2003.06.16

【現地報告】 ESH/ESC高血圧ガイドラインが公表、JNC7との違いを明確に打ち出す

 イタリアMilanoで開催中の欧州高血圧学会(ESH)の記者会見で6月13日、同学会と欧州心臓病学会(ESC)による高血圧ガイドラインが公表された(関連トピックス参照)。先月発表された第7次改訂米国高血圧ガイドライン(JNC7)とはいくつかの点で大きな違いがみられた。ガイドラインの概略と、記者会見の模様を現地から報告する。

JNC7で導入の「高血圧前症」は採用されず

 最も注目されるのは、JNC7で採用された「高血圧前症(Prehypertension)」という概念の否定だろう。120/80mmHg以上140/90mmHg未満を「高血圧前症」としたJNC7に対し、ESH/ESCガイドラインは「120/80mmHg以上130/85mmHg未満」を「正常」、「130/85mmHg以上140/90mmHg未満を」「正常高値」とし、世界保健機関(WHO)/国際高血圧学会(ISH)ガイドラインとの足並みを揃える。

 ESH/ESCの高血圧ガイドライン委員長であるイタリアMilano-Bicocca大学のGiuseppe Mancia氏は、記者会見で「高血圧前症と言っても全例が高血圧となるわけではない。またそのようなネーミングは患者の緊張感を高めるだけだ」と発言、JNC7を批判した。なお、WHO/ISHの血圧分類にあった「境界域高血圧」は、欧州のガイドラインであるにもかかわらずESH/ESCガイドラインでは採用されていない。

「血圧×臓器障害・合併症」によるリスク分類を採用

 また、JNC7が基本的に血圧のみで薬物治療を開始するとしたのに対し、ESH/ESCガイドラインでは従来通り、「血圧」×「臓器障害などの危険因子」から心血管系リスクを明らかにし、血圧とリスクを勘案して薬物治療の開始を決定する。「血圧が同等でも臓器障害の程度によりリスクは異なるのだから、リスクに応じた治療がなされるべきだ」というのがその理由で、この点に異存のある向きはないだろう。

 その結果、「正常血圧(120/80mmHg以上130/85mmHg未満)」から「グレード3高血圧」まで5つの血圧分類ごとに危険因子が4段階にランクされた20通りの組み合わせが出現した。

 興味深いのは、WHO/ISHガイドラインでは140/90mmHg以上のみを対象に行われていたこのランク付けが、ESH/ESCガイドラインでは「120/80mmHg以上」というJNC 7の「高血圧前症」までを対象としている点だ。

 記者会見においてMancia氏は「患者を心血管系イベントから守るために血圧コントロールが必要だという点で、本ガイドラインとJNC7は共通しており、そのためには140/90mmHg未満でもリスクが高ければ介入する必要がある」と述べていたが、その現れかもしれない。

 なお、ESH/ESCガイドラインの治療アルゴリズムでは130/85mmHg以上の患者のみが対象とされており、「正常血圧でリスクが増加している」例に薬物治療を開始すべきか否か」は明らかではない。

臨床試験万能主義を排し、超高齢者にも言及

 第一選択薬もESH/ESCガイドラインとJNC7では、とりわけ利尿薬とα遮断薬に関し差が見られるが、基礎となる臨床試験(エビデンス)に対する評価の違いが原因となっている。「臨床試験は4〜5年間という、高血圧治療としては比較的短期の結果しか明らかにしない」との立場を取るのがESH/ESCガイドラインであり、JNC7が長期的な代謝の悪化を「証明されていない」という形で利尿薬を第一選択薬とするのとは考え方が大きく異なる。

 従ってESH/ESCガイドラインでは、死亡や心筋梗塞・脳卒中発症などの確実な(ハードな)評価項目だけでなく、左室肥大退縮や代謝改善などの中間評価項目(intermediate endppoint)も考慮している。とはいえ、確実な評価項目が中間評価項目で予測できるのであれば、いわゆる「ネガティブ・トライアル」はなくなるのではとの疑問も残るところだ。

 高齢者に関しては、JNC7は65歳以上の高齢者でも若年者と同様の降圧目標を設定し、多剤併用による積極的降圧を推奨している。ESH/ESCガイドラインでもこの点は同様だが、「拡張期血圧をどこまで下げて良いかは不明だ」ともしており、高齢者にとって安全な拡張期血圧下限を明らかにする必要性を記している。高齢者では収縮期高血圧が多いため、収縮期血圧を目標値まで下げようとするがために拡張期血圧が下がりすぎる恐れを考慮したものだろう。

 ただし、80歳以上の超高齢高血圧患者に関しては、「降圧により心血管系イベントは減少するが、死亡率減少は認められない」とするメタ解析の結果が付記されている。この点に関しては、昨年ISHで報告された「HYVET」パイロット試験(関連トピックス参照)でも確認されている。

 「HYVET」試験では、80歳以上で収縮期血圧180mmHg前後の高齢者を150mmHg前後まで降圧したところ、無治療群(174mmHg)に比べ「脳卒中」は有意に減少した。しかし、「死亡」、「心血管系死亡」、「非心血管系死亡」は増加傾向が認められている。

 JNC7には超高齢者に対する記述がないが、これはおそらく、現実問題として米国では必要性が低いためだろう。こうしたガイドラインの言及範囲の差に、欧州と米国の疫学の差が反映されているようで興味深い。

 このように多くの点で結果としてJNC7と異なる結果となったESH/ESCガイドラインだが、ESHのセッションとしては16日に公表される。その際に興味深い議論が交わされれば、追ってお伝えします。(宇津貴史、医学レポーター)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.6.16 ESH/ESCの欧州版高血圧GLが発表、「高血圧前症」を用いず旧来通りの血圧分類を採用
◆2002.6.25 超高齢者に対する降圧療法の有用性を検討するHYVET、Pilot試験の結果報告

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