2003.08.08

早期中断のホルモン補充療法試験「WHI」、最終結果がNEJM誌に掲載

 中間解析で害が利益を上回る恐れが指摘され、昨年7月に一部が早期中断された臨床試験「WHI」(Women's Health Initiative、関連トピックス参照)の最終結果が、New England Journal of Medicine(NEJM)誌8月7日号に掲載された。ホルモン補充療法(HRT)に心血管疾患の予防効果はなく、開始早期にはむしろ増加させる恐れがあることが明らかになった。

 WHI試験は、50〜79歳の閉経後女性約16万人を対象に実施された米国の大規模試験。その一環として、約1万6000人を対象に、エストロゲン−プロゲスチン合剤とプラセボとを比較、心血管疾患や乳癌などの発症予防効果をみる介入試験が行われていた。

 昨年4月に行われた中間解析で、HRT群の骨折や大腸癌はプラセボ群より有意に少ないものの、乳癌や冠動脈疾患が有意に増加することが判明。今回は、このデータに昨年7月の中断時までのデータを追加し、データを中央評価センターで見直した上で、冠動脈疾患などの心疾患に対する予防効果を再度評価し直した。

 その結果、HRT群が冠動脈疾患(冠動脈疾患死+非致死性心筋梗塞)を発症するハザード比は1.24、95%信頼区間は0.97〜1.60となり、増加傾向はあるものの有意差はなくなることが判明。とはいえ、冠動脈疾患の“予防効果”がないことは変わらず、しかも介入開始1年以内ではハザード比が1.81(95%信頼区間:1.09〜3.01)となり、“短期的な使用なら問題ない”との楽観的な見方を否定する結果となった。

 患者背景によるサブグループ解析では、年齢、閉経からの経過年数、更年期症状の有無などと、冠動脈疾患発症のハザード比とには有意な関連がみられなかった。体格指数(BMI)でも、BMIが25.0未満、25.0〜29.9、30.0以上の人でのハザード比は順に1.38、1.23、1.16(有意差なし)で、「太っていない人ならリスクは増えないのでは」との希望的観測も否定された。

 この論文などに対する論説「From Presumed Benefit to Potential Harm -- Hormone Therapy and Heart Disease」では、WHI研究などから得られた数多くの示唆深い教訓が提示されている。なかでも一考の価値があるのは、「代理エンドポイントは臨床的転帰の指標にならない」との指摘だ。

 WHI研究の場合、HRT群はプラセボ群より、試験開始時と比べ1年後の低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール値が12.7%低下、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール値が7.3%上昇していた。脂質代謝は心血管疾患リスクを下げる方向に推移していたのだ。それにも関わらず、開始1年以内に冠動脈疾患を発症するリスクが2倍近くになるという結果は、代理エンドポイントを演繹しても臨床転帰は必ずしも予測できないことを示す良い実例となろう。

 また、ここで示されているのはあくまで相対的なリスク上昇であり、絶対的なリスクは小さなものだが、それでもリスクが増えることは事実。こうした事実を認識した上で、HRTを行うことで得られる利益とのバランスをよく考え、HRTを実施すべきか否かを患者自身が選択するとの姿勢が今後は欠かせないだろう。

 この論文のタイトルは、「Estrogen plus Progestin and the Risk of Coronary Heart Disease」。アブストラクトは、こちらまで。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2002.7.11 NHLBIが臨床試験「WHI」を早期中断、ホルモン補充療法に乳癌、心血管疾患の予防効果なし

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