2003.06.26

肺癌治療薬「イレッサ」の臨床試験「IDEAL1」、待望の原著論文がついに発表

 非小細胞肺癌(NSCLC)の治療薬ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)の有効性と安全性を検証した第2相試験「IDEAL1」(Iressa Dose Evaluation in Advanced Lung Cancer)の原著論文が、Journal of Clinical Oncology(JCO)誌6月15日号に掲載された。試験対象者の約半数は日本人であり、しかも、わが国における同薬の承認根拠となった臨床試験でもあるため、大きな注目を集めそうだ。

 ゲフィチニブは、NSCLCを含む数種の癌で過剰発現がみられる、上皮成長因子(EGF)受容体の阻害薬だ。承認1日用量は250mgで、他の化学療法がほとんど効かないNSCLCの経口治療薬として、日本で世界に先だって承認。まさに夢の薬として迎えられた。医師と患者双方からの期待が大きかっただけに、わが国で多くの死者を出した間質性肺炎も、企業対応も含めて注目が集まった。なお、同薬は既に、日本ではのべ約3万人、全世界では約5万人に投与された。

 今回原著論文が発表された「IDEAL1」試験からは、ゲフィチニブの抗腫瘍効果が、患者の性別や癌種(腺癌か否か)、身体状態などに左右されることが判明。さらに、腫瘍が縮小した患者では服用から効果発現までの期間が短い、つまり「効く人にはすぐ効果が出る」ことなど、貴重なデータが明らかにされた。

両投与量とも2割弱で腫瘍が縮小、4割で症状が改善

 「IDEAL1」の対象は、欧州、オーストラリア、南アフリカ、日本の43施設で治療を受けている、進行性または転移があるNSCLC患者210人。うち半数は日本からの登録患者だ。組み入れ条件は、外科治療や放射線療法が無効で、既に何らかの化学療法を受けており、腫瘍径が評価できる成人患者。身体状態が比較的良好(WHOのパフォーマンス・ステータス=PSが0〜2)で、12週以上の余命が期待できることも条件となった。一方、3種類以上の化学療法を受けた患者など特に重症例は除外された。

 研究グループは、対象患者を無作為に2群に分け、一方にゲフィチニブ1日250mg、他方に1日500mgを処方。4カ月間追跡して腫瘍縮小効果や生活の質(QOL)の変化などを評価した。対象患者の年齢の中央値は約60歳で、男性が7割を占め、PSは0〜1が9割弱。癌種は腺癌が7割弱、扁平上皮癌が約2割だった。こうした患者背景に群間の有意差はなかったが、日本人と非日本人の患者背景には不均衡があった。評価症例数は、安全性が209人、抗腫瘍効果が208人、QOLが140人。

 追跡の結果、寛解(CR)または部分寛解(PR)となったのは250mg投与群(103人)で19人(18.4%)、500m投与群(105人)で20人(19.0%)。両群間に有意差はみられず、不変(SD)を含めても、それぞれ56人(54.4%)、54人(51.4%)となって有意差は無かった。

 服薬開始後に再び腫瘍増殖が始まるまでの期間(中央値)は、250mg投与群では2.7カ月、500m投与群では2.8カ月だった。生存期間の中央値はそれぞれ7.6カ月、8.0カ月で、1年生存率は35%、29%だった。CR・PRが得られた患者に限ると、生存期間の中央値は各13.3カ月、10.6カ月だった。

 肺癌サブスケール(LCS)で評価した疾患関連症状(息切れ、体重減少、思考力の減退、咳、食欲減退、胸痛、呼吸困難など)は、250mg群(67人)の40.3%、500mg群(73人)の37.0%で改善した。症状改善の有無と腫瘍縮小度には相関があり、CRやPRが得られた患者ではほぼ全員で症状が改善。SDの患者でも半数で症状が改善した。

「効く人」への効果発現は早く、PSや癌種、性別で効果に差

 ゲフィチニブの臨床効果の特徴は、効く人には服用後まもなく効果を発揮することだ。PR以上の効果を示した患者の68%は、ゲフィチニブを投与されてから、約1カ月のうちに腫瘍縮小が見られていた。臨床症状の改善も、両方の用量で服用後8日(中央値)で認められた。

 また、ゲフィチニブの抗腫瘍効果は日本人で高く、PR以上の有効例は日本人で27.5%、非日本人で10.4%だった。血漿中のゲフィチニブの濃度に人種間差は無かったが、患者背景には偏りがあった。具体的には、日本人には女性が多く(男性比率:62.7%対77.8%)、腺癌が多かった(76.5%対50.0%)。全身状態もPSが0の人が多く(20.6%対15.7%)、PSが2の人が少なかった(8.8%対16.7%)。

 患者背景とゲフィチニブの有効性の関係を調べたところ、PSが0〜1の人では、PSが2の人よりも有意にCRまたはPRが得られる確率が高いことが判明(オッズ比:6.26、95%信頼区間:1.20〜115.36)。同様に、「腺癌」(オッズ比:3.45、95%信頼区間:1.29〜11.02)や「女性」(オッズ比:2.65、95%信頼区間:1.19〜5.91)も、有効率を高める条件だった。

 このほか、試験参加前に免疫療法やホルモン療法を受けていた患者では、有効率が有意に高かった(オッズ比:6.01、95%信頼区間:1.58〜26.15)。免疫・ホルモン療法を受けた人は13人に留まっていたが、同薬の作用機序を考える上で興味深いデータだ。

 こうした患者背景でデータを補正した上で、改めて比較したところ、日本人の方がなお有効性が高い傾向は見られたものの、有意差はなくなった(オッズ比:1.64、95%信頼区間:0.71〜3.93)。研究グループは「以前の研究から身体状態や性別が予後因子になることはわかっていたが、腺癌が予後規定因子になっていたのは興味深い。ゲフィチニブの標的となるEGF受容体は、腺癌ではなく扁平上皮癌でより高頻度に発現しているからだ」と考察している。

「IDEAL1」では二人が間質性肺炎を発症、2例とも500mg投与群

 一方の副作用は、湿疹、掻痒、にきびといった皮膚症状や、下痢などの消化器症状が中心。重症度も軽症(CTCグレード1〜2)が大半だった。肝酵素の上昇、全身の痛みや脱力感は20〜30%の患者で観察された。副作用頻度は500mg群で高い傾向が認められた。

 間質性肺炎は二人(1.8%)に生じ、いずれも、承認用量の倍量である500mg群の患者だった。一人は間質性肺炎の発症で、同薬の投与を中止。もう一人はひどい疲労感のために同薬の投与を止めてから、3日後に間質性肺炎を発症した。二人とも抗菌薬やステロイド、酸素投与を受け、救命されたという。

 間質性肺炎の発症率には明らかに人種差があり、この5月にNSCLC治療の第3選択薬としてゲフィチニブを承認した(関連トピックス参照)米国食品医薬品局(FDA)は、間質性肺炎の発症頻度を日本では2%、米国では0.3%と見積もっている。日本の発売元であるアストラゼネカは、間質性肺炎などの肺障害発生の危険因子を探る前向き調査を検討しており、現在開始に向けて準備中だという。基礎データの分析も含めて、ゲフィチニブの服用で肺障害を起こしやすい癌患者の特徴を調べている(関連トピックス参照)。

 この論文のタイトルは、「Multi-Institutional Randomized Phase II Trial of Gefitinib for Previously Treated Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer」。アブストラクトは、こちらまで。FDAのゲフィチニブ承認時のニュース・リリースは、こちらまで。(星良孝、日経メディカル

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.5.6 FDAが肺癌の新治療薬を承認、化学療法に無反応な患者が対象
◆ 2003.2.10 「イレッサ」副作用発症のリスクファクターを探る大規模調査、4月にも全国でスタート

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