2003.03.17

【リクエスト】クロムの補充が糖尿病の改善に役立つのか(コラム:医師も戸惑う健康情報)

 New England Journal of Medicineに、2型糖尿病患者に血糖コントロールばかりではなく、厳格な血圧コントロール、食事療法、禁煙、ACE阻害薬投与など様々な介入をすることで、心血管疾患が53%、糖尿病性腎症が61%、糖尿病性網膜症が58%、糖尿病性自律神経障害が63%低下するという研究結果が掲載された(1)。この論文の中で私の興味を引いたのは、サプリメントとしてビタミンCやビタミンEのほか、ピコリン酸クロム(chrome picolinate、chromium picolinate)が投与されていたことである。

 偶然にも先頃、ある糖尿病の患者さんからGTF(glucose tolerance factor、耐糖因子)と呼ばれる健康食品に関する質問を受けた。このGTFにはクロムが含まれている。そこでクロムを含む健康食品について調べてみることにした。

 クロムはインスリン抵抗性を改善するということで、糖尿病やダイエットに利用されるサプリメントのひとつである(ここで言うクロムとは三価クロムのことであり、発癌性のある六価クロムとは同じクロムでも生体への作用は異なる)。

 1950年代、クロムを含まない試料で飼育されたラットでみられる糖代謝異常がビール酵母の投与により改善することが観察された。この酵母にはインスリン抵抗性を改善する成分、つまりGTFが含まれていると考えられた。これが健康食品として流通しているGTFのもととなったようだ。ところが、基礎実験などでGTFに生理作用があることはわかっているのだが、未だに精製されていない。

 現在クロムは糖代謝調節に必要な必須微量元素の一つであると考えられている。その後の研究で、クロムの糖代謝改善作用はインスリンを介したものであること、クロモデュリン(chromodulin、別名 低分子クロム結合物質 low-molecular-weight chromimun-binding substance)と呼ばれるクロムと結合するオリゴペプチドがインスリン受容体に結合し、インスリンの刺激伝達に関与することが明らかとなってきている(2)。

 そこで、クロムが糖尿病を改善させる健康食品の一つとして欧米で利用されているのだろう。欧米では安価な塩化クロムやピコリン酸クロムが利用されているのに対し、日本では主にクロムを含む酵母をもとにした健康食品にGTFという名称をつけて販売されている。日本ではクロムが食品添加物として認められていないため(3)、クロム自体を健康食品にできないという事情があるようだ(4)。

 GTFという名のついた健康食品の宣伝では、上記のクロモデュリンとGTFを混同しているものもある。ある広告には「健康食品GTFが細胞の中でインスリン作用を高め糖尿病を改善する」とかかれている。ところが、上記のクロモデュリンとGTFとはどうも違うものらしい(5)。

 それでは本当にクロムの補充が糖尿病の改善に役立つのだろうか。180人の糖尿病患者を対象とした中国でのRCT(ランダム化比較試験)では、ピコリン酸クロム投与により血糖コントロールが改善したという(6)。その一方で、クロムの糖尿病に対する効果についてはデータが不十分であるというメタアナリシスもある(7)。(なぜかこの論文では中国でのRCTは除外されたため、対象となった463人のうち糖尿病患者はわずか38人という、なんとも情けないメタアナリシスではあるが・・・)。

 現時点では、まだクロムが糖尿病治療に有効であるとするには情報が不十分なようである。しかも、ピコリン酸クロムは細胞内でラジカルを産生するという指摘もあり、その長期的な安全性についても不安が残る(2)。このように考えると、糖尿病治療にピコリン酸クロムを利用することは時期尚早であるといえるだろう。

■参考文献■
(1) N Engl J Med 348:383-393, 2003
(2) J Nutr 130:715-718, 2000
(3) 厚生労働省 「医薬品的効能効果を標榜しない限り食品と認められる成分本質(原材料)」の取り扱いについて 食其発 第20号、平成13年6月28日
(4) 日本医師会雑誌 129:656, 2003
(5) J Nutr 124:117-118, 1994
(6) Diabetes 46:1786-1791, 1997
(7) Am J Clin Nutr 76:148-155, 2002

■関連トピックス■
◆ 2003.2.4 各種危険因子への厳格な介入が合併症を半減、2型糖尿病対象
の「Steno-2」試験で判明



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