2003.08.25

【解説】 欧州版の心疾患予防ガイドライン、高血圧の扱いにESH/ESC高血圧ガイドラインと大差

 このほど改訂版が公表された欧州版の心血管予防ガイドライン(以下ESCガイドライン)では、脂質代謝異常や糖尿病と並び、高血圧管理にも一つのセクションを割いている。基本的には「血圧」と「SCOREチャート」(関連トピックス参照)から予想される今後10年間の「心血管系死亡リスク」の高低、「標的臓器障害」の有無により薬物治療の開始を決定するものだが、6月に発表された欧州版の高血圧ガイドライン(関連トピックス参照)との間には、無視できない違いがあるようだ。

 今回発表されたESCガイドラインでは、高血圧患者に対し、「標的臓器障害」を認め「140/90mmHg以上」ならば全例に薬物治療を推奨。標的臓器障害がなく心血管系死亡リスクが5%未満の場合は、血圧値に応じ細分化した管理手法をとることとされている。

 すなわち、「140/90mmHg未満」なら「生活習慣改善」と「年に1回の再診」、「140〜149/90〜94mmHg」では「生活習慣改善強化」と「患者が好めば薬物療法開始」、「150/95mmHg以上」ならば「薬物療法開始」と「生活習慣改善強化」となっている。

 一方、心血管疾患既往や糖尿病を認める場合には、130〜139/85〜89mmHgでも降圧薬物治療の対象になる。

 降圧目標は糖尿病例では130/80mmHg未満、そのほかは140/90mmHg未満で、心血管疾患既往例の目標値は明記されていない。

 推奨されている降圧薬は、利尿薬、β遮断薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、カルシウム(Ca)拮抗薬とアンジオテンシン2(A2)受容体拮抗薬の5種類。これらは「血圧を低下させるだけでなく、安全かつ心血管系疾患や死亡を減少させ得る」薬剤だとされる。

 ここで注目されるのは、本年6月にESCが欧州高血圧学会(ESH)と連名で公表した高血圧ガイドライン(ESH/ESCガイドライン)との相違点だ。

 今回公表されたESCガイドラインの特徴は、患者のリスク評価にSCOREチャート(性別、喫煙の有無、血圧、総コレステロール値と居住地域の心血管疾患リスクの高低)から算出した10年間の心血管系死亡の絶対リスクを用いること。一方のESH/ESCガイドラインでは、Framingham研究データとSCOREチャートに言及しているものの、原則として血圧値と危険因子の数に基づくリスク層別化を採用している。

 また、今回公表のESCガイドラインでは、受診時点での心血管系疾患10年予測死亡率に加え、若年者では同じ血圧値などが60歳まで継続した場合の(60歳になった時点での)心血管系疾患10年予測死亡率についても評価し、それが5%を超えた場合にも管理を開始すべきとしている。

 一方のESH/ESCガイドラインは、「10年間という比較的短期間の絶対リスクを基準にすると、若年者よりも(すでにリスクが増加している場合が多い)高齢者が治療対象となりやすく、若年者が高齢となった際のリスクを視野に入れられないという問題点がある」と指摘するが、具体的な回避策は提示していない。

 さらに、薬物療法に推奨されている降圧薬も両ガイドラインで異なる。今回のESCガイドラインでは上記のように5種の薬剤のみを推奨するが、ESH/ESCガイドラインでは上記5種に加え、「併用薬」としてα遮断薬、中枢作動性降圧薬なども推奨されている。

 なぜ、ESCの名を冠し、それもほとんど期間をおかずに出された二つのガイドラインで、さらに、ESH/ESCガイドラインには「ESCガイドライン作成チームと協力して作成された」との記述があるにもかかわらず、このように内容が異なるのだろう。ESH/ESCガイドラインにお墨付きを与えたのは国際高血圧学会(ISH)で、ESCガイドラインはESCの臨床ガイドライン委員会だが、そのような「後見人」の違いの差が出るのだろうか。

 本ガイドラインは8月末より開催されるESC学術集会で正式に公表され、同集会ではガイドラインをめぐるセッションも設定されている。どのような議論が交わされるか、楽しみだ。(宇津貴史、医学レポーター)

■ 関連トピックス ■
◆2002.6.26 欧州の新リスク層別化チャート「SCORE」、CAD死亡率ベースでリスク評価にT-chol/HDL比を採用
◆ 2003.6.16 ESH/ESCの欧州版高血圧GLが発表、「高血圧前症」を用いず旧来通りの血圧分類を採用

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