2003.10.11

【日本骨粗鬆症学会速報】 男性ホルモンが直接骨代謝に寄与、マウス実験で解明

 男性ホルモンの骨代謝に対する作用には、女性ホルモンへの変換を経るルートのほか、直接骨代謝に関わるルートがある−−。長らく謎だった「骨代謝における男性ホルモンの役割」が、マウスを使ったエレガントな実験で解明された。この研究は、今年8月にProceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)誌上で発表、世界的に大きな注目を集めた(PNAS;100,9416,2003)。研究を行った東京大学医学部整形外科の河野博隆氏が、10月10日のシンポジウム3「男性ホルモンと骨」で、研究の概要を解説した。

 女性より男性の方が骨密度が高く、骨粗鬆症が少ないことを考えると、男性ホルモンが骨代謝に何らかの影響を与えていることは自明のことのように思える。しかし、事はそう単純ではない。男性ホルモンの一部は、生体内で女性ホルモンに変換される。骨代謝への作用がこの「変換」を経てからなのか、変換されないまま直接作用するルートがあるのかは、長らく不明のままだった。

 男性ホルモンを女性ホルモンに変換する酵素(アロマターゼ)を働かなくしたマウスでは、骨量が維持されない。つまり、男性ホルモンが「女性ホルモンに変換されてから骨代謝に作用する」というルートは確実にある。だが、女性ホルモンの受容体(ER)を発現させないようにしたマウスでは、予想に反し骨量が少し減る程度だ。このデータは、上記のルートのほかに、男性ホルモンの形のまま直接作用するルートがあることを示唆している。

 そこで河野氏らは、男性ホルモンの受容体(AR)を発現させないようにした、男性ホルモン受容体遺伝子のノックアウトマウス(ARKOマウス)を作製、この「第2のルート」の解明に取り組むこととした。AR遺伝子はX染色体上にあり、ARKOマウスの雄は生殖能を持たないため、河野氏らはAR遺伝子を特定の配列(loxP配列)ではさんだ“時限爆弾”の形で雄の組み換えマウスを作製。変異遺伝子をヘテロで持つ雌マウスと交配した後に、loxP配列で挟まれたAR遺伝子を切り出す酵素を持つマウスとさらに交配するという方法で(Cre-loxPシステム)、通常の方法では作製が難しいARKOの雌マウスも作製した。

 マウスも人間と同様、雄の方が雌より骨密度が高い。ところが、ARKOマウスの雄では、野生型の雄だけでなく野生型の雌マウスよりもさらに骨密度が低かった。一方、ARKOマウスの雌の場合、骨密度は野生型の雌マウスとほとんど変わらなかった。つまり、ARKOマウスの場合、雌にはARノックアウトの影響がほとんど現れず(骨量は主に女性ホルモンルートで維持されており)、雄にのみ大きな影響が出たわけだ。ARKO雄マウスは性腺形成が不十分で血中の男性ホルモン濃度が低いが、骨では皮質骨と海綿骨の両方が減少しており、骨吸収マーカー、骨形成マーカーのいずれも野生型マウスより上昇するという「高回転型の骨量減少」が起こっていた。

 培養細胞を使った実験からは、意外なことに、男性ホルモンが骨吸収を司る破骨細胞に直接は作用していないことがわかった。男性ホルモンは骨形成を司る骨芽細胞にのみ作用しており、骨芽細胞の持つ破骨細胞形成支持能を抑制することで、骨吸収を抑制していた。

雄マウスでは男性ホルモンの直接・間接寄与比はほぼ1対1

 次に河野氏らは、ARKOと野生型の雄マウスから、性腺を除去した後に男性ホルモンを補充して、骨密度を比較した。性腺を除去する前は、野生型マウスの骨密度の方がARKOマウスよりはるかに高かったが、去勢して内因性の男性ホルモンが分泌されないようにすると、男性ホルモン受容体をもともと欠くARKOマウスでは骨密度がわずかに下がっただけだったが、野生型マウスではARKOマウス並みに骨密度が低くなった。

 ここに男性ホルモンを補充すると、面白い現象が現れた。両マウスとも骨密度が上昇したが、その上昇幅は野生型がARKOのほぼ倍だったのだ。男性ホルモンと(男性ホルモンが変換してできる)女性ホルモンの両者を利用できる野生型マウスと、男性ホルモンを直接は利用できないARKOマウスとで差が2倍になったわけで、マウスでは男性ホルモンの直接的な寄与分と間接的な(女性ホルモンに変換されての)寄与分がほぼ1対1であることがわかった。

 以上から河野氏は、女性ホルモンへの変換を経るルートのほかに、男性ホルモンが直接、骨量の維持に関与するルートがあり、マウスの場合その寄与分はほぼ1対1であると結論。雄マウスでは男性ホルモンと女性ホルモンの両方で骨量を維持するのに対し、雌マウスでは主として女性ホルモンだけで骨量が維持されており、このことが骨量の性差の原因となっている可能性があると述べた。(内山郁子)

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