2003.09.04

【SARS速報】 香港のSARS「確定例」227人の臨床経過が報告、年齢とLDH値が予後因子に

 香港のPrincess Margaret病院に入院した、重症急性呼吸器症候群(SARS)連続267症例の詳細な臨床経過に関する原著論文が、米国内科学会(ACP)の学術誌ホームページ上で早期公開された。これまでに報告された論文との相違点は、うち227人がSARSの「確定例」であること。「確定例」の症例報告としては過去最大で、大きな注目を集めそうだ。論文はAnnals of Interenal Medicine誌11月4日号に掲載予定で、9月2日から全文が早期公開されている。

 今回報告されたのは、今年2月26日から3月31日までにSARS様症状で同病院に入院した連続267人の臨床経過。うち227人からはSARSウイルスや抗SARSウイルス抗体が検出、SARSとの診断が確定している。平均年齢は39歳、4割が男性で、ほぼ全員が中国人。半数強は香港・九龍地区の大規模マンション群「アモイガーデン」での集団感染患者だった(関連トピックス参照)。

 SARSの確定例(227人)と可能性例(40人)とでは、確定例の方が入院時の白血球数、リンパ球数が有意に少なく、肝機能障害などを反映する乳酸脱水素酵素(LDH)値が有意に高かった。しかし、臨床経過や転帰に大きな違いは認められず、可能性例からは他の病因菌・ウイルスが見付からなかったため、可能性例もSARSウイルスに感染しているがウイルス量が少なかったため検査では陰性になったのではないかと研究グループはみている。

 入院時にみられた主な症状は、発熱(確定例:99%、可能性例:95%。以下同)、寒気(74%、73%)、筋痛(52%、40%)など。胸部X線検査では、肺の浸潤影が全体の95%に認められた。一方、咳(43%、50%)や息切れ(20%、13%)などの呼吸器症状を入院時に訴えていた比率は低かった。入院時の下痢の合併率は確定例、可能性例共に15%だったが、入院中に53%にまで増えた。

 3カ月死亡率は12%(95%信頼区間:8〜16%)と、過去の報告よりやや高い。これまでの報告と同様、多変量解析で、「高齢」(60歳以上)と「LDH高値」(3.8μkat/l)が独立の予後因子として浮上した。「高齢」の死亡相対リスクは5.10(95%信頼区間:2.30〜11.31)、「LDH高値」の死亡相対リスクは2.20(同:1.03〜4.71)だった。

WHO/CDCの診断基準に疑問符、初診時に「咳・呼吸困難」を伴わないSARS確定例も

 注目すべきなのは、研究グループが世界保健機関(WHO)や米国疾病対策センター(CDC)のSARS診断基準に対する疑念を呈している点だ。

 SARSの流行が起こった時点では、原因ウイルスが同定されていなかったこともあり、WHOやCDCは「発熱、咳、呼吸困難」という三つの臨床症状に基づく診断基準を提示した(日本の診断基準はWHOに準拠)。しかし香港では早期から、初診時に呼吸器症状を伴わないケースが少なくないことが指摘されており、臨床現場では咳などがなくても発熱や胸部X線上の異常が認められた人はSARSとして扱っていた。

 今回の報告例でも、初診時に咳を訴えていた人は半数、息切れは2割に過ぎず、診断に呼吸器症状を必須とすると“見落とし”が多くなることが判明。研究グループは、受診患者をWHO基準で診断すると特異度は96%と高いが感度が26%と低くなるとの報告(BMJ;326,1354,2003)を紹介し、ウイルス学的検査でも早期診断は難しいことを鑑みると、より感度の高い臨床診断基準を採用すべきだと論じている。

 この論文のタイトルは、「Outcomes and Prognostic Factors in 267 Patients with Severe Acute Respiratory Syndrome in Hong Kong」。現在、全文をこちらで閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.8.19 SARS速報】香港のSARSマンション集団感染はクマネズミが媒介? 大胆な仮説がLancet誌に掲載

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