2003.09.05

【SARS速報】 中国産ハクビシンの“SARS疑惑”晴れる、類縁だが別種

 今年5月にハクビシンなど中国産の野生動物から単離されたコロナウイルスは、重症急性呼吸器感染症(SARS)を引き起こすSARSウイルスではないことが判明した。このウイルスはSARSウイルスと極めて似ており、人間にも感染するものの、塩基配列にSARSウイルスとは明らかな違いがあるという。研究結果はScience誌に近く掲載される予定で、9月4日に「Science Express」(Science誌に掲載予定の原著論文を早期公開する専用サイト)上で公開された。

 この研究を行ったのは、香港大学微生物学部門のY. Guan氏ら。Guan氏らは、SARS流行の初期に、患者が中国・広東省の野生動物料理を提供するレストラン従業員に集中していたことに着目。捕獲された野生動物を調べたところ、ハクビシンやタヌキ、イタチアナグマから、SARSに極めて似たコロナウイルスを検出した。

 研究グループの報告を受け、世界保健機関(WHO)は5月23日、これらの野生動物の取扱いに対する注意を喚起。これを受けわが国でも実質的な輸入禁止に踏み切ったとの経緯がある。

 今回、研究グループはハクビシンから単離したコロナウイルスの塩基配列を調べ、SARS患者から単離されたSARSウイルス5種の塩基配列と比較した。すると、ヌクレオカプシド(ウイルスRNAを包む蛋白)をコードする遺伝子の上流にあるオープン・リーディング・フレーム(ORF、蛋白の読み取り枠)の塩基配列に大きな違いがあり、SARSウイルスの大半で欠失している29塩基の塩基配列が、ハクビシン単離ウイルスでは保持されていることがわかった。

 さらに、スパイク蛋白(ウイルスの外側に突き出した刺状構造)をコードする遺伝子の多型パターンなどにも違いがあることが判明。類縁ではあるものの、「遺伝学的には明らかに異なるウイルス」であることがわかったという。

 この研究でハクビシンの“SARS疑惑”は解消されたわけだが、SARSウイルスに感染、ウイルスを体内で増殖して人間にうつす、つまりSARS流行の温床となり得る動物(animal source)が他に存在する可能性は残る。さらに、ハクビシンなどの市場取引動物が、SARSウイルス感染動物と人間との間でウイルスを媒介する中間宿主になる恐れもある。研究グループは、今後も中国南部の市場で売買される動物に対し、注意深い調査を続けるべきと提言している。

 ちなみに、こうした野生動物を売買する市場で働く人の血液からは、ハクビシン単離ウイルスに対する抗体が見つかっている。抗体陽性率には職種による差があり、野生動物の仲買人では20人中8人(40%)、屠畜人では15人中3人(20%)が陽性だったのに対し、同じ市場で野菜を販売していた人の場合、抗体が陽性だったのは20人中一人(5%)のみだった。一方、広東省の住民(広東病院を呼吸器疾患以外で受診した人)60人からは一人も抗体は検出されなかった。

 ハクビシン単離ウイルスが人間にも感染することを示すデータだが、興味深いことに、感染者からは一人もSARS様症状を呈した人は出ていない。ハクビシン単離ウイルスが、天然痘に対する牛痘のような役割を果たすのではないかと期待させるデータでもあり、今後の検証が待たれる。

 この論文のタイトルは、「Isolation and Characterization of Viruses Related to the SARS Coronavirus from Animals in Southern China」。現在、全文をこちら(PDF形式)で閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。(内山郁子)

■ 参考トピックス ■
◆ 2003.5.2 SARS速報】SARSウイルスの全塩基配列が論文化、Science誌ホームページ上で無償公開

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