2003.10.01

薬剤溶出ステント、細血管の長病変でも狭窄抑制効果が確認−−E-SIRIUS試験より

 9月の欧州心臓学会(ESC)で発表され、大きな注目を集めた「E-SIRIUS」試験の原著論文が、9月30日にLancet誌ホームページ上で早期公開された。細胞増殖抑制効果を持つシロリムス(ラパマイシン、本邦未開発)を塗布したステントと、普通のステント(ベアステント)の比較試験だが、特徴は、従来ステントでは十分な再狭窄抑制効果が得られない「細血管の長病変」を対象としたこと。ステント留置8カ月後の最小径、9カ月後の再拡張施行率はいずれも、シロリムス溶出ステントで有意に改善された。

 「E-SIRIUS」試験の正式名称は、European multicenter, randomized, double-blind study of the SIRolImUS-coated Bx Velocity balloon-expandable stent in the treatment of patients with de novo coronary artery lesions。シロリムス溶出ステントの大規模試験「SIRIUS」(関連トピックス参照)が米国で行われたのに対し、こちらは欧州35施設で行われた無作為化二重盲検試験だ。不安定狭心症または無症候性虚血があり、病変のある冠動脈の直径が2.5〜3.0mmと細く、病変の長さも15〜32mmと比較的長い冠動脈狭窄患者352人を対象とした。

 対象患者の平均年齢は62歳、7割が男性で、2割強が糖尿病、6割強が高血圧、7割強が高脂血症を合併している。4割に心筋梗塞の既往があり、4割強がクラス3〜4の狭心症だった。病変のある冠動脈数は、64%が1枝、22%が2枝、14%が3枝。臨床試験では1病変のみを介入対象としたが(介入冠動脈に群間の差なし)、介入病変のある冠動脈径は平均2.55mmで、病変長は平均15.0mmと記されている。

 こうした患者背景の大半に群間の差はなかったが、冠動脈径はシロリムス溶出ステント群(175人)が2.60mm、ベアステント群(177人)が2.51mmと、有意にシロリムス溶出ステント群で大きかった(p=0.025)。また、糖尿病の合併率も、19%対27%でシロリムス溶出ステント群に少ない傾向があった(p=0.08)。

 介入に用いたステントの大きさは、直径3.0mm・長さ18mmと、直径2.5mm・長さ8mmの2種類。両群ともほぼ半数の患者で複数のステント留置が必要になった。手技は施設により異なり、患者の4分の3は前拡張を受け、4分の1には直接ステントが留置された(ダイレクト・ステンティング)。なお、ESCでは前拡張の有無による比較も発表されたが、今回の論文には記載されていない。

 1次評価項目である「8カ月後の最小血管径」は、シロリムス溶出ステント群が2.22mm、ベアステント群が1.33mmで、シロリムス溶出ステント群で有意に大きいことが判明(p<0.0001)。ステント留置直後の最小血管径からの縮小幅は0.20mm対1.05mmで、新生内膜による血管内径の縮小(後期血管内径損失、late loss)は相対的に81%抑制された(p<0.0001)。

 また、病変部に50%以上の再狭窄が認められた患者の比率は、シロリムス溶出ステント群が5.9%、ベアステント群が42.3%と大差が付いた(p<0.0001)。部位別では過去の臨床試験と同様、近位端で狭窄抑制効果が少ない傾向がみられたが、有意な差は現れた(2.1%対8.8%、p=0.018)。9カ月間の複合心イベント(MACE;総死亡+心筋梗塞+バイパス術の施行+標的病変への再灌流療法の施行=TLR)発生率は8.0%対22.6%で、シロリムス溶出ステント群で有意に少なかった。この差は主にTLR(4.0%対20.9%)によるものだった。

 MACEの構成要素のうち総死亡と心筋梗塞はシロリムス溶出ステント群で多い傾向があった(順に二人対一人、8人対4人、いずれも有意差なし)が、ごく少数例であることから研究グループは偶然によるものとみており、「直径3mm以下の冠動脈の、長い動脈硬化病変に対しても、シロリムス溶出ステントによる治療はベアステントより優れる」と結論付けている。

 今回評価されたシロリムス溶出ステントは、「CYPHER」との商品名で既に欧米では市販されており、わが国では来年にも承認される見込みだ。日本の臨床現場では「全例に使いたい」という声がある一方、「狭窄リスクが高い細血管の長病変のみに使いたい」との意見もあり(関連トピックス参照)、「E-SIRIUS」で「細血管の長病変」に対する効果が示されたことは大きな意味を持つ。ただし、従来のステントと同様の内外価格差が保持されるならば、1本100万円ほどと高額になってしまい、保険診療を前提とした治療が難しくなる恐れがある。

 また、再狭窄リスクは血管径や病変長に加え、糖尿病や高脂血症の有無などによっても左右されると考えられている。過去の薬剤溶出ステントの臨床試験論文には記載されていないが、こうした患者背景別の「サブ解析」も、薬剤溶出ステントの留置で利益を受ける、あるいはベアステントでも差し支えない患者の絞り込みに役立つはずだ。今後は、長期成績に加え、患者背景別の解析にも注目が集まるだろう。

 この論文のタイトルは、「Sirolimus-eluting stents for treatment of patients with long atherosclerotic lesions in small coronary arteries: double-blind, randomised controlled trial (E-SIRIUS)」。Lancet誌の購読者は、こちらから全文を入手できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2002.9.30 シロリムス溶出ステントの大規模試験「SIRIUS」が結果発表、総再狭窄を4分の1に抑制
◆ 2002.9.17 解説●新たな時代を迎えた冠動脈インターベンション

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