2003.07.23

【SARS速報】 カニクイザルへのSARSウイルス感染実験に成功、原著論文がLancet誌HP上で早期公開

 重症急性呼吸器症候群(SARS)患者から単離した新型コロナウイルスをカニクイザルに人為的に感染させる、「病原性の再現確認実験」がこのほど成功した。感染したカニクイザルはSARS様の症状を示し、感染巣から単離されたウイルスは、元々感染させたウイルスと一致したという。この実験は、SARSウイルスが確かにSARSの発症を引き起こす、つまりSARSウイルスがSARSの原因であることを初めて完全に実証したもの。原著論文はLancet誌に掲載される予定で、7月22日に同誌ホームページ上で早期公開された。

 ある病原体が特定の疾患の原因であることを示すには、ドイツの高名な細菌学者Robert Koch氏が1884年に示した「コッホの原則」を満たすことが必要だ。疾患を発症した人から病原体が単離されるだけでは不十分で、病原体を健常な(類縁)動物に感染させ、同様の症状が引き起こされることを確認、さらにその感染動物から元と同一の病原体が単離されなければならない。

 この原則をSARSに照らし合わせてみると、前半部分は、既に多くの患者からSARSウイルスが単離されている点で満たされている。しかし、後半の人為感染実験(感染の再現性確認)についてはまだ行われていなかった。

 ドイツErasmus医療センターのThijs Kuiken氏らは、香港、シンガポール、ドイツ、英国、ベトナムとフランスの6カ国で発症した患者436人から採取した血液、組織などの検体を検証。SARSウイルスを含む各種病原体の検出率を改めて調べた後、SARSウイルスをカニクイザルに感染させ、SARSを発症するかどうかや、感染巣から最初に感染させたSARSウイルスと同一のウイルスが見付かるかどうかを検討した。

 すると、436人のSARS患者中329人(75%)から、SARSウイルスが検出。当初SARSの原因と疑われた(関連トピックス参照)パラミクソウイルス属のヒトメタニューモウイルスも検出されたが、検出率は12%とSARSウイルスよりはるかに低かった。この2種類以外の病原体の検出率はさらに低く、患者から検出された病原体の中では、SARSウイルスがSARSの原因である蓋然性が最も高いことが示された。

 次に研究グループは、患者から単離したSARSウイルスをミドリザル腎臓由来のベロ(Vero)細胞で培養、分離・濃縮して、カニクイザル4匹に経鼻・経気管投与した。カニクイザルは1匹ずつ、陰圧のキャビネット内で飼育し、症状の変化などを毎日観察、定期的に検体を採取し、死亡後は解剖して病理所見を検討した。

 その結果、4匹とも感染2日後から、鼻、口、咽頭でSARSウイルスが検出。4匹中3匹は肺胞にびまん性の傷害を生じ、感染2〜3日後に死亡した。上皮細胞の壊死や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)との関与が示唆される2型肺胞上皮細胞の過形成、合胞体の存在など、SARS患者と共通する病理所見も得られた。感染サルから単離されたSARSウイルスと、元々感染させたSARSウイルスの遺伝子配列は一致し、同一のウイルスであることが確認できた。

 以上から研究グループは、SARS患者から高頻度にSARSウイルスが検出された点に加え、今回カニクイザルへの感染実験で病態の再現性が確認されたことで、SARSウイルスがSARSの主要な原因であることが立証できたと結論付けている。

 なお、当初提唱された「パラミクソウイルス(ヒトメタニューモウイルス)原因説」に関し、今回の検討で興味深い知見が得られている。ヒトメタニューモウイルスの検出率には発生地域や病院による差が大きく、今回検討された患者群では、香港Prince of Wales病院(コホート4)の患者群でのみ検出率が突出していたのだ。

 同病院では患者84人中30人(36%)でヒトメタニューモウイルスが見付かり、大半はSARSウイルスとの共感染だったが、研究グループは、感染者のほぼ全員が医療従事者で、同じ病棟で働いており、休憩室(トイレ)を共有していたことを指摘。この病院だけでヒトメタニューモウイルスの感染率が高いのは、SARSの流行と同時期に、いわゆる院内感染が生じていたのではないかと示唆している。

 この論文のタイトルは、「Newly discovered coronavirus as the primary cause of severe acute respiratory syndrome」。現在、全文をこちらからダウンロードできる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.4.4 SARS速報】NEJM誌、オンラインでSARS関連の原著2編とエディトリアル2編を先行掲載
■ 参考トピックス ■
◆ 2003.4.11 SARS速報】CDC−WHOとドイツグループの「新種コロナウイルス」が一致、論文2報がNEJM誌で早期公開

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