2003.05.15

【現地報告】 JNC7、米国高血圧学会でも公表される

 米国心臓肺血液研究所(NHLBI)が米国Washington D.C.で5月14日公表した、JNCとして知られる高血圧ガイドラインの第7次改訂版(JNC7)だが (関連トピックス参照)、5月15日、New Yorkで開催中の米国高血圧学会でもセッションが組まれ、高血圧専門医へのお披露目が行われた。

 JNC7では、「高血圧前症(Prehypertensive)」という概念が導入され、JNC6に比べ予防色が強まった。同時に、JNC6で採用された「血圧×危険因子」による心血管系リスク評価がなくなり、より簡便で「リスクとしての高血圧」を前面に打ち出すものとなった。

血圧分類の変更

 JNC7では、従来「至適血圧」とされた「120/80mmHg未満」を「正常」と定義。さらに「120/80mmHg以上、140/90mmHg」を「高血圧前症(Prehypertension)」とし た。「高血圧前症」はJNC6で「正常」または「正常高値」とされていた値だが、報告に当たった米国Boston大学のAram Chobanian氏によると、次の二つの理由から「高血圧前症」との概念を導入したという。

 理由の一つは、加齢とともに血圧が上昇し、従来「正常」とされていた血圧例でも多くはその後高血圧となるという点。もう一つの理由は、心血管系合併症のない高血圧を対象とした61件の前向き(プロスペクティブ)観察試験をメタ分析した結果、115/75mmHgで心血管系死亡と総死亡は最も少なく、そこから20/10mmHg血圧が上昇するごとに、心血管系死亡の相対リスクはほぼ倍増することが判明したためだ(Lancet;360,1903,2002)。

 これが示唆するのは、JNC6で定義した「正常血圧」(130/85mmHg未満)が必ずしも正常とは呼べず、血管障害は、これまで“正常”と思われてきた極めて低い血圧値から始まっているということだ。以上から、「高血圧となる以前に手を打たなければ、心血管系イベントをもたらす血管障害の効果的抑制は困難」との考えが採用され、「高血圧前症」の時点で、積極的な生活習慣改善による「120/80mmHg未満」への降圧を推奨することとなった。

 なお「140/90mmHg以上、159/99mmHg以下」を「ステージ1高血圧」とするのはJNC6と同様だが、「160/100mmHg以上」は一括して「ステージ2高血圧」とされ、JNC6で見られた「ステージ3高血圧」は姿を消した。

 同様に、血圧値と危険因子の数により患者を9グループに分けてリスクを判別し、治療法を示した表もJNC7では採用されなかった。

降圧目標と治療

 心血管系合併症のない高血圧患者の降圧目標はJNC7でも「140/90mmHg未満」だが、「糖尿病合併高血圧、または腎障害合併高血圧」の降圧目標は「130/80mmHg未満」となった。ちなみに、JNC6における糖尿病合併患者と腎障害患者の降圧目標は「130/85mmHg未満」(尿蛋白>1g/24時間腎機能障害例では125/75mmHg)だった。

 降圧治療の基本が「生活習慣改善」であるのはJNC6と同様だが、生活習慣改善によっても上記の目標値が達成されない場合が、薬物療法の適応となる。Chobanian氏は、生活習慣改善、薬物療法を問わず「『降圧そのもの』が重要である」点を強調した。

 薬物療法はJNC6と同様、「合併症の有無」で分けられるほか、合併症のない場合、血圧別に治療方針が示されたが、全般的にJNC6より簡略化された。

 まず心血管系合併症がない場合、「ステージ1高血圧(140/90〜159/99mmHg)」では、「ほとんどの場合、サイアザイド系利尿薬」で治療を開始するが、「アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン2(A2)受容体拮抗薬、β遮断薬、カルシウム(Ca)拮抗薬から開始し得る場合もある」とされた。「利尿薬・β遮断薬を第一選択として、その他の薬剤の適応を考慮する」としたJNC6からは大きな変更となる。

 合併症のないステージ2高血圧(160/100mmHg以上)では、「多くの場合、2剤併用が必要になるが、一般論として、そのうちの1剤は利尿薬であるべ き」(Chobanian氏)だという。なお、合併症がない場合の薬剤としては、α遮断薬とαβ遮断薬の名前が消えた。

 合併症を認める高血圧の場合、JNC6と同様、「積極的適応」(禁忌でない場合)が示されている。JNC6公表以降に明らかになったエビデンスが反映されており、特に、ACE阻害薬とA2受容体拮抗薬で積極的適応となる病態に差が見られるようになった。

 JNC6からの主な変更点を挙げると、「心不全合併高血圧」に積極適応がある薬剤として、ACE阻害薬と利尿薬の他に「β遮断薬」と「A2受容体拮抗薬」「アルドステロン拮抗薬」が加わった。アルドステロン拮抗薬は「心筋梗塞後の高血圧」にもβ遮断薬、ACE阻害薬に並んで名を連ねた。なおA2受容体拮抗薬は「心筋梗塞後の高血圧」に積極的適応とされなかった(参考トピックス参照)。

 さらにJNC6で「尿蛋白をともなう糖尿病」とされていたものは、「慢性腎疾患合併高血圧」と「糖尿病合併高血圧」に分けられ、前者にはACE阻害薬とA2受容体拮抗薬が積極的適応とされた。後者の積極的適応には、利尿薬、β遮断薬、ACE阻害薬、A2受容体拮抗薬とCa拮抗薬が挙げられ、「Ca拮抗薬」を糖尿病合併高血圧に対する第 一選択薬から事実上除外した米国糖尿病協会(ADA)とは異なる態度を示した。

 また、JNC7では「冠動脈疾患ハイリスク高血圧」に積極的適応とされる薬剤も示され、利尿薬、β遮断薬、ACE阻害薬とCa拮抗薬が挙げられたが、A2受容体拮抗薬は含まれなかった(関連トピックス参照)。さらに、「脳卒中再発抑制」には慢性期のACE阻害薬・利尿薬併用が積極的適応となった。

公衆衛生的アプローチ

 NHLBIは、JNC7公表と同時に一般向けの「血圧低下案内」と銘打ったホームページを開設。また専門家向けのホームページでは、JNC7を簡便にまとめたチャートやスライドセットを入手できるようにした。さらに、NHLBIのEdward J. Roccella氏は、Washington DCでの記者会見において「今後、食品・外食産業に向け、加工食品の減塩を働きかける」と述べた。

 JNC7では、米国における高血圧治療の実態も公表されたが、それによると、自らの高血圧に「気付いている」人は高血圧患者の70%を占める。しかし、「治療を受けている」人は59%、「血圧がコントロールされている」人は34%に過ぎない。こうした実態を鑑み、JNC7では、「治療」(血圧コントロールの改善)、「患者への治療を促す教育・広報」(治療率の改善)、さらに「一般教育と社会条件の整備」(高血圧発症予防)の三つを介入策の柱にする模様だ。
 本セッションにおける質疑応答の概要も、追ってお伝えします。(宇津貴史、医学レポー ター)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.5.15 米JNCが高血圧ガイドラインを改訂、血圧120〜139/80〜89mmHgを「高血圧前症」に
◆ 2002.3.22 ACC '02速報】「LIFE」と「OVERTURE」、予想外の結果に−−LBCT 3より

■ 参考トピックス ■
◆ 2002.9.12 AMI後ハイリスク患者の死亡率、ロサルタンとカプトプリルで有意差出ず−−OPTIMAAL試験より

Information PR

ログインしていません

Close UpコンテンツPR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. 医師国家試験を解答するAIの正体教えます トレンド◎人工知能が医療現場にやってくる FBシェア数:129
  2. その開業話、本当に進めても大丈夫ですか? その開業、本当に大丈夫ですか? FBシェア数:19
  3. 清掃中に生じた精巣痛の原因は? 山中克郎の「八ヶ岳から吹く風」 FBシェア数:32
  4. 「教えるプロ」に学ぶ、下部消化管内視鏡検査 薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」 FBシェア数:2
  5. 脳梗塞に対するt-PA投与をiPhone使って判… トレンド◎日本初の保険適用アプリ「Join」、入院日数・医療費減にも効果 FBシェア数:348
  6. 向精神薬になったデパス、処方はどうする? トレンド◎ベンゾジアゼピン系薬の安易な処方に警鐘 FBシェア数:1300
  7. 燃え尽きる前に、やるべきことは1つ! 研修医のための人生ライフ向上塾! FBシェア数:0
  8. 男性医師は何歳で結婚すべきか、ゆるく考えた 独身外科医のこじらせ恋愛論 FBシェア数:201
  9. デパス向精神薬指定の根拠とは Interview FBシェア数:148
  10. 天才は、扱う人間を格付けする意味で罪作り!? 松原好之の「子どもを医学部に入れよう!」 FBシェア数:0