2003.06.27

【SARS速報】 中国本土のSARS、公式な“発端患者”について初めての症例報告

 昨年12月に呼吸器症状のため中国の広東省で入院、転院先での重症急性呼吸器症候群(SARS)院内感染の発端となった症例が、米国胸部学会(ATS)の学術誌であるAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicine(AJRCCM)誌7月1日号に掲載された。SARSの流行は昨年11月頃、広東省付近から発生したと考えられているが、公式な記録として残されているのはこの患者が初めて。中国本土からの初の症例報告として注目を集めそうだ。

 この患者は41歳の会社員で、ここ3年は慢性の咳に悩まされており、昨年12月に呼吸器症状の急性増悪のため広東省河源(Heyuan)の病院に入院した。同じ病室には、後に非典型的な肺炎で死亡した別の患者が入院していた。入院3日後、患者は突然39.6度の高熱を発し、寒気や倦怠感、筋肉痛を訴えた。

 ニューキノロン系抗菌薬のオフロキサシンが投与されたが、症状が改善しないため、3日後の12月22日に広東省広州市の広州医科大学附属病院に転院。その時点で呼吸器症状はさほど重くなく、白血球数の上昇もみられなかったが、胸部X線では左肺下部に肺炎が認められた。

 12月26日には患者の症状がさらに悪化。呼吸困難を訴え、酸素飽和度は89%にまで落ちた。酸素のマスク投与を始めたが、胸部X線検査では両肺の下部に濃いもや状の陰影(haziness)が広がっていることが確認され、翌日午後にはスリガラス状陰影へと変化した。

 人工呼吸器による呼吸管理を開始したが、12月29日には気胸と気縦隔症を併発し、ドレナージが行われた。高熱も続いており、症状から急性呼吸急迫症候群(ARDS)が疑われたため、大量ステロイド療法を開始。症状は次第に改善し、2003年2月17日に抜管、3月5日に退院となった。

 この患者が、最初に入院した病院の同室患者からSARSをうつされたのか、別の経路で感染したのかはわからない。しかし、患者を引き受けた広州医科大学附属病院は、後に恐るべき事態に直面することとなった。患者の家族や治療を担当した医療従事者など8人が、この患者と非常に良く似た症状を呈し始めたのだ。

 期を同じくして、広東省の河源や中山(Zhongshan)でも、同様の症状を示す患者が発生しているとの情報が入った。この“新しい流行性疾患”は、「感染性非典型肺炎」(infectious atypical pneumonia)と名付けられ、後に世界保健機関(WHO)によってSARSと命名されたという。

 症例を報告した同大学のNanShan Zhong氏らは、3月に行われた香港胸部学会で、中国におけるSARS患者の基本的な診療方針が提示されたことも紹介している。

 その骨子は、1.急な発熱・筋肉痛による受診患者には漢方薬と西洋薬の併用療法を行う、2.熱が3日以上続く、あるいは胸部X線上で持続性・進行性の増悪が認められた場合は大量ステロイド療法を開始する、3.酸素投与下でも酸素飽和度が93%を切ったり、呼吸数が30回/分を超えた場合などは人工呼吸管理を開始する、4.特に院内感染に対する注意深いモニタリングを行う−−の4点。Zhong氏らは「経験が集積すれば修正が行われる可能性はあるが、現時点ではこの4点を常に念頭に置かなければならない」と指摘している。

 この論文のタイトルは、「Our Strategies for Fighting Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS) 」。「OCCASIONAL ESSAYS」として掲載されており、論文は、AJRCCM誌7月1日号のホームページから入手できる。(内山郁子)

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