2003.09.10

【日本心臓病学会速報】 日本人CAD既往者、脂質・血圧の厳格な管理による二次予防効果が示唆−−JCAD研究中間報告

 冠動脈疾患の既往者1万5000人を対象とした、わが国最大規模の前向き追跡研究「JCAD」(Japanese Coronary Artery Disease study)の中間解析データが、9月9日の一般口演で報告された。今回の中間解析では、登録から1年半後の脳心事故率が6.7%(急性心筋梗塞症例のみでは8.2%)と従来の日本人コホートより高く、JCADコホートには比較的ハイリスクな症例が集積されていることが判明。血清脂質や血圧が低くコントロールされている人では脳心事故発生率が低い傾向があることや、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β遮断薬の服用者で事故率が有意に低いこともわかった。

 この研究を行ったのは、わが国の循環器専門医約200人からなるJCAD研究グループ(代表世話人:東京大学大学院循環器内科・永井良三氏)。冠動脈硬化症患者の危険因子や管理状況、転帰などを経時的に調査することで、日本独自のエビデンスを集積し、エビデンスに基づく医療(EBM)に貢献することを目的にしている。最大の特徴は、冠動脈造影検査で冠動脈疾患との診断が確定した患者のみを登録していること(患者登録は発症時ではなく診断確定時に実施)。また、多施設参加の疫学研究として「ある程度の質を保ちつつ簡便に実施できる」という観点から、インターネットを使ったデータ登録を採用した点も大きな特徴だ。

 JCAD研究は、初期登録患者を半年間隔で3年間追跡し、転帰などの経時的な変化を調査する「追跡調査」と、定期的に追加登録した患者間で治療方法や危険因子の管理状況、転帰などを比較する「トレンド調査」の、二つの調査から構成されている。今回は、前者の「追跡調査」について、患者登録完了時から1年半後(2002年11月末日)の状況に関する中間解析データが報告された。

 追跡調査の総症例数は1万4488人。平均年齢は65.8歳で男女比は約3対1だ。中間解析時の平均追跡期間は421.1日(最大892日)で、その時点までの脳心血管イベント件数は1164件(976症例)に達した。イベント発症率は全症例で6.7%、急性心筋梗塞症例のみでは8.2%と高く、年当たりの発症率比較では開業医ベースのコホート研究「J-LIT」(Japan Lipid Intervention Trial、CAD既往者は5000人強登録、関連トピックス参照)の10倍近くになることがわかった。

 これほどの差が出た背景には、コホート追跡率やイベント把握率の違いなど様々な要因が考えられるが、結果を報告した東京大学大学院クリニカルバイオインフォマティクス(CBI)研究ユニットの山崎力氏は、この差異が、主に「『JCAD』には、よりハイリスクの症例が登録されているため」と説明する。「JCAD」研究登録者の冠危険因子保有率が、過去の日本人コホートで報告されている保有率よりも、喫煙率を除けば総じて高い傾向があるためだ。

 例えば高脂血症の場合、「JCAD」コホートでは男性の半数、女性の6割が罹患している(従来報告:19〜59%)。耐糖能異常(男女とも約4割)、高血圧(男性半数強、女性6割強)、肥満(男女とも3割強)も、従来報告(順に22〜29%、44〜65%、19〜27%)より高い傾向がある。循環器専門医による管理を受けている「JCAD」コホートの登録患者は、一般の冠動脈疾患患者より再発リスクが高いことが、イベント発症率と冠危険因子保有率の両面から裏付けられた格好だ。

専門医管理の「JCAD」コホートでも管理目標値到達は半数未満

 残念なことに、こうした冠危険因子に対する治療が極めて“お寒い状況”にあることも、今回の中間解析で明るみに出ることとなった。全員が循環器専門医の治療を受けているに関わらず、血清脂質値や血圧値、空腹時血糖値などが、登録時と1年半後とでほとんど変わらないのだ。これらの検査値が管理目標値に達している人の比率は、脂質、血圧、血糖のいずれも半数弱に過ぎない。しかも、脂質低下薬や降圧薬などの処方率は1年半で微増に留まっていることもわかった。

 「やはり日本人のエビデンスがないためか、欧米のデータに基づく“管理目標値”に賛同しない循環器専門医も少なくないようだ」と山崎氏はみるが、こうした検査値が低くコントロールされている人ほど、イベント発症率も低い傾向がある。「日本人データが不足しているとの批判にはうなずける点もあるが、解析結果をみる限り、やはり血清コレステロールや血圧は(欧米データに基づく目標値まで)下げた方が良いと言えるのではないか」と山崎氏は述べた。

 なお、中間解析で有意な予後因子として浮上したのは、年齢、耐糖能異常と高血圧、うっ血性心不全。薬物療法に関しては、こうした予後因子で補正後も、ACE阻害薬やβ遮断薬の服用者で有意に脳心血管イベントの発症率が有意に低いことが明らかになった。山崎氏は「今回はあくまでも途中経過」と注意を促しながらも、冠危険因子では脂質と血圧の厳格な管理、薬物ではACE阻害薬とβ遮断薬で、CAD既往者の再発予防効果が認められた点を強調。最終解析結果は、再発リスクが高いCAD患者を前向きに追跡した初の日本人エビデンスとして、今後の虚血性心疾患診療に大きな影響をもたらす可能性があるとまとめた。

 発表後の質疑応答では、現時点での追跡率を問う質問が出された。山崎氏は「半年後では80%。1年後では半分を切るが、これはネットを介した入力方法を取っているためで、未入力分も含む。最終的には3年間の追跡率が6〜7割になる見込みだ」と話した。また、脳心イベントの全報告例に対し、イベントの診断基準を改めて提示し、基準に合致しているかの再確認を現在進めていると述べた。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2001.6.11 日本動脈硬化学会速報】J-LIT研究会、冠動脈疾患の危険因子を層別化した「J-LITチャート」を作成

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