2003.09.26

【日本癌学会速報】 大腸癌予防効果をみるプラセボ対照無作為化試験、「J-FAPP」と「J-HNPCC-P」の進捗状況が報告

 家族性大腸腺腫症(FAP)や遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)患者・保因者を対象に、緑茶抽出物やニンニク抽出物の大腸腺腫発生予防効果をみるプラセボ対照無作為化試験の進捗状況が、9月26日のシンポジウム「がん化学予防の理論と実践:基礎研究から介入試験まで」で報告された。「無作為に割り付け、かつ対照群にはプラセボを用いる」という、日本では難しいとされてきた世界標準に合致する介入試験で、癌の化学予防に臨床的な価値の高いエビデンスをもたらすものとなりそうだ。

 これらの臨床試験を行っているのは、兵庫医科大学家族性腫瘍部門の石川秀樹氏(写真)を中心とする研究グループ。石川氏らは既に、約400人を対象に小麦ふすま・乳酸菌製剤の大腸癌予防効果をみる試験(関連トピックス参照)や、約200人を対象に運動の大腸癌予防効果をみる試験(近く結果発表予定)を完遂している。今回は、同グループが現在進行中のプラセボ対照2試験について、現時点での進捗状況が報告された。

FAP対象の緑茶試験「J-FAPP」は患者登録が完了、2005年にも結果が明らかに

 臨床試験の一つ「J-FAPP」は、FAP患者を対象とした2年間のプラセボ対照試験。介入に用いるのは緑茶抽出物「GTE」(関連トピックス参照)で、1日量は約1g(959.4mg)だ。緑茶10杯分に相当し、ポリフェノールが重量比で54%(エピガロカテキンガレート15.7%、エピカテキン3.8%)含まれている。この試験に用いる「GTE」からはカフェインが完全に除去されており、コンプライアンス(服薬継続性)の向上が期待できる。

 試験の参加者は、無作為に割り付けられた薬(「GTE」または外観がそっくりなプラセボ)を1日3回食後に服用する。さらに、食事指導(脂肪摂取量の適正化)と運動指導(乳酸上昇閾値=LTレベルの運動)を全員に対して行う。1次評価項目は直腸腺腫の変化で、介入前と介入2年目の大腸内視鏡像(色素散布下で挿入20cmから1cm抜去ごとに撮影)を、盲検状態で内視鏡写真判定委員会が「増加」「不変」「減少」で判定する。

 試験対象は、16歳以上で直腸が残存しており、臨床的にFAPと診断された人、または遺伝子診断でFAPの原因であるAPC(adenomatous polyposis coli)遺伝子の変異があることが判明した人。患者会の協力も得て今年9月までに94人に参加を呼びかけ、81人(86%)が参加した。目標登録者数は100人で、やや少なめとなったが、この段階で患者登録を終了。試験は2005年9月に完了する予定だ。

HNPCC対象の「J-HNPCC-P」、ニンニクエキスの細胞性免疫賦活作用に期待

 一方の「J-HNPCC-P」は、HNPCC患者を対象にした2年間のプラセボ対照試験。試験方法や一次評価項目は「J−FAPP」とほぼ同一だが、介入に用いるのは、アルコール漬けにして熟成させたニンニクの抽出物(湧永製薬製)だ。

 熟成ニンニク抽出物が選ばれた最大の理由は、HNPCCの発癌メカニズムに細胞性免疫の関与が示唆されていること。末期癌患者を対象とした無作為割付試験で、熟成ニンニク抽出物を服用した人では細胞性免疫が賦活化される(ナチュラルキラー=NK細胞活性の低下が抑制される)ことが示されている。さらに、ニンニク大量摂取者に大腸癌が少ないとの疫学研究があり、動物モデルで大腸癌予防効果も示されているという。

 HNPCCはミスマッチ修復遺伝子の変異に起因しており、常染色体優性形式で遺伝する。この遺伝子変異があると、大腸のほか胃、小腸、子宮、腎臓など様々な部位に、比較的若年で癌を発症しやすい。日本には6万〜10万人の保因者がいると考えられており、浸透率(遺伝子変異を持っている人が関連癌を発症する確率)も男性で約90%、女性で約80%と高い。

 石川氏らはこの1年半で、家族(両親、兄弟、子供)に大腸癌や子宮体癌などHNPCCで起こりやすい癌患者が3人以上おり、うち少なくとも一人は50歳未満で発癌している、25歳以上の55人に面会。HNPCCであることが確定した44人のうち、近く大腸内視鏡検査が予定されている29人に試験への参加を要請、23人(79%)から同意が得られた。来年9月までに100人を登録することを目標にしており、順調に行けば、2006年9月に試験を完了する予定だ。

 「緑茶」も「ニンニク」も抽出物、つまり多成分の混合物であり、目的も治療ではなく予防であることから、現行法では仮に効果が認められても医薬品として承認されることはあり得ない。一方、「奇跡の○○」「○○癌が治った!」などのキャッチフレーズで喧伝されている既存の健康食品に、プラセボ対照二重盲検試験で癌に対する効果が確認されたものは一つも無い。そうした“根拠が希薄な”健康食品と、医薬品並みの水準で有効性と安全性を確かめた健康食品、その中間に位置する既存の特定保健用食品(最も良い結果がでた数十人規模の1試験報告で承認される)との違いを、消費者・患者がどれだけ認識できるのか−−。石川氏らの取り組みは、「健康食品」の位置付けを、今後大きく組み替えるものとなるかもしれない。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2002.10.2 日本癌学会速報】小麦ふすま・乳酸菌は大腸癌を予防するか?、注目の長期介入試験が結果発表
◆ 2002.10.2 日本癌学会速報】「緑茶1日10杯」で癌再発予防、“埼玉方式”で介入試験がスタート

Information PR

ログインしていません

Close UpコンテンツPR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. レセプト査定される糖尿病処方、教えます 岩岡秀明の「糖尿病診療のここが知りたい!」 FBシェア数:162
  2. 病像の変化で糖尿病腎症から糖尿病性腎臓病に 特集◎生活習慣病 7つの新常識《5》 FBシェア数:177
  3. 五輪でドーピング…主訴「薬を盛られた?」 薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」 FBシェア数:24
  4. 刃物を持ってくる患者の「予兆」を見逃さないで 院内暴力・セクハラSOS FBシェア数:119
  5. 外科医の寿命を延ばすロボット手術が保険適用に 中山祐次郎の「切って縫うニュース」 FBシェア数:166
  6. いつから、何を使って、どれくらい勉強する? 総合内科専門医試験 「一発合格」への道 FBシェア数:72
  7. 一過性の意識消失で救急搬送された80歳代女性 カンファで学ぶ臨床推論 FBシェア数:0
  8. 肝臓癌で余命半年と宣告された認知症患者 短期集中連載◎重度の認知症患者を診るということ(3) FBシェア数:36
  9. 血糖管理は点から線へ、FGMで変動を調べよ 特集◎生活習慣病 7つの新常識《6》 FBシェア数:36
  10. 主な癌の5年生存率を国際比較 Lancet誌から FBシェア数:28
医師と医学研究者におすすめの英文校正