2003.09.09

【日本心臓病学会速報】 ここまで来た「心筋再生」医療−−マウスで細胞株樹立、急性期にはサイトカイン治療も

 心筋梗塞後の重症心不全治療に使える、“拍動する心筋細胞”の親細胞株を、マウス成体の骨髄幹細胞から樹立。心筋梗塞の急性期に対しても、サイトカイン治療を行うことで、梗塞巣のリモデリングを抑制できる−−。9月8日のシンポジウム1「21世紀の心臓病治療」では、細胞・サイトカインを用いた心筋再生医療研究に精力的に取り組む、慶応大学心臓病先進治療学講座の福田恵一氏が登壇。心筋再生医療研究の現状を紹介し、近い将来に「心筋再生医療」が現実のものとなることを伺わせた。

 心筋梗塞により心筋細胞が多量に壊死してしまうと、心臓がポンプ機能を果たせなくなり、重症の心不全に陥ってしまう。心臓移植以外に抜本的な治療手段がなかった、このような病態に対する切り札として期待されているのが、心筋細胞の移植だ。

 移植する心筋細胞の“原料”となるのは、万能細胞とも呼ばれる胚性幹細胞(ES細胞)や、成体の骨髄細胞中にもわずかに含まれる間葉系幹細胞。福田氏らは、成体マウスの骨髄細胞から、わずか0.05%しか含まれていない間葉系幹細胞を抽出。これを一段階分化させ、心筋細胞へと選択的に分化誘導できる「CMG(cardiomiogenesis)細胞」の細胞株(分化能を保ったまま増殖できる細胞)樹立に成功した。

 このCMG細胞に分化誘導をかけることで、自律的に拍動する心筋細胞が10〜30%の確率で誘導できる。拍動数は1分間に120〜250回で、心筋梗塞モデルマウスに移植したところ、周辺の細胞と一体化した形で、少なくとも数カ月は収縮能を保持したまま生着することが確認できた。CMG細胞は、いったん心筋に分化すると1週間程度で増殖が止まるため、移植部位で異常増殖する恐れもないという。

心筋細胞30〜50gを1000万円で作製可能、重症心不全治療の切り札に

 ただし、ヒトでは骨髄細胞からCMG細胞になる分画の同定まではできているものの、分化能を保ったまま長期間培養することには成功しておらず、「この点が課題」と福田氏は打ち明ける。もう一つの課題はコスト面だが、「ある企業とシミュレーションした結果、30〜50gの心筋細胞作製は技術的に可能で、コストも1000万円以内に収められそうだ」と福田氏は話す。

 心筋細胞が50gあれば、「例えば左室駆出率(EF)が20%といった重症の心不全患者に細胞移植を行うことで、5〜10%程度EFを向上できると考えられる。このような病態に対しては、EFが5〜10%上がるだけでも大きな貢献だ」と福田氏。心筋の自家細胞移植は、心臓移植並みのコストでドナーを待つことなく治療を受けられる、心臓移植に代わる現実的な選択肢として位置づけられることとなりそうだ。

 なお、移植細胞のもう一つの原料候補であるES細胞に関しては、他家移植となるため、拒絶反応の抑制が最大の課題。この点に関しては、遺伝子操作でヒト白血球抗原(HLA)を取り除くなどの解決策もあるが、「(個々人に応じた)様々なHLAの組み合わせを取り揃えた細胞バンクの確立が理想的」と福田氏は言う。わが国で唯一のES細胞株樹立承認施設である京都大学幹細胞医学研究センター(関連トピックス参照)では、今年5月にES細胞株の樹立に成功。10〜12月から、ES細胞使用承認施設に対する細胞の分配を開始する予定で、研究の進展が期待される。

G-CSFによる急性期治療にも期待、臨床応用に踏み切った施設も

 この細胞移植と並び、もう一つの有望な心筋再生医療として脚光を浴びているのが、サイトカインを用いる急性期治療。顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤(わが国での商品名:グラン、ノイトロジン、ノイアップ)を心筋梗塞急性期に投与すると、増加した骨髄細胞中に含まれる間葉系細胞が心筋の炎症・壊死部に泳いでいき、痛んだ心筋をその場で再生するというものだ。

 福田氏らは、急性心筋梗塞のモデルマウスを用いた実験で、心筋梗塞作製後に10日間G-CSFを投与すると、2カ月後の生存率が90%と、無治療(生理的食塩水投与)群の60%よりも大幅にアップすることを確認。G-CSFの投与で心臓のポンプ機能が改善する上、梗塞による壊死部位を補強する形で骨髄由来細胞が選択的に生着しており、心筋壁の菲薄化も予防されていることがわかった。

 慶応大学では現在、臨床応用に向けたプロトコールの作成を検討している段階だが、G-CSF製剤が商品化されていることもあり、マウスでの研究成果をみた他施設で「臨床応用も始まっている」と福田氏は話す。まずは臨床研究として、安全性と効果を確認しながら取り組むべき治療法であることは言うまでもないが、細胞移植よりも一足先に実用化されることはほぼ間違いないだろう。

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.4.14 日本産科婦人科学会速報】ヒトES細胞は公共の財産、再生医療技術開発の核に−−教育講演より

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