2003.10.11

【日本骨粗鬆症学会速報】 ビタミンDが高齢者の転倒を4割減少、Ca製剤の併用で転倒による骨折も予防−−特別講演より

 10月10日の特別講演「Vitamin D and Muscle Function: Effects of Vitamin D on Falls as an Additional Aspect of Vitamin D Therapy in the Elderly」には、ドイツ臨床骨学研究所(Institute of Clinical Osteology)のMichael Pfeifer氏が登壇。世界的に再評価が進む「ビタミンDの骨折予防作用」、なかでも高齢者の転倒予防に対する作用に焦点を当て、自験例も交えて現在までに得られているエビデンスをわかりやすく解説した。

 骨折予防は古くから注目されたビタミンDの効果の一つで、日本を含め世界各国で数多くの疫学研究や介入研究が行われてきた。疫学研究では、血中のビタミンD濃度が低い人で骨折が多いことがほぼ一貫して提示。しかし介入研究では評価が定まらず、長く“忘れ去られた”状態になっていた。

 この状況を一変したのが、1992年にNew England Journal of Medicine誌に掲載された一編の論文。約3300人の高齢者を対象にしたプラセボ対照二重盲検試験で、活性型ビタミンD3製剤とカルシウム(Ca)製剤を併用した人では、プラセボ服用者より「骨密度の増加はわずかなのに骨折が減った」ことが示された(NEJM;327,1637,1992)。「この論文の登場で、骨折予防におけるビタミンDの再評価が始まった」とPfeifer氏は述べる。

 さらに、1997年にNEJM誌に掲載された別の研究が、ビタミンDの骨折予防に対する作用に新たな観点をもたらすことになった。約400人の高齢者を対象にプラセボ対照でビタミンD−Ca併用療法が骨折を減らすことを示した研究だが、腕や足など「転倒により骨折しやすい部位」で、特に減少効果が著しかったのだ(NEJM;337,670,1997)。その時点で、体のバランスが悪い(立位での揺れが大きい)と転倒リスクが高いことや、立位での揺れの大きさは骨密度や大腿四頭筋強度とは独立した骨折の危険因子であることが、既に報告されていた。

 ビタミンDには骨強度の増強や骨代謝回転の正常化など、骨代謝に対する直接的な影響のほかに、体のバランスに対する作用もあるのではないか−−。そう考えたPfeifer氏らは、血中ビタミンD(25OHD)濃度と立位での揺れの大きさ(揺れ速度:mm/秒)との関連を、閉経後女性237人を対象に調べた。すると、両者には負の相関があり、血中ビタミンD濃度が高い女性ほど体のバランスが良いことがわかった(Exp Clin Endocrionol Diabetes;109,87,2001)。

 そこでPfeifer氏らは、高齢女性を対象とした介入試験を実施。70歳以上の148人を無作為に2群に分け、Ca製剤のみ、またはビタミンDとCa製剤との併用を3カ月続けた後、1年間追跡して揺れ速度や転倒に対する効果を比較した。

 介入の時期は3月から5月で、緯度の高いドイツでは血中ビタミンD濃度が最も低い季節だ。介入開始時の25OHD濃度は、両群とも25mmol/ml前後。介入終了時は日照時間の増加を反映して、Ca製剤のみを服用した群でも25OHD濃度は40mmol/ml程度に増加、Ca製剤とビタミンD製剤を併用した群では65mmol/ml程度にまで増加した(両群に有意差あり)。つまり、前者での増加分は主に日照によるもので、前者と後者の増加分の差がビタミンD製剤の服用効果となる。

 介入前後での揺れ速度は、Ca製剤のみを服用した群でも、日照によるビタミンD量増加を反映してかわずかに減少したが、Ca製剤とビタミンD製剤を併用した群では有意な減少が認められた。そして、1年間の追跡期間中における平均転倒回数や、1回以上転倒した人の比率は、いずれもCa−ビタミンD併用群で大幅に少なかったのだ(J Bone Miner Res;15,1113,2000)。

 その後、Pfeifer氏らの研究結果を支持する複数の介入試験結果が相次いで発表された。今年9月の米国骨代謝学会(ASBMR;American Society for Bone and Mineral Research)では、Pfeifer氏らの研究を含む4臨床試験のメタ分析結果が報告。ビタミンD単独、またはビタミンDとCa製剤との併用で、高齢者の転倒リスクが相対的に41%有意に減少する(95%信頼区間:0.34〜0.81)との結果になった。

 興味深いことに、4試験の一つでビタミンD製剤のみを用いたスイスの男性対象研究(Dukas L. et al Osteologie;12(suppl1),abstractFV6.1,2003)では、転倒は抑制されたが転倒による骨折は減らなかった。このことからPfeifer氏は「ビタミンD製剤は転倒を予防できるが、転倒による骨折を予防するには、Ca製剤の併用などにより血中Ca濃度が十分高い必要があるのでは」とみている。

ビタミンDによる転倒予防効果、筋力増強作用が主体か

 それでは、ビタミンD製剤を服用すると、なぜ転倒が減るのだろうか。Pfeifer氏はその作用の主体が「筋力増強作用」にあるとみており、根拠としてイスラム教徒の女性を対象にデンマークで行われた臨床研究を挙げる。

 イスラム教徒の女性は黒いベールで全身を覆っており、デンマークのような高緯度地域では特に、日照不足から極端なビタミンD欠乏状態になりやすい。研究は血中25OHD濃度が20mmol/ml未満というビタミンD欠乏症のイスラム女性に、6カ月ビタミンD補充を行うというものだったが、補充療法に伴い筋力の増強が確認されたのだ(Calcif Tissue Int;66,419,2000)。

 もっとも、ビタミンDの筋力増強効果に関しては否定的な報告もある。例えば1991年に発表された論文では、高齢男女約100人に活性型ビタミンD製剤を6カ月投与したが、筋力の増強作用はまったく認められなかったと報告されている(J. Clin Endocrionol Metab;73,1111,1991)。しかしPfeifer氏は「この研究は、日照時間が長い米国California州で行われたもの。参加者の多くは血中の25OHD濃度が60mmol/mlを超えており、ビタミンD欠乏状態ではなかったため、効果が出なかったのでは」とみる。

 ビタミンDの筋力増強作用には、ビタミンDが1.筋のATP依存型カルシウム取り込みを増強、2.アクチンやトロポニンCなどの収縮蛋白を増やす、3.筋細胞内のATP及びリン酸濃度を増やす−−などの分子生物学的な裏付けもある。Pfeifer氏は最後に「併設の診療所で10〜11年前から(骨折既往者などへの)リハビリテーションを開始している。転倒防止において筋力などの筋機能を過大評価はできないが、大腿四頭筋の強度は治療プログラム上大きな意味を持つ」と延べ、臨床経験からも筋力を軽視すべきではないと強調した。(内山郁子)

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