2003.04.16

【日本産科婦人科学会速報】 HIVの母子感染、帝王切開分娩で子への感染率を2%未満に抑制−−厚労省研究班調査

 全国の産婦人科標榜1670施設を対象とした厚生労働省研究班の調査で、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した妊婦が、帝王切開で出産すると、生まれてくる子供への感染率を1.6%に抑えられることがわかった。小児科標榜3308施設を対象とした調査からは、子供がHIVに母子感染した場合は過半数が死亡またはエイズを発症することもわかり、「子供への感染を防ぐためには、妊婦のHIVを早期に診断し、抗HIV薬の内服や選択的帝王切開など適切な予防策を講じることが不可欠」と研究班は強調している。研究結果は、高得点演題として、4月14日に口頭発表された。

 産婦人科を対象とした調査では、2003年3月までにHIV感染妊婦の把握数がのべ275人に達したことが判明。うち175人(64%)が子供を出産したが、帝王切開で出産した146人(全出産数の83%)からは子供への感染が2例しか起こっていないのに対し、経膣分娩した29人(同:18%)からは12人のHIV感染児が生まれたことがわかった。

 経膣分娩例には、出産まで母親のHIV感染がわかっておらず、抗HIV薬投与など適切な予防策が取られていなかったケースが含まれている。しかし、そうしたケースを除いても、経膣分娩での子供へのHIV感染率は29.4%(17人中5人)と、帝王切開分娩の1.6%(125人中2人)を大きく上回った。

 HIV感染妊婦への抗HIV療法は、従来のアジドチミジン(AZT)単剤投与から、高活性抗レトロウイルス療法(HAART療法;AZTなどの逆転写酵素阻害薬とプロテアーゼ阻害薬を併用する投与法)へと切り替わりつつある。今回の調査で、HAART療法を受けた妊婦では4割で血中ウイルス量が100分の1以下、3割で10分の1以下にまで下がることも判明。研究結果を発表した防衛医科大学校分娩部の喜多恒和氏は、母子感染を防ぐために「妊婦のHIV感染を早期に診断し、HAART療法を行った上で選択的な帝王切開で分娩することが望ましい」と述べた。

小児感染例の半数以上が発病、妊婦全員にHIVスクリーニング検査を

 一方の小児科調査では、これまでにHIV感染妊婦から生まれた子供をのべ193人把握しており、この数は産婦人科調査で把握されている出産数より18人多い。うち30人がHIVに感染したことが判明したが、感染した子供は経膣分娩で生まれたケースが大半で、半数には母乳も与えられており、結果を発表した三重県立総合医療センター産婦人科の谷口晴記氏は「ほとんどのケースで産科的な介入がなかった」と指摘した。

 子供がHIVに感染していることがわかった時期は様々で、生まれた時に既にカリニ肺炎などの症状が出ていた場合もあるが、1歳時に「歩かない」と連れて来られた子供が既にエイズ脳症を発症していたケースや、母親の発症を機会に検査を受けて感染が判明したケースもある。感染した子供は、現在までに過半数が死亡したりエイズを発症しており、谷口氏は「HIV感染小児の予後は悲惨」と、母子感染予防の大切さを強調した。

 なお、感染妊婦には従来、タイ人などの外国人が多いと報告されてきたが、「1999年以降は日本人が人種としては最も多くなっている」と喜多氏は指摘する。また、感染妊婦の拾い上げには抗HIV抗体検査が欠かせないが、この検査は全妊婦に行う医療機関がある一方、全く行わない医療機関もあり、実施率に地域差が大きいのが特徴だ。

 産婦人科を対象とした調査では、2002年度の妊婦に対する抗HIV抗体検査実施率は全国平均で85.0%。関東・甲信越地区や東海・北陸地区では実施率が9割を超える。一方、中国・四国地区の実施率は70.6%、九州・沖縄地区は53.1%で、これらの地区では抗HIV抗体検査を全く行わない医療機関比率も高い。

 喜多氏は、“ハイリスク”とみなした妊婦のみに検査を行う医療機関もあるなか、「妊婦にはセックス・アクティビティーがある以上、ハイリスクというものはない」と、全例へのスクリーニング検査を推奨。同時に、これから子供を産む世代への性感染症予防教育を進め、感染者そのものを減らす努力が必要だとした。(内山郁子)

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