2003.01.20

医薬品広告の批判的吟味の必要性

 あるMR氏が、「新しいエビデンスが出ました」と医薬品のパンフレットを持ってきた。そこに最近発表された論文が引用されていたので、さっそくオリジナル論文を取り寄せて読んでみた。ところがその研究は、ランダム化も不十分であり、プライマリエンドポイントでは有意差がなかった。服薬遵守者と非遵守者との比較でやっと差が出ていたが、これも問題だ。一般に服薬を遵守する人たちの方が転帰がよいとされているからだ(1)。薬をきちんと服用する人は服用しない人に比べて、健康や病気に対する意識が違う。これは、食生活をはじめとした生活習慣に影響するだろう。これではその医薬品の効果を評価することができない。

 別のMR氏はある降圧薬に脳卒中予防効果があると論文を紹介してくれた。しかし、論文をよく読むと、予防効果があったのはその降圧薬と利尿薬を併用した場合であって、その宣伝された降圧薬単独ではプラセボと比較して脳卒中の発症率は低下していなかった。

 どうも製薬会社が提供する情報をそのまま信用することはできないようだ。

 先ごろLancetに発表された論文はこのような疑問に端を発したものだろう(2)。スペインの研究者たちは、同国の医学雑誌に掲載された降圧剤、高脂血症薬の広告を調べ、引用された文献の内容が正確に広告に反映されているかどうか調べた。

 引用された文献を調べられた102件の広告(84件はランダム化比較試験の論文を引用)のうち、45件(44.1%)は文献に裏付けられた記述ではなかった。不適切な例として以下が紹介されている。

1)誤った記述:対照と有意差がないのに効果があるかのように記述するなど、ランダム化比較試験の結果を誤って解釈している。

2)関係のない記述:薬物動態に関する文献を引用しながら、副作用の頻度が少ないという内容になっている。

3)特定のグループの患者から得られた結果の一般化;引用された論文ではその疾病を持つ特定の患者にしか効果がなかったのに、その疾病を持つすべての患者に効果があるかのような記述となっている。

4)基礎研究結果を人に流用;動物実験などの基礎研究結果をもとに推測された作用を、人に適用している。

5)効果の誇張:対象やデザインの異なった研究結果を単純に比較し、特定の医薬品の優位性を強調している。

 これらのような広告内容の問題は日本の場合でもありそうだ。

 EBMが重視されるに従い、医薬品の広告にはエビデンスを強調するようなものが多くなってきた。臨床研究が出るとその都合のよい部分を取り上げ、それを宣伝に利用する。引用された論文を読み返さないと、広告の記述の問題になかなか気がつかない。今回紹介したLancetの論文は、医薬品の広告を読む上でも医学論文の際と同様に批判的吟味が必要であることを示している。

■参考文献■
(1) 古川壽亮著「エビデンス精神医療」医学書院、2000年
(2) Lancet 361:27-32, 2003

■参考ホームページ■
「健康情報の読み方」ホームページ

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