2003.10.16

【DDW-Japan 2003速報】 保険重視からエビデンス重視へ−−H.ピロリ菌診療ガイドライン改訂版の骨子が紹介

 今年2月に学会誌上で発表、6月の学術集会で会員にお披露目された日本ヘリコバクター学会のヘリコバクター・ピロリ(H.ピロリ菌)診療ガイドライン改訂版の骨子が、10月16日のシンポジウム「H. Pylori除菌療法の総括と新しい展開−適応・診断・治療−」で紹介された。シンポジウムのタイトル通り、H.ピロリ菌除菌の適応症、H.ピロリ菌感染の診断と、H.ピロリ菌の推奨除菌法のそれぞれについて、日本ヘリコバクター学会の「H. Pylori感染の診断と治療ガイドライン」作成委員3人が指定演者として登壇、新ガイドラインのポイントと留意点を紹介した。

適応症で「胃MALTリンパ腫」が新たにAランク入り
「EMR後胃」と「萎縮性胃炎」「胃過形成性ポリープ」もランクアップ


 「(2000年の旧ガイドライン発表から3年を待たずしての)短期間での改訂となったが、これは、当初のガイドラインの主目的が除菌療法の保険適応にあったため。今回の改訂では、保険に縛られない立場で、エビデンスに基づいた判断を行った」。こう話すのは、ガイドラインのうち「適応疾患」に関する改訂点を解説した、自治医科大学消化器内科の菅野健太郎氏だ。

 H.ピロリ菌感染との関連が示唆されている疾患は数多いが、ガイドラインでは、除菌の有用性を示すエビデンスの質と数、方向性と、臨床的な有用性の大きさを勘案して、適応をA〜Cの3段階で提示している。Aランクは「除菌が勧められる疾患」、Bランクは「専門施設での除菌が勧められる疾患」で、Cランクは「除菌治療の意義が検討中の疾患」になる。

 旧ガイドラインでAランク入りしていたのは、現時点で唯一保険が適用される、消化管潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)のみ。一方、改訂ガイドラインでは、胃に形成された粘膜関連リンパ組織(MALT)から発生した胃MALTリンパ腫も、Aランクの適応疾患と位置付けられた。旧ガイドラインでCランクだった「早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術 (EMR)後胃」と「萎縮性胃炎」「胃過形成性ポリープ」は、CランクからBランクへと格上げされたが、機能性胃腸症(functional dyspepsiaまたはnon-ulcer dyspepsia;NUD、関連トピックス参照)はCランクのまま留まった。

 今改訂でBランク入りした疾患のうち「EMR後胃」は、無作為化介入試験の中間解析で早くも除菌の有用性が示唆された(関連トピックス参照)、将来のAランク入りの最右翼。「臨床的な有用性(胃癌の再発抑制)は中程度だが、この無作為化試験でレベルの高いエビデンスが得られれば、さらに強い勧告が可能になる」と菅野氏は話した。

検査法には便中抗原測定が追加、「複数検査」の有用性も強調

 改訂ガイドラインの「診断」部分の要点を解説したのは、兵庫医科大学消化器内科の福田能啓氏。除菌治療を前提に感染診断を行い、除菌治療後4週間以上経過してから除菌判定を行うとの流れは旧ガイドラインと同じだが、感染診断や除菌判定に用いる検査法として、新たに便中H.ピロリ菌抗原測定検査が追加。旧ガイドラインに書かれていた、除菌治療前(感染診断)と治療後(除菌判定)の推奨検査はなくなり、六つの検査法のどれを用いてもよいとした。

 横並びで推奨された6検査は、生検組織を必要とする迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法と、生検組織が不要な尿素呼気試験、抗H.ピロリ菌抗体測定、便中H.ピロリ菌抗原測定。現時点で保険が使えるのは前5者で、複数の検査を行っても1検査分しか診療報酬の請求はできない。だが、「改訂ガイドラインでは、検査が複数であればあるほど診断精度が高くなる旨を明記した」と福田氏は述べ、現行の保険制度にとらわれずエビデンスを重視するとの立場を明確にした。

 六つの検査法のうち臨床現場で最も広く使われているのは尿素呼気試験で、精度と安全性の高さが評価されているが、口腔・消化管内ウレアーゼ産生菌の影響による偽陽性も問題となっている。福田氏は、尿素呼気試験の偽陽性を減らす具体策として、1.赤外分光測定を行う場合は息止め時間を10秒以上に、2.尿素としてコーティング錠(商品名:ユービット錠)以外を使う場合は服用後にうがいを、3.呼気は経鼻採取する、4.尿素はクエン酸水で服用し胃内pHを下げる−−との4点を提示した。また、プロトンポンプ阻害薬(PPI)にはH.ピロリ菌静菌作用があるため服用時には偽陰性が生じ得るが、便中抗原測定ならPPI服用の影響を受けないとのデータを示し、複数検査の有用性を強調した。

「オメプラゾール含む3剤併用療法」と「ランソプラゾールのパック製剤」を追加
二次除菌用としてメトロニダゾールを事実上推奨


 治療に関しては、今改訂で「保険適用治療薬」として、ランソプラゾール(LPZ;商品名:タケプロン)+アモキシシリン(AMPC;商品名:パセトシン、サワシリン、アモリンなど)+クラリスロマイシン(CAM;商品名:クラリス、クラリシッド)の3剤併用療法に加え、新たにLPZ+AMPC+CAMのパック製剤(商品名:ランサップ)と、昨年12月に保険適用されたオメプラゾール(OPZ;商品名:オメプラール、オメプラゾン)+AMPC+CAMの3剤併用療法が追加された。

 CAMの1日量は400mgと800mgの2用量が承認されている(OPZを含む3剤併用療法では800mgのみ)が、ガイドラインの「治療」部分の解説を行った大分医科大学内科の村上和成氏は「欧米とは異なり、わが国で行われた臨床試験ではCAM400mgと800mgの除菌率に有意差は認められない」と指摘。下痢や軟便などの副作用は明らかに低用量の方が少ないことを示し、CAM1日量は400mgで十分であることを印象付けた。

 除菌療法で大きな問題となっているCAM耐性菌(関連トピックス参照)対策に関し、改訂ガイドラインでは「補足」としてメトロニダゾール(MNZ;商品名:フラジールなど、PPI、AMPCと組み合わせて用いる)の有用性を追記、事実上CAM代替薬として推奨している。保険では除菌失敗例の再除菌として、初回除菌とまったく同じプロトコール(LPZまたはOPZ+AMPC+CAM)のみが認められているが、現実には十分な効果が得られないためだ。村上氏は「二次除菌法の確立と保険適応が必要」と強調、薬剤耐性の現状を把握するため、全国規模の耐性菌サーベイランスが進行中であることを紹介した。

 なお、メトロニダゾールを含む3剤併用療法は、二次除菌での除菌率は良好だが、元々は抗原虫薬であるうえ発癌作用の報告もあり、「現状では保険適用は難しい」と村上氏は話す。シンポジウムの司会を務めた大分医科大学総合診療部の藤岡利生氏は「日本化学療法学会から、メトロニダゾールを除菌治療薬として承認すべきとの意見書を厚生労働省に送付している」と、保険適用に向けた具体的な動きがあることを明らかにした。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2002.1.28 日本心療内科学会速報】難治性NUDに三環系抗うつ薬が奏効
◆ 2003.9.29 日本癌学会速報】EMR後のピロリ除菌、初の無作為化介入試験の中間解析で前向き結果
◆ 2002.4.27 日本消化器病学会速報】ピロリ菌の除菌療法、CAM耐性菌の増加が大きな問題に

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