2003.09.10

【日本心臓病学会速報】 細胞移植による心筋再生医療の課題は不整脈の誘発リスク、生理的異方性備えた細胞シートに期待−−会長講演より

 9月9日の会長講演「再生医療時代の不整脈・電気生理学」には、慶応大学呼吸循環器内科教授の小川聡氏が登壇。「細胞移植による心筋再生医療」が脚光を浴びているが、この治療法を電気生理学的に検証すると、催不整脈性という落とし穴があることを指摘。組織工学的な手法を組み合わせることで、不整脈リスクを回避できる可能性があるとした。

 「心筋細胞を移植することで心筋収縮力を増強しようとの試みは1990年代初頭から始まった。しかし、電気生理学的な観点からみた場合、依然として様々な問題が残っている」。冒頭、こう指摘した小川氏は、端的な例として骨格筋芽細胞の移植により不整脈が生じたとの臨床報告(JACC;41,1078,2003)を紹介した。

 この臨床研究はフランスで行われたもので、重症虚血性心筋症患者10人に、バイパス手術と同時に筋芽細胞8億個を移植。術直後に死亡した1人を除く9人中、実に4人に持続性の心室頻拍が発生、4人とも植え込み型除細動器(ICD)の挿入が必要になったという。

 骨格筋芽細胞では、活動電位幅が数ミリ秒と心筋細胞(約300ミリ秒)より狭いなど、活動電位という観点で心筋とはそもそも異なる。しかし、骨髄幹細胞や胚性幹細胞(ES細胞)由来の心筋細胞にも、同様の“催不整脈性”という問題があることを、小川氏らは以前から指摘してきた。

 例えばマウスの「CMG(cardiomiogenesis)細胞」(関連トピックス参照)から分化誘導した心筋細胞の場合、電気活動には通常の心筋と同様の「作業心筋型」のものと、ペースメーカーとして働く細胞と同様の「洞結節型」がある。分化初期(2週間まで)はほぼ100%が洞結節型で、4〜5週間成熟させると、3分の1が作業心筋型に変わる。

 分化初期の未成熟な心筋細胞には不整脈誘発リスクがあることを示すデータで、同様の現象はES細胞由来の心筋細胞でも確認されている。この問題を回避するには、1.移植細胞が成熟するまで抗不整脈薬で厳重に管理、またはICD植え込みを行う、2.十分に成熟してから移植する−−との二つの方法があるが、「後者の場合、成熟した心筋細胞では組織への生着率が低いとの問題がある」と小川氏は話す。移植時期の見極めが肝要になるわけだ。

 そこで浮上したのが、組織工学的な手法を応用した第三の回避策。心筋細胞を体外でシート状に育て、催不整脈性が高い分化初期の時期を体外でやり過ごした上、生理的な異方性(anisotropy)や正常な伝導特性を備えた心筋グラフトとして移植するというものだ。マウス細胞を使った実験では、東京女子医科大学の清水達也氏らが6mm四方の細胞シート作製に成功している(Biomaterials;24,2309,2003)。

 ポイントは、温度によって細胞接着性が変わる「温度感受性ポリマー」を培養皿に用いたこと。培養皿の上でシート上に育てた後、温度を下げることで、細胞間結合や接着因子を保持したまま剥離することが可能になった。出来上がった細胞シートの一部を重ねて培養すると、1週間で電気的結合が形成されることも確認された。

 ただし、重ね合わせた部位における細胞間結合が、必ずしもうまくいかないことも判明。細胞の並びを規則的にして生理的な異方性を持たせるための、より優れた技術開発も必要だという。こうした課題はあるが、細胞シートから作製した心筋グラフトの移植は、重症心不全に対する心筋再生療法として、細胞移植と並び有望ではないかと小川氏は話した。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.9.9 日本心臓病学会速報】ここまで来た「心筋再生」医療−−マウスで細胞株樹立、急性期にはサイトカイン治療も

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