2003.05.07

SARSに効く漢方とは

 中国でのSARS(Severe acute respiratory syndrome、重症急性呼吸器症候群)患者は増加の一途をたどり、当初の中国政府の初期対応のまずさが露呈した。これは決して対岸の火事ではない。もし日本でSARSが広がったとき、中国と違って適切な対応ができるかどうかはきわめて不安だ。かつての日本政府のBSEへの対応がどうしても思い起こされてしまう。

 SARSのような未知の伝染病は一般のパニックを招きやすい。するとそれに便乗した悪徳業者が登場する。中国では安物のマスクをハイテクマスクだと偽って売ったり、予防に有効だと漢方薬を高値で売りつけたりする業者がでてきているという(1)。インターネット上でもSARS用に免疫力を高めるサプリメントなどが販売されている。中にはSARSトラベルキットと銘打って、マスクや手袋、サプリメントなどをセットにして販売しているところまであるという(2)。しかし、これらのグッズにSARSを予防する効果が証明されているわけではない。

 今回のSARS報道の中で私の興味をひいたのは、中国で爆発的に売れているという漢方薬のことである。これは板藍根(Banlangen)と呼ばれ、アブラナ科の植物の根をもとにした漢方薬である。インターネットで調べると抗ウィルス作用、抗菌作用などがあり、従来中国ではインフルエンザなどの治療や予防に利用されていたらしい。SARSの初期症状がインフルエンザに類似した発熱、筋肉痛などであることから、この漢方薬が注目されたのだろう。中国ではその他にも何種類かの漢方薬がSARS治療に利用されているらしい。

 広東省のある病院がWHOの調査団員に、漢方薬を投与された患者の解熱や回復が比較的早いことを示すデータを提示したところ、その一人が興味を示したという話が報道されている(3)。

 WHOの発表した発症者数と死亡者数からSARS死亡率を計算すると、5月3日時点で435/6234=7.0%となる。これに対し、中国や香港での死亡率はそれぞれ190/3971=4.8%、179/1621=11.0%であり、中国、香港を除いた死亡率は66/691=9.6%である。

 確かに中国での死亡率は他の地域より低いように見えるが、だからといって中国で使用されている漢方薬が効果的であると判断するのは早計だ。中国では新規発症が多く今後死亡者が増える可能性のあること、徐々に治療法が確立してきているので当初より死亡率が減少してきているかもしれないこと、まだSARSの確定診断が難しいことなどを考えると中国でのSARS死亡率が低いと断定することはできない。しかも、漢方薬が利用されていると思われる香港での死亡率が他の地域とほとんど差がない。

 私としては、本当に漢方薬にSARSの重症化抑制効果があるかどうか確認してもらいたいと思っている。なにしろ、エビデンスがないにもかかわらず利用されている抗ウィルス剤リバビリンより漢方薬の方が副作用が少ないだろうから。

 いずれにせよ、中国でのSARS患者数の増加をみるにつけ、酢や漢方薬などの付け焼き刃的な予防法より、すみやかな行政による系統だった予防策の方がはるかに重要であることは論を待たない。

■参考文献■
(1) 産経Web:偽ハイテクマスク横行 北京の路上、10倍の値段で売買http://www.sankei.co.jp/databox/sars/points/mask.html
(2) BMJ 326:900, 2003
(3) 日経ネット:WHO調査団「SARS、漢方に治療効果も」
http://health.nikkei.co.jp/sars/index.cfm?i=2003040708695pa&genreNum=4

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