2003.07.09

ハイリスク乳癌の幹細胞移植併用大量化学療法、長期成績2報がNEJM誌に掲載

 骨髄幹細胞移植(BMT)や末梢血幹細胞移植(PBSCT)を併用した、乳癌の大量化学療法臨床試験の長期成績2報が、New England Journal of Medicine(NEJM)誌7月3日号に掲載された。リンパ節転移が10個以上ある、再発リスクが高い乳癌患者を対象としたもので、対象患者数はオランダの試験が約900人、米国の試験が約500人。5〜6年の追跡期間で、両試験とも「生存率は変わらず、再発率は低い」との結果になった。

 リンパ節転移が10個以上ある乳癌患者の場合、術後に化学療法を行っても再発リスクが極めて高く、術後5年間で約半数が再発することが報告されている。この再発率を下げ、生存期間を延ばす切り札として1990年代初頭に提唱されたのが、BMTやPBSCTを併用した大量化学療法だ。

 通常の化学療法を行った後、高用量の多剤併用療法で癌細胞を徹底的に叩く。この大量化学療法でダメージを受けた骨髄を、造血幹細胞移植でサルベージするという戦略で、当初報告された少数例の成績が極めて良かったことから世界的に大きな注目を集めた。わが国でも、高度先進医療を経て1994年から保険適用が認められている。

 しかし、1990年代前半から世界各地で始まった複数の大規模試験で、再発率は下がる傾向はあるものの、生存率は変わらないとの中間解析結果が報告。2001年の米国臨床癌学会(ASCO)で報告された中間解析でも結果は同様で、現時点では臨床試験として行うべき実験的な治療法であるとの見解が示されている。

 今回報告された2試験は、オランダの試験が885人、米国の試験が511人を対象としたもの。いずれも、通常化学療法群と大量化学療法群に患者を無作為に割り付け、長期追跡して予後を比較した。

 両試験の主な違いは、1.使用した化学療法のレジメン(抗癌薬の組み合わせ)、2.幹細胞移植法、3.リンパ節転移数−−の三つ。オランダの試験にはリンパ節転移数が4〜9個の、再発リスクが中等度の人も含まれており、サルベージにはPBSCTのみを使用。米国の試験対象はリンパ節転移数が10個以上の人のみで、サルベージとしてBMT、PBSCTのいずれか、あるいは併用が行われた。

 化学療法のレジメンは、オランダが1クール3週のFEC療法(フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスファミド)、米国が1クール4週のCAF療法(シクロホスファミド+ドキソルビシン+フルオロウラシル)。オランダでは通常化学療法群に5コースのFEC療法を行い、大量化学療法群には4コースのFEC療法後、シクロホスファミド、チオテパ、カルボプラチンによる4日間の大量化学療法を施行した。米国では、両群とも6コースのCAF療法を受けた後、大量化学療法群にはシクロホスファミドとチオテパによる4日間の大量化学療法を施した。

 両試験とも、腫瘍にエストロゲン受容体やプロゲステロン受容体が強発現していた人は、タモキシフェンを5年間服用した。リンパ節転移数を除けば患者背景に大きな違いはなく、追跡期間の中央値はオランダが57カ月、米国が6.1年。

 その結果、オランダの試験では、大量化学療法群(442人)の5年無再発生存率(RFS)が65%となり、通常化学療法群(443人)の59%より高い傾向があることが判明(ハザード比:0.83、95%信頼区間:0.66〜1.03)。リンパ節転移が10個以上の再発ハイリスク者(大量化学療法群:158人、通常化学療法群:159人)では、5年RFSが61%対51%となり、大量化学療法で再発リスクを3割有意に低減できることが明らかになった(ハザード比:0.71、95%信頼区間:0.50〜1.00)。

 一方の米国の試験では、6年無病生存率(DFS)が大量化学療法群(254人)で49%、通常化学療法群(257人)で47%であり、大量化学療法群でやや良いものの有意差は認められなかった(p=0.55)。ただし、プロトコール逸脱がない417人に絞った解析では、6年RFSが55%対45%となり、有意な差が認められた(p=0.045)。なお、総死亡率は両試験とも、大量化学療法群と通常化学療法群とに有意差は認められなかった。

 治療関連死亡率は、オランダの試験で5人(1.1%)、米国の試験で9人(3.5%、プロトコール遵守者中では4.5%)。オランダの試験では、ほぼ全員が大量化学療法後は無月経になった。米国の試験では、大量化学療法群のうち9人が骨髄異形成症候群(前白血病)や急性骨髄性白血病を発症、大半がBMTを受けた人だった。

 両試験とも、結果はこれまでの中間解析と同様だが、大規模試験で再発抑制効果に有意差が出たのは初めて。一方、生存率にはこれまでの報告と同様、有意な差は認められなかった。

 この結果は、乳房温存療法と乳房切除術の長期比較試験と類似している。非浸潤性の乳癌に対し、乳房切除術は乳房温存療法より無再発生存率が高いが長期的な生存率に差はなく、今では乳房温存療法が標準的な治療法となった。こうした点を鑑みると、大量化学療法の臨床的な意義はゆらぎつつあると言える。

 また、治療関連死亡率や副作用には両試験でかなりの相違があり、大量化学療法やその前に行った化学療法のレジメン・投与量の差、あるいはサルベージ療法の違い(PBSCTかBMTか)に起因する可能性がある。治療関連死や副作用が少なく、再発予防効果が高いレジメンやサルベージ療法を、臨床試験の場で今後も追究する必要があるだろう。

 オランダの試験の論文タイトルは、「High-Dose Chemotherapy with Hematopoietic Stem-Cell Rescue for High-Risk Breast Cancer」。アブストラクトは、こちらまで。米国の試験の論文タイトルは、「Conventional Adjuvant Chemotherapy with or without High-Dose Chemotherapy and Autologous Stem-Cell Transplantation in High-Risk Breast Cancer」。アブストラクトは、こちらまで。(内山郁子)

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