2003.07.11

市販の風邪薬、PPA以外の交感神経系成分にも脳出血誘発作用か

 メキシコ国立神経内科・神経外科研究所のCarlos Cantu氏らは、脳卒中で入院した連続2500症例を分析。市販の風邪薬との関連が否定できない症例が22例あったことを見出し、Stroke誌7月号で報告した。22人中21人は脳出血を起こしており、大半は既に脳出血との関連が報告されているフェニルプロパノールアミン(PPA)含有製剤の服用者だったが、プソイドエフェドリン(PSE)などPPA以外の交感神経系薬の服用者も含まれていた。昨年8月、市販薬の製造(輸入)承認基準からPPAを外し、代わりにPSEを収載したわが国にとって気がかりなデータとなりそうだ。

 研究グループは、1980年代後半に、市販の風邪薬との関連が否定できない脳出血症例を2例経験。1989年から、脳卒中(梗塞も含む)による入院患者に対して詳細な服薬状況を記録したデータベースを作成、PPAなどの交感神経系薬との関連が否定できない脳卒中がどの程度発生しているかを調べた。

 脳卒中連続2500症例(平均年齢50.2歳)の内訳は、脳梗塞(脳動脈塞栓症)が1586人(63%)と最も多く、脳内出血は678人(27%)、脳静脈塞栓症が187人(7.5%)、くも膜下出血が49人(2.0%)。交感神経系薬の服用後、24時間以内に脳卒中を発症したケースを「関連あり」とした。

 すると、2500人中22人(男性10人、女性12人)は交感神経系薬との関連が否定できない脳卒中だったが、うち21人(95%)は脳出血(17人が脳内出血、4人がくも膜下出血)で、全体に占める脳出血の頻度(29%)より高いことが判明。22人中16人はPPA(服用量:75〜675mg)、4人はPSE(服用量:60〜300mg)を服用後に脳卒中を起こしていた。

 メキシコにおけるPPAの推奨1回量は50〜75mg、PSEは60mgだが、PPAとの関連が否定できない脳卒中患者の3分の1、PSEの半数は、服用量が推奨量以内だった。8人は入院時に急性の高血圧を呈し、10人には脳血管の攣縮や脈管炎が認められた。

 以上から研究グループは、市販薬に含まれる交感神経系成分による脳卒中は、急速な血圧上昇や血管攣縮、脈管炎と関連していると推察。関連が否定できない交感神経系成分の大半はPPAだが、PSEなど他の交感神経系成分の服用例もあり、能書通りの服用(過量服用ではないケース)でも脳卒中を引き起こし得ると指摘している。

日本ではPPAの代替成分としてPSEを承認

 PPAには血管収縮作用(鼻詰まりを改善する)のほか、大量に服用すると食欲を抑える作用があり、米国では市販の風邪薬への配合だけでなく食欲抑制薬としても使われていた。2000年に、主に食欲抑制薬として(大量の)PPA含有製剤を服用した女性で、脳出血の発症率が高いことが報告(NEJM;343,1826,2000)。この報告を受け、2000年11月に米国食品医薬品局(FDA)はPPA含有製剤の販売を中止するよう勧告、日本では厚生労働省が使用上の注意を改訂するよう指示した。

 その後、1.世界的にPPAが使用されなくなりつつある、2.一般用医薬品を通してPPAが連用される恐れがある−−との二つの理由により、2002年8月に厚生労働省は市販の鼻炎用内服薬・鎮咳去痰薬の製造(輸入)承認基準からPPAを削除。代替成分として、わが国で市販薬としては使用経験がないPSEを承認したという経緯がある。PPAが禁止されたわけではないので、PPA含有の市販薬、医療薬は現在も販売されているが、PSE含有の市販薬も昨年12月から登場した。

 今回、PPAだけでなくPSEにも脳卒中との関連が示唆されたことで、FDAが販売中止措置を取った、いわば「危険な成分」の代わりに、厚生労働省が新たに認めた「安全とされる成分」にもリスクが否定できないとの形になった。ただし、この研究はあくまで症例報告。対照群が置かれているわけではないので、既に症例対照研究で危険性が示唆されたPPAと同程度のリスクがPSEにあるとまでは言えない。

 こうした症例報告にはバイアスが避け難いもので、脳出血を起こした人がたまたま交感神経系薬を服用していたり、高血圧の既往があった、あるいは脳出血患者の服薬歴聴取時にバイアスがかかった可能性も残る。しかし、少なくとも、脳卒中との関連を今後は注意深く観察すべきである点は否定できない。

 7月末に施行される改正薬事法では、製薬企業だけでなく医師や薬剤師にも副作用報告が義務付けられる。医療用医薬品だけでなく市販薬に関しても、副作用の可能性を常に念頭に置いて診療にあたる姿勢が一層求められるだろう。

 この論文のタイトルは、「Stroke Associated With Sympathomimetics Contained in Over-the-Counter Cough and Cold Drugs」。アブストラクトは、こちらまで。2000年11月の厚生労働省のPPA含有製剤に関する対応はこちら、2002年8月の鼻炎用内服薬・鎮咳去痰薬の製造(輸入)承認基準の一部改正の経緯に関しては、こちらまで。(内山郁子)

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