2003.06.19

【日本老年医学会速報】 眼球の動きで知的活動を評価、痴呆の「自動診断」に期待

 長岡技術科学大学工学部医用生体工学教室の福本一朗氏、内山尚志氏らは、目の前を横切る物体(指標)を追いかける眼球の動きを計測する「追跡眼球運動」の計測装置を開発。若年・高齢の健常者とアルツハイマー病患者に対する計測結果を、6月18日の一般口演「痴呆」で報告した。アルツハイマー病患者では、健常者よりも明らかに追跡運動に遅れが認められたという。

 加齢そのものによる眼球運動の低下を評価系にどう組み込むかは今後の課題だが、「高齢者施設などで同一人物を定期的にチェックすることで“変化”を蓄積すれば、将来的に痴呆の発症も予測できる可能性がある」と内山氏らはみている。

 目を動かす「眼球運動能力」は加齢により低下するが、アルツハイマー病患者では、なかでも「衝動性眼球運動」と「滑動性眼球運動」に低下が著しいことが報告されている。この二つは標的を追跡する眼球運動反射に欠かせない能力だが、後者は計測データにノイズが多く(S/N比が悪く)、正確な計測が難しかった。

 内山氏らは、複数回の計測データを、「指標を追いかける眼球運動」が始まる時間(初動時間)でタイミングを揃えた上で、加算平均するというノイズ減少手法を開発。ゴーグル状の計測器を付けて目の前を横切る標的を追いかけてもらい、眼球の動きをCCDカメラで撮影、視線の位置を自動計測する装置を開発して追跡眼球運動を計測した。

 計測の対象は、アルツハイマー病患者が19人、高齢健常者が18人、若年健常者が7人。3段階のスピードで標的を移動させたところ、どの速度でも、アルツハイマー病患者では眼球の初動時間が遅い傾向があることが判明した。一方、高齢健常者では、標的の移動速度が速い場合は初動時間が若年健常者より遅れたが、移動速度が遅い場合は若年健常者並みの初動時間で標的を追跡できた。

 また、右目の視線を右から左に動かす場合、まず外側直筋、次いで内側直筋が働くが、この切り替えにかかる時間(内外直筋切り替え時間)は明らかにアルツハイマー病患者で高齢、若年の健常者よりも遅かった。標的を最初に捉えた時の眼球の位置(ピーク座標)も、アルツハイマー病患者で有意に健常者よりも低い、つまり標的を捉えるのが遅れることがわかったという。

 現在、アルツハイマー病などの痴呆の診断には、ミニ・メンタル・ステート検査(MMSE検査)などの知能検査やCTなどによる脳の病理学的変化の評価、ポジトロン断層装置(PET)などによる脳機能の評価などが行われている。眼球運動の計測からは、それらとは質的に異なる情報が得られると内山氏らは考察。従来の診断情報に、眼球運動計測データを加えることで、より正確な鑑別診断が可能になると論じた。

 この発表に対し、座長の馬原孝彦氏(東京医科大学老年病科)は「高齢者を対象とした診断装置の開発では、必ず、加齢に伴う変化をどう扱うかが問題になる。(装置の実用化のためには)各年代ごとの数字(基準値)を出さなければならない」と指摘。内山氏は「データの蓄積を通し、加齢に対する変化分を補正することで対応していきたい」と述べた。(内山郁子)

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