2003.09.12

スギ薬局に見る「理想の薬剤師」の資質とは

 9月15日号「日経ビジネス」で、ドラッグストアの躍進ぶりを特集した。

 流通業として見たドラッグストアは、今最もホットな業態の一つである。高齢化に伴う健康ブームと化粧品業界の好調を追い風にできた幸運もさることながら、毎月新製品が500〜600品目も発売され、日々変化する店頭から最新のトレンドが発信される。それが感度の高い消費者、特に女性を惹きつけ、店は活気を帯びて売り上げが伸びる。ドラッグストアは、そうした好循環のまっただ中にいる。

 その一方でドラッグストアで働く薬剤師は品出し、レジ打ちといった一般業務に追われ、顧客の服薬指導や健康相談に応じるといった薬剤師本来の役割を果たせていないという批判も根強い。病院や製薬会社に務める薬剤師との間には、門外漢にはうかがい知れない「厚い壁」があるのだが、という話も耳にした。確かに都心部で大繁盛しているドラッグストアの薬剤師については人材不足が恒常化しており、必ずしも質の高い人材が配置されているというわけではない。

 しかし、特集の取材を通じて痛感したのは、「ドラッグストアの薬剤師こそが今後、医療従事者として最も価値ある役割を果たし得る人々である」ということだった。そう思ったきっかけは、愛知県を中心に約200店を展開するドラッグストア、スギ薬局の取材だった。

地域医療の実践と学問的成果の追究の両立目指す

 詳しくは特集記事をお読みいただきたいが、同社は全店に調剤薬局を併設し、近隣住民にとって文字通り「かかりつけ薬局」となることを目指している。医薬分業率が低く門前薬局の少ない地域にあらかじめ集中出店し、院外処方が始まったところで地域の調剤需要を総取りするなど、その事業戦略は非常に完成度が高い。株式市場での同社の評価が極めて高いのも、うなずける。

 しかし筆者が本当に感心したのは、スギ薬局の薬剤師教育プログラムの内容と、その狙いだった。

 同社は丸2年かけて教育プログラムを自社開発し、それを修了した薬剤師に3等級の資格とバッジを与えている。その内容は一言で言えば「地域医療を担う薬剤師として持つべき職能」(取締役の荒井恵二氏)を網羅したものだ。保険調剤の知識だけではない。各種ハーブ、アロマテラピーの効用や相互作用から運動療法、介護用品の使い方からCAPD、HPNなどの在宅医療の実践、そして顧客とのコミュニケーションの取り方や専門的なカウンセリングの手法までが含まれる。

 スギ薬局の薬剤師は、日々の店舗勤務でのOJTとこうした教育プログラムの両方を通じて、彼らが言うところの「社会薬学(Social Pharmacy)」を追究する。プログラムを修了した薬剤師はヘルスケア、在宅医療などのテーマごとに研究会に入り、それぞれの観点から地域医療の拠点としてのドラッグストアのあり方を研究し、会社に提言するという。

 「当社の薬剤師にとって、店頭の棚管理やPOP作りから学会での研究発表まで、日常のすべてが医療者としての理想の追求のプロセス」。荒井氏は、地域医療の実践と学問的成果の追究を両立するドラッグストアこそが薬剤師の本領と強調する。将来は博士号を持つ研究者も育てたいというのが、同社薬事部の考えだ。

 こうした考えは、なにもスギ薬局に限ったことではない。地域に密着して面分業を実現した薬局・薬店には、多かれ少なかれ浸透しつつある。また、薬系大学の中にも、教授や学生を病院ではなく調剤薬局やドラッグストアで実習させる動きが出ているという。

 スギ薬局社長の杉浦広一氏は「米国では消防士と並んで、薬剤師こそが最も信頼し尊敬できる職業とされている」と話す。日本の薬剤師は今後、そこまでの信頼を国民から得ることができるのだろうか。そう考えれば、薬剤師には、医療関連の規制緩和の行方を案ずるよりも前に、しなければならないことがたくさんあるはずだと私は思う。
(川上慎市郎、日経ビジネス編集

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