2003.08.29

脳血管性痴呆対象の「アリセプト」プラセボ対照試験、原著論文がNeurology誌に掲載

 脳血管性痴呆患者616人を対象とした、塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト)のプラセボ対照試験の原著論文が、Neurology誌8月26日号に掲載された。米国食品医薬品局(FDA)に対する脳血管性痴呆への適応拡大申請(関連トピックス参照)の根拠となったプラセボ対照試験2件の一つで、昨年の米国老年精神医学会(AAGP)にて発表され、大きな注目を集めた。24週でプラセボ群より有意に認知機能が改善されたものの、意外にもプラセボ群の認知機能に低下がみられらないなど、脳血管性痴呆の自然経過を考える上で興味深い結果となった。

 脳血管性障害はアルツハイマー病と並ぶ痴呆の二大原因で、アルツハイマー病では徐々に認知機能の低下がみられるのに対し、脳血管性痴呆は段階的で急激な認知機能の低下が特徴とされる。塩酸ドネペジルは神経伝達物質アセチルコリンの分解酵素(エステラーゼ)阻害薬だが、アセチルコリン濃度はアルツハイマー病だけでなく脳血管性痴呆でも低下しており、塩酸ドネペジルのようなコリンエステラーゼ阻害薬が脳血管性痴呆にも有効なのではとの期待があった。

 対象患者は40歳以上で3カ月以上脳血管性痴呆の症状を示しており、ミニ・メンタル・ステート検査(MMSE検査)のスコアが10〜26点の男女616人。平均年齢は75.0歳、4割が女性で、脳血管性痴呆の評価尺度であるHachinskiの虚血スコア(HIS;7点以上が脳血管性痴呆、4点未満はアルツハイマー性痴呆)の平均値は9.5点。9割に心血管疾患の既往があり、3分の2に臨床的な脳卒中、4分の3に画像上の脳虚血があった。

 研究グループは、対象患者を1.プラセボ群(193人)、2.ドネペジル5mg群(208人)、3.ドネペジル10mg群(215人)−−の3群に無作為に割り付け、24週追跡して認知機能などを比較した。主な患者背景に有意差はなく、試験組み入れ時のMMSEスコアの平均値は順に、22.2点、21.8点、21.5点と有意差はなかった。ただし、アルツハイマー病の評価尺度で認知機能を測定するADAS-Cogスケール(低いほど認知機能が良い)の平均値は順に18.8点、20.8点、20.6点となり、プラセボ群でドネペジル5mg群より有意に認知機能が良かった(p=0.048)。

 1次評価項目である24週後のADAS-Cogスケールは、試験脱落者も含めたintent-to treat(ITT)解析で、プラセボ群では組み入れ時より0.10点低下とほぼ不変。一方、ドネペジル5mg群では組み入れ時より1.75点、10mg群では2.19点低下しており、認知機能の改善効果はプラセボ群より有意に高かった。2次評価項目のMMSEスコアもほぼ同様だった。

 副作用の頻度は3群でほぼ変わらず、プラセボ群の86.5%、ドネペジル5mg群の90.4%、ドネペジル10mg群の91.6%が何らかの副作用を経験。重度の副作用に絞っても群間に頻度の有意差はなかった。ただし、副作用による試験からの脱落率は順に8.8%、10.1%、16.3%となり、10mg群の副作用脱落率はプラセボ群の倍近かった(有意差検定は記載されていない)。

脳血管性痴呆の“自然史”に新たな知見
降圧など既存治療の最適化で認知機能の低下が予防


 興味深いのは、半年間の追跡期間中、プラセボ群の認知機能がほとんど低下しなかったこと。この理由について研究グループは、試験参加者のほぼ全員が、降圧薬や抗血小板薬など原疾患に対する適切な薬物療法を受けているためではないかと推測する。つまり、脳血管性痴呆では適切な降圧・抗血小板療法などで認知機能の低下が食い止められ、塩酸ドネペジルにはADAS-Cogスケールで2ポイント程度の認知機能上乗せ効果があるということになる。

 Neurology誌の「今号の読みどころ」(In this Issue: August 26 Highlights)欄でこの研究を紹介した米国Indiana大学のMartin Farlow氏は、2通りの投与量(5mg、10mg)で認知機能の改善効果にほぼ差がなく、下痢や吐き気、悪夢などの副作用頻度は10mg群でプラセボ群より有意に高いことを指摘。今回の試験結果は塩酸ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬が脳血管性痴呆の認知機能改善に有用であることを示すものだが、アルツハイマー病治療に用いる場合よりも治療に反応する期間が短く(narrower therapeutic window)、最適の投与量も低くなるのではないかと論じている。

 この論文のタイトルは、「Donepezil in vascular dementia: A randomized, placebo-controlled study」。アブストラクトは、こちらまで。Neurology誌の「August 26 Highlights」は、現在全文をこちらで閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.7.8 脳血管性痴呆への「アリセプト」適応拡大、FDA承認を獲得できず

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