2003.01.07

ハイリスク手術患者への肺動脈カテーテルは不要、大規模無作為化試験で判明

 胸部や腹部、腰部骨折などの大手術を受ける高齢患者を対象に、カナダで行われた大規模無作為化試験で、肺動脈カテーテルを挿入してもしなくても1年後までの生存率は変わらないことがわかった。一方、合併症の肺塞栓は肺動脈カテーテル挿入群で有意に多いことも判明した。肺動脈カテーテルは大手術を受ける患者にルーチンに挿入されることが多いが、その意義を巡っては世界的に議論の的となっており、今回得られた結果により「肺動脈カテーテルは不要」との方向で決着が付きそうだ。研究結果は、New England Journal of Medicine(NEJM)誌1月2日号に掲載された。

 肺動脈カテーテル(スワンガンツ・カテーテル)が臨床現場に導入されたのはおよそ30年前。心充満圧や心拍出量、混合静脈血酸素飽和度など、様々な生理的情報が得られることから、特に大きな手術を行う場合には、術中・術後の管理方針を決める上で不可欠なモニタリング手技と考えられてきた。

 しかし、複数の観察研究で、肺動脈カテーテルを挿入した患者の方が生命予後が悪く、合併症も多いことが報告。こうした報告を受け、複数の前向き比較試験が行われたが、これらの試験には無作為化が不十分だったり、プロトコール(試験計画)からの逸脱が多い、症例数が少なく検出力が足りないなどの欠点があり、確たる結論は得られていなかった。

 そこで、カナダ救命医療臨床試験グループ(Canadian Critical Care Clinical Trials Group)は、胸部や腹部などの大手術を受けるハイリスク患者を対象とした無作為化比較試験を計画。およそ9年間をかけて約2000人の患者を登録し、肺動脈カテーテル挿入群と非挿入群に無作為に分け、院内死亡率を1次評価項目として両者を比較した。

 対象患者は、60歳以上で手術リスクが比較的高く(米国麻酔科学会=ASAの指標で3〜4度)、腹部や胸部、腰部の大手術を受け、術後は集中治療室(ICU)での管理が予定されている1994人。平均年齢は約72歳、7割が男性で半数が大血管の手術、9割強が待機手術で、4割弱に狭心症の既往、約4割に心筋梗塞の既往があり、うっ血性心不全の既往は約16%にあった。患者背景には両群にほぼ違いがなく、平均入院日数は両群とも約10日だった。

 肺動脈カテーテル挿入群には、術前から肺動脈カテーテルを挿入し、得られた生理的情報に基づいて(陽性)変力薬の投与などその後の管理が進められた。両群とも9割以上に割り付け通りの医療が行われ、1年後までの追跡率も9割を超えた。

 その結果、院内で死亡した人の割合は、肺動脈カテーテル挿入群(997人)が7.8%(78人)、非挿入群(997人)が7.7%(77人)で、両者に全く差がないことが判明。6カ月生存率(87.4%対88.1%)、12カ月生存率(83.0%対83.9%)にも差が認められず、少なくとも1年後までは、両群の生命予後には違いがないことが明らかになった。年齢や性別、手術部位などで補正を加えても、結果は変わらなかった。

 一方の合併症は、肺塞栓が肺動脈カテーテル挿入群で8人に生じたが、非挿入群には一人も生じなかった(p=0.004)。腎機能不全は非挿入群の方が多かったが有意差は無かった(7.4%対9.8%、p=0.07)。心筋梗塞、心不全、不整脈や肝機能不全、術創の感染、肺炎、敗血症など、その他の合併症には両群で差はなかった。

 なお、肺動脈カテーテルによるモニタリングに基づく治療を行った群では、(陽性)変力薬や血管拡張薬、降圧薬、濃厚赤血球、コロイド投与を行った患者の比率がいずれも有意に高く、結果としてより“濃厚な治療”が行われていた。

 以上から研究グループは「術後にICU管理が必要となるような、高齢のハイリスク手術患者に対し、肺動脈カテーテルを挿入するメリットは認められない」と結論付けている。

 この論文のタイトルは、「A Randomized, Controlled Trial of the Use of Pulmonary-Artery Catheters in High-Risk Surgical Patients」。アブストラクトは、こちらまで。

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