2003.10.16

【DDW-Japan 2003速報】 今こそ求められる医療事故の予防、学会主導で患者本位の安全対策を−−消化器病学会会長講演より

 ここ数年で医療事故や医療過誤による訴訟件数が急増、刑事事件化されるケースも増えているなか、10月15日の日本消化器病学会会長講演「消化器領域のリスクマネジメント」では、同学会今期大会の会長を務める獨協医科大学消化器内科教授・附属病院長で弁護士の寺野彰氏が登壇。医療事故を巡る情勢を概説した後、患者中心という立場から、医療事故防止に向けた具体策を提言した。

 寺野氏はまず、医療事故・医療過誤訴訟がわが国でもここ数年で急増しており、消化器関連では大腸内視鏡や内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)、内視鏡的粘膜切除術 (EMR)、腹腔鏡下手術などで医療事故が多いことを提示。さらに、消化器関連ではないが、今年9月に東京慈恵会医科大学青戸病院の医師3人が逮捕、奇しくも会長講演の当日(10月15日)に起訴された医療過誤事例(腹腔鏡下手術のミスによる前立腺癌患者死亡事件)を例に挙げ、このような事故・過誤を防ぐためにどのような対策を採るべきかを考察した。

 この事例の背景にはまず「技術の未熟性」があり、その意味で現行の専門医制度には欠陥があると寺野氏はみる。また、前立腺癌への腹腔鏡下手術の応用はいまだ「先端医療」であり、どの医療機関・医師でも安全に行える手技ではない。

 こうした点を踏まえ、寺野氏は「学会のあり方」として、1.知識のみでなく技術をも含めた認定医・専門医制度を確立する、2.患者の安全確保に関するカリキュラムを開発、医療研修・資格認定の要件に組み入れる、3.分院などのあり方も含め、認定指導施設制度を厳格化する、4.先端技術については施行施設と実施医を制限する−−の4点を提言。特に先端医療に関しては、学会主導で施設や医師を限定、併せてトレーニングシステムを構築し、ガイドラインやマニュアルを整備、講習会を開催すべきとした。

 もっとも、青戸病院での手術ミス事例については、寺野氏は専門医制度などのシステム上の問題というより、医師の倫理感の欠如が主因だと捉えている。

 寺野氏は大阪大学の前身である適塾を開設した蘭学医、緒方洪庵が翻案した「医戒」の一節に、「其術を行ふに当ては、病者を以て正鵠とすべし。決して弓矢となすことなかれ。固執に僻せず、試験を好まず、謹慎して、びょう看細密ならんことをおもふべし」と書かれていることを紹介。「(前立腺癌の腹腔鏡下手術で大量出血を起こし)自分の限界を知った時、ただちに開腹手術に移っていたら、あのようなことにはならなかった」と述べ、実験的な先端技術に固執するあまり、病者を弓矢(試験台)としてしまわないよう、会場に広く呼びかけた。

「異状死」届出の目的は死因の解明、外科系学会の指針は“誤解に立脚”

 さらに寺野氏は、近年増加している医療事故の刑事事件化に関し、様々な議論を呼んでいる「異状死の届出制度」に言及。医療界では「医療事故の摘発(刑事事件化)につながる恐れがある」とみなす声が多く、昨年春の日本消化器病学会講演でも取り上げられた「異状死の届出」制度の解釈には様々な誤解があり、解釈論と立法論を混同すべきではないと述べた。

 異状死の届出(異状死体検案時の24時間以内の届出義務)は、医師法第21条で規定されており、違反した場合には罰則がある。この「異状死」の解釈を巡っては、日本法医学会が1994年、「診療行為に関連した予期しない死亡(疑い含む)」を包含した「死因が明らかでない死亡」はすべて異状死として扱うべきとするガイドラインを発表。これが“犯罪捜査への協力”になり“医療事故の刑事事件化”につながるとして、外科系学会を中心に批判が続出した。そして、2001年には外科系13学会が共同声明を発表、2002年9月にはうち10学会の学会内指針として、「異状死」に関する独自の判断を提示したとの経緯がある。

 外科系学会指針の特徴は、「異状死」として届け出るケースを、診療関連の死亡のうち1.医療過誤が明白または強く疑われる、2.医師以外の診療関係者が過誤の存在を確認できる、3.医療過誤以外で死因が十分に説明できない−−ものに限定したこと。それ以外のケースも含め患者の家族に死因について十分に説明することや、死亡に至らなかった場合でも重大な傷害を患者が負った場合は同様の基準で警察に届け出ることも盛り込まれている。

 この指針について、寺野氏は「異状死の届出制度の目的はあくまで死因を明らかにすることであり、(医療過誤の摘発につながるとの見方や、死亡に至らないケースまで届出対象にすることは)法的に考えれば拡大解釈と言わざるを得ない」と指摘。法医学会ガイドラインへの批判の根拠としてしばしば挙げられた、「罰則規定を伴う異状死の届出義務は憲法第38条(黙秘権=不利益な供述の強要禁止)に違反する」との解釈も誤解に基づくものであり、いかなる場合でも黙秘権は保証される上、憲法第31条(法定手続の保障:罪刑法定主義=法律の定める手続きによらなければ刑罰を科せられない)の保護は必ず受けられるのであるから、法を遵守してすみやかに届け出るべきと論じた。(内山郁子)

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