2003.06.23

【日本老年医学会速報】 高齢者施設でのインフルエンザ対策、ワクチンに加え抗インフルエンザ薬の早期服用が効果的

 東京都老人医療センター感染症科の小杉依子氏らは、7割がワクチン接種を受けている高齢者施設で起こった、2002〜2003シーズンのA型インフルエンザ流行の初期に介入。「発症例のみへの抗インフルエンザウイルス薬の治療投与」が、「全員へのアマンタジン予防投与」よりも、費用効果面などで優れていることを見出した。研究結果は、6月18日の一般口演「感染症」で報告された。

 高齢者施設でのインフルエンザ対策の基本はワクチン接種だが、接種株以外のインフルエンザウイルス感染はワクチンでは防げない。いったん施設内流行が拡大すると、「3週間で7割が感染、3割が死亡する」(小杉氏)との実例もあり、感染拡大の阻止は重要な課題だ。

 施設内流行の拡大阻止には、A型インフルエンザウイルスの増殖を抑制する塩酸アマンタジン(適応商品名:シンメトレル)の予防投与が行われてきた。また、体内で増殖したウイルスの拡散を防ぐノイラミニダーゼ阻害薬の承認後は、発症者にノイラミニダーゼ阻害薬を服用させ、インフルエンザを早く治して流行が拡大しないようにするとの戦略も取られるようになったが、両戦略の総合的な有用性の評価はなされていなかった。

 小杉氏らは、2002〜2003年のインフルエンザ流行期に起きた、板橋養護老人ホームでのA型インフルエンザの流行早期に介入。3階の居住者には全員にアマンタジンを14日間予防内服、2階の居住者には発症者のみに直ちにノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビル(商品名:タミフル)を5日間内服してもらい、流行拡大阻止効果や費用などを比較した。

 3階の居住者は53人で、うち男性が29人。平均年齢は78.0歳、ワクチン接種率は69.8%だった。2階は49人(男性27人)で平均年齢が78.4歳、ワクチン接種率は69.4%であり、両フロアの居住者の背景因子はほぼ同じだった。3階では2003年1月2日、2階では1月1日に最初の患者が発生、1月6日までに3階では11人が発熱(うち3人入院)、2階では12人が発熱(うち4人入院)した。3階の11人中7人、2階の12人中9人は38度以上の発熱がみられた。

 小杉氏らはこの段階から介入を開始。すると、全員がアマンタジンを予防服用した3階では、その後1週間で9人が発熱したが38度以上の発熱は3人のみで、入院は一人も生じなかった。同様に、新規発症者のみにオセルタミビルを5日間飲ませた2階では、11人がその後1週間で発熱したが(うち5人がオセルタミビルを服用)、38度以上は4人のみで、一人も入院しなかった。両フロアとも、2週目以降の新規発生はなく、介入後1週間で流行が食い止められた。

 介入2週後に行った咽頭からのインフルエンザ分離検査では、3階(検査数16)、2階(検査数22)のいずれからも2例ずつが分離陽性となった。3階ではうち1例が、アマンタジン添加培地でも増殖するアマンタジン耐性株だったが、この株による新規流行は起こらなかった。

 「全員へのアマンタジン予防投与」と「発症例のみへのオセルタミビルの治療投与」のどちらも、介入後1週間で流行の拡大を阻止したとの結果だが、大きな違いがあったのは薬剤費。前者は5万8766.4円(1日薬価79.2円×14日×53人)、後者は1万8885.0円(1日薬価755.4円×5日×5人)となり、1日薬価はオセルタミビルの方が高いものの、服用日数や服用人数が少ないため、総薬剤費は3分の1で済んだ。

 副作用はアマンタジン予防投与を受けた人で一人にふらつきが生じたが、オセルタミビル治療投与群には一人も生じなかった。さらに、「薬の説明に要する手間は、オセルタミビルの方がはるかに少なかった」と小杉氏は強調。オセルタミビルにはウイルスの増殖そのものを抑える効果はないため、“発症後早期に投薬を開始できる”との条件が満たせる施設以外では適用できないが、そのような施設ではオセルタミビルの治療投与の方が有用性が高いと結論付けた。

 発表後の質疑応答では、「この検討には無介入群が置かれていない。7割がワクチン接種を受けているような優良施設では、何も介入しなくても(介入後)1週間で流行は収まったのではないか」との趣旨の質問が出された。

 これに対し、小杉氏は「介入後は38度以上の高熱や入院が一人も起こらなかったことを考えると、介入に一定の効果はあったのではないか」と回答。座長を務めた共同研究者の稲松孝思氏(東京都老人医療センター)は「自然経過では流行の収束まで3〜4週間かかるところ、今回は(介入前から通算して)2週間で収まった。厳密ではないが、効いていると言えると思う」と追加した。(内山郁子)

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