2003.08.04

【呼吸療法医学会・呼吸管理学会速報】 院内心肺停止対策は救急カートの常備品見直しから始まった−−教育講演から

 H大学附属病院で抗生剤投与直後に起きた入院患者の心肺停止に対し、蘇生に45分間を要し、患者が植物人間になるという事故が発生した。この事例を契機に始まった院内救急体制の全面見直しについて、8月2日の「教育講演9」で兵庫医科大学救急災害医学教授の丸川征四郎氏が改革の取り組みを紹介、救急カートの整理から予算獲得の苦労まで、現在進行中の実況報告に、会場の強い関心が集まった。

 「当直医には気の毒だったが、徹底的な聴取を行い、問題点を洗い出した」(丸川氏)。調査の結果、訓練不足、体制不備、長年の慣習など、信じられないような問題点が浮かび上がった。経緯の概要は以下の通り。

1.看護師が動転、医師への連絡時に状況を説明しなかった。
2.当直医は病棟に走りこんだが病室が不明で探し回った。
3.当直医到着時、救急カート、除細動器、パルスオキシメーターなどが用意されていなかった。
4.処置中、カートの引き出しのどこに何が入っているか分からず、いちいち探し回った。

 こうした状況下で、心肺停止から当直医到着までに8分間、心拍安定まで実に45分間を要したという。そこで丸川氏らは、調査を基に、救急カートの整備、自動除細動器の配備、職員教育という三つの対策を進めることとした。

 救急カートに装備された機材や薬品は、長年の慣習や医師、師長の思い入れから、各部署でばらばら、しかも詰め込みすぎの傾向が見られた。気管チューブが18本も入っていた例もあった。器材の一部は放置状態で、腐食した電池が入った喉頭鏡や破れた蘇生バッグもあった。

 そこで、心肺蘇生に目的を限定、中央管理を採用、器材や薬剤を手術室とローテーションするなどの措置をとることにした。救急カートは装備を完全に統一し、停電時の暗闇でも必要な処置ができるのが理想と言える。丸川氏はこれを目指した。

 迅速な蘇生のカギになるのが除細動の実施だ。丸川氏は、新たに10台の自動除細動器(AED)を購入し、蘇生に関する習熟度が相対的に低い精神科、リハビリ室、内科などの部署や外来、食道などから優先的に配備した。院内でも場所や時間によっては、周囲に医師や看護師が不在の場合がある。このため、事務系職員に対しても医師・看護師不在時には、AED操作を許容することにした。

 こうした機材の整備と連動してスタッフ教育にも取り組んだ。事務系職員も含め、2000人の職員全員に対する基礎救急救命(BLS:basic life support)教育を行うため、各部署のリスクマネジャー82人を「BLSプロバイダー」に任命し、2.5〜3時間の講習を実施、その後、このBLSプロバイダーが各部署で講習を行う方式を採用した。

 新たな取り組みのなかには壁に突き当たっている部分もある。例えば、救急カートに備える薬剤の絞り込みには、特に年輩医師の強い抵抗があり、難渋しているという。講習でもBLSプロバイダーにとって、若手医師から年輩医師へ、あるいは看護師から年輩医師への講習は極めてやりにくいようだ。そこで、マニュアルやフローチャートの整備も併せて進めている。

 米国心臓協会(AHA)のガイドライン2000年版では、院内の心肺停止時には3分間以内の蘇生を求めている。丸川氏は、「院内救急救命は院内リスク管理の根幹であり、AHAの推奨レベルへの到達を目指すべきだ」と強調した。(中沢真也)

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