%を占めるAPI2-MALT1の陽性例は、除菌治療には反応しない」と結論。最後に残った「API2-MALT1が陰性だが除菌治療に反応しない群」には、病態に「API2-MALT1以外の遺伝子異常が関与している可能性があり、今後解明が必要だ」と話した。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.10.17 DDW-Japan 2003速報】保険重視からエビデンス重視へ−−H.ピロリ菌診療ガイドライン改訂版の骨子が紹介

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