2003.06.03

【ASCO速報】 グリベックの開発者B.Druker氏が ASCOのKarnofsky 記念賞を受賞

 ASCOが与える賞の中で最も名誉ある Karnofsky記念賞の今年の受賞者に、慢性骨髄性白血病治療薬メシル酸イマチニブ(商品名;グリベック)の開発者である米国 Oregon&Health Science大学教授のB.Druker氏が選ばれた。Karnofsky 記念賞は、世界で初めての抗癌剤ナイトロジェンマスタードを開発したD.Karnofsky氏にちなんで、ASCOが、最近の癌治療の進歩に最も貢献した研究者に授与する賞だ。Druker氏は受賞講演の中で、「癌の分子機構を解明すれば、それに基づいた効果的な治療法を開発できるという過去数十年の癌研究の前提を、イマチニブは実証した」と強調した。

 受賞講演で、Druker氏はまず、1850年代から始まった慢性骨髄性白血病(CML)の研究の歴史、放射線治療、ハイドロキシウレア、インターフェロン(IFN)など、CMLに対して試みられた経験的治療の歴史を振り返った。

 そして、1960年のフィラデルフィア染色体の発見が大きな転機になったとし、それに始まるCML発症の分子機構の解明と、チロシンキナーゼのリン酸化を介する細胞内蛋白の増殖シグナル伝達機構の解明が同時に進行したことにより、フィラデルフィア染色体上の異常蛋白BCR/ABLのチロシンキナーゼ酵素活性部位を特異的に阻害する化合物(イマチニブ)が生み出された経緯を紹介した。

 次に、イマチニブに関する第1から第3相までの臨床試験の結果を概説。IFN不応のCML例に対する第1相試験では、イマチニブ300mg/日かそれ以上の量の投与により、98%の患者で血液学的寛解が得られるなど予想外の成功を収めたこと、続く第2相試験では、慢性期の同様の患者の90%以上で血液学的寛解、半数以上の患者で細胞遺伝学的寛解が得られたものの、移行期や急性転化期ではそれぞれ約24%、約16%と細胞遺伝学的寛解が低く、再発率も50〜90%と高いなどの課題を残した。

 そして、新たに診断された慢性期CML約1100例を対象に、イマチニブ単独とIFN・シタラビン併用療法とを比較した第3相試験では、血液学的寛解、細胞遺伝学的寛解のいずれにおいても、イマチニブがIFN・シタラビン併用療法よりも有意に勝る結果となったことを示し、イマチニブのCML治療に与えたインパクトを強調した。

 とはいえ、CMLにおいてはまだ残された課題は数多くあるとし、具体的には、1.イマチニブの反応はいつまで続くのか、2.移植との選択基準は何か、3.慢性期においてさらなる改善は可能か、4.急性期の患者はイマチニブ投与にもかかわらず、なぜ再発しやすいのか−−などの問題点を挙げた。とりわけ、再発の問題は最も重要であるとした。

 再発するケースには、BCR/ABLチロシンキナーゼがイマチニブにより阻害されている場合と、阻害されない場合が考えられるが、後者のケースがほとんどであるとし、その場合、bcr/abl遺伝子・蛋白の増幅や点突然変異が原因と考えられるとした。特に最近の研究では、イマチニブに耐性を示すようになった患者の50%にbcr/abl遺伝子の点突然変異が見付かったという。そのようなイマチニブに抵抗性を示す例に対し、Srcキナーゼ阻害薬のような新しい薬が現在研究であり、今後期待されるとの見通しを示した。

 さらに、イマチニブがCML以外のc-kitなどのチロシンキナーゼ活性により生じる疾患にも試みられていることに言及、イマチニブがGIST(消化管間葉腫瘍)に奏効した臨床試験の結果を紹介した。

 しかし、イマチニブのような標的に基づく治療を他疾患にも応用していく場合、CMLの約100%、GISTの約90%にチロシンキナーゼ活性が生じているのに、それを阻害するはずのイマチニブを投与しても、寛解率はたかだか50〜60%にとどまるというギャップがあることから、治療の標的とする癌の異常分子の発現率と、実際の治療効果が必ずしも一致しない事実をどう治療に生かしていくべきかが重要だと指摘した。それには、例えば、急性期の反応性が悪いのは確かだが、中でも効いている例があることに目を向けるべきであり、その患者はどんな分子的異常を発現し、標的とする薬がどのように作用しているかを追究すべきだとした。

 最後に、Druker氏は、イマチニブの経験は私たちに幾つかの教訓を与えてくれたと話し、「よい標的とそれにあった良い薬があれば、よい結果が得られるのは分かったけれども、一方で、古くから言われているように、病期がより早期であれば、治療効果も高いという事実も忘れてはならない。実際、イマチニブも慢性期で奏効した。今後の癌治療は分子標的の追究だけでなく、早期診断や免疫賦活など様々な広いアプローチが求められる」と締めくくった。(大滝隆行、日経メディカル

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