2003.05.20

【現地報告】 米の高血圧ガイドラインJNC7を巡り、ASH学会で質疑応答が白熱

 米国高血圧学会(ASH)は5月15日、前日に発表された米国の新しい高血圧ガイドライン、JNC7に焦点を当てたセッションを開催した(関連トピックス参照)。セッションの質疑応答では、JNC7に対する批判的な意見が相次ぎ、いくつかの意見は会場を埋めたドクターの拍手を呼んだ。回答を一手に引き受けたのは、JNC7作成委員会(Executive Comittee)の一員である米国Boston大学のAram Chobanian氏。現地で繰り広げられた、白熱した議論をお送りする。

利尿薬の推奨は「エビデンス」と「コスト」が理由、治療戦略は非専門医向けに単純化

 最も多かったのは「薬物治療」に関する質問だ。

 「合併症のないステージ1高血圧に対し、なぜサイアザイド系利尿薬が第一選択薬なのか」との問いに対し、Chobanian氏は、利尿薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン2(A2)受容体拮抗薬、β遮断薬、カルシウム(Ca)拮抗薬はいずれも合併症減少作用が明らかになっているが、「エビデンスの数」と「コスト」の点から利尿薬が好ましいと回答。「『ほとんどの患者には利尿薬』という形で柔軟性は持たせてある」と指摘した。

 また、「利尿薬単剤治療による糖尿病増加の影響への考慮が無いのではないか」との意見も出された。これは、昨年12月に発表された「ALLHAT」(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)研究(関連トピックス参照)で、利尿薬群の糖尿病発症率が高かったことを受けたものだが、Chobanian氏は「モニターは必要だが、ALLHATにおける血糖値増加はそれほど重大ではない」との見解を示した。

 JNC7で提示された治療アルゴリズムは、「迷ったら利尿薬(ほとんどの患者には利尿薬)」と単純化する一方、個々のドクターの判断も尊重するという形だが、この「単純化」は高血圧非専門医を意識したものだという。JNC6にあった「血圧×リスクファクター」による心血管系リスク分類をJNC7では採用しなかったのも、同様の理由によるとChobanian氏は述べた。「非専門医と一般公衆にとってJNC-VIは複雑すぎた」とも同氏は述べている。

 見方を変えれば、主として非専門医・公衆向けに作成したガイドラインに対し、専門医が介入した一面があったのは否定できない

 例えばJNC7では、第一選択薬により十分な降圧が得られない場合「増量と併用」を推奨している。しかし、これは非専門医向けであり、専門医対象である本セッションでは「必ずしも、降圧薬切り換えを否定するものではない」とChobanian氏も答えている。

「高血圧前症」は薬物療法の対象外、コスト面からも生活習慣の改善を

 次に問題にされたのは、「高血圧前症」(prehypertension:120/80〜139/89mmHg)という概念の導入だ。会場からの意見には「いたずらに患者の不安をあおる」というものが多かった。「130/80mmHgにコントロールできている患者がおり、患者ともども満足しているが、そのような患者を落胆させるのか」という意見に代表される。

 これに対しChobanian氏は、作成委員会でもこの名称を付けるにあたってはかなり議論を重ねたことを認めた上で、「正常高値」と呼ぶのでは「治療に向かわせる力が弱い(not encouraging nor orientating)」ため、あえてこの呼称としたと説明した。既報の通りJNC7では「治療率・受診率の改善」に力を入れているとみられ、このような判断になったようだ。

 「高血圧前症」は、原則として薬物治療の対象となっていない。その理由を尋ねられたChobanian氏は、「これらを薬物治療でどこまで降圧すべきかのエビデンスがまだない」、「そのような患者では脂質・糖代謝の軽度悪化、軽度肥満を認める場合が多いと考えられるので、生活習慣改善により『健康な生活』に戻すのがベストと考えられる」と説明した。

 なお、5月14日のサテライトシンポジウム「血圧コントロールと臓器保護最適化のための新しい治療戦略」では、作成委員会の一員であるWilliam C. Cushman氏が「コストの問題があるため」との説明を行っている。

 全体として、JNC7では、安価な利尿薬が非専門医に広く用いられるようにすることで、「安価な降圧治療で、高価あるいは致死性の疾患が予防できるならば」と、未治療例の受診を増加させる狙いがあるようだ。極論すれば、未治療よりは利尿薬でも治療した方がよい、との方針と受け取れる。さらに、「簡便な治療方針提示により、高血圧非専門医も積極的に降圧治療を行う」という形で、米国全体の血圧コントロールを改善しようとしていると見受けられた。

「高血圧に利尿薬」は「高熱にペニシリン」と同じ暴言?

 そのような観点からの血圧分類・治療に、ベストの降圧治療を旨とする高血圧専門医が賛同できないのも無理はない。

 5月16日には「レニン2003、そしてALLHATとの関連」と銘打ったセッションが開催されたが、このセッションは、JNC7とその大きなよりどころとなった「ALLHAT」研究に対する、さながら糾弾集会の様子を呈した。

 いわく、「『高血圧に利尿薬』は『高熱にペニシリン』と同じ暴言」「同じ血圧値でも心血管イベントハイリスク例を特定するのが医者の仕事」など。さらに、「『ALLHAT』研究はJAMA Express(Journal of the American Medical Association誌の迅速審査論文欄)に掲載されたが、あの欄では査読者からの問い合わせに72時間以内に答えねばならない。あれだけ多くの掲載者が全員目を通せるのか」との疑念まで出された。

 草稿は24稿を重ね、討議は朝6時半から夕食後まで行い、12月17日からという短期間で完成させたというJNC7。作成委員のドクター達の苦労は現実に花開くのだろうか−−。(宇津貴史、医学レポーター)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.5.16 現地報告】JNC7、米国高血圧学会でも公表される
◆ 2002.12.18 「利尿薬はACE阻害薬、Ca拮抗薬に勝る」−−NHLBIが「ALLHAT」研究結果を発表

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