2002.12.18

「利尿薬はACE阻害薬、Ca拮抗薬に勝る」−−NHLBIが「ALLHAT」研究結果を発表

 米国国立衛生研究所(NIH)の下部機関、米国心臓肺血液研究所(NHLBI)は12月17日、高血圧患者を対象とした史上最大規模の臨床試験である「ALLHAT」(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)研究の最終結果を発表した。1次評価項目である冠動脈疾患死・非致死的心筋梗塞の発症率や、2次評価項目のうち総死亡率に有意差はなかったものの、他の心イベント予防効果には有意な違いがあり、「古くから使われてきた利尿薬が、より新しい高血圧治療薬より勝る」(traditional diuretics work better than newer medicines for treating hypertension)との結果になった。

 この試験結果を受け、NHLBIは「高血圧の薬物治療は利尿薬で開始すべき」との見解を紹介。1剤だけでは降圧目標値に到達せず、複数の降圧薬の併用が必要となる患者も少なくないが、その場合も併用薬の中に利尿薬を含めるべきとした。ALLHAT研究と、参加者の一部を対象とした脂質介入試験「ALLHAT-LLT」(Lipid-Lowering Trial)の原著論文は、Journal of American Medical Association(JAMA)誌12月18日号に掲載予定で、本日からJAMA誌ホームページ上で早期公開された。

 ALLHAT研究の対象は、高血圧以外の冠動脈疾患危険因子を一つ以上持つ55歳以上の高血圧患者4万2418人。利尿薬のクロルタリドン(わが国での商品名:ハイグロトン)を対照薬に、カルシウム(Ca)拮抗薬のアムロジピン(同:ノルバスク、アムロジン)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬のリシノプリル(同:ロンゲスなど)、α阻害薬のドキサゾシン(同:カルデナリン)の4系統の降圧薬間で無作為化二重盲検試験を行い、心血管疾患の予防効果を比較した。

 臨床試験は1994年からスタートしたが、2000年に行われた中間解析で、ドキサゾシン群(9061人)がクロルタリドン群(1万5255人)と比べ心不全による入院率が約2倍と有意に高いことが判明。試験を継続しても心血管疾患予防効果が対照薬を上回るとは見込めないため、ドキサゾシン群のみを2000年2月に早期中断し、残りの3群については予定通り2002年3月まで追跡して予後の評価を行った。

 最終的な解析対象者はドキサゾシン群を除いた3万3357人で、平均年齢は66.9歳。うち女性は47%で人種別では黒人が32%を占めるなど、他の降圧薬臨床試験の対象者と比べマイノリティーが多く含まれている点が特徴だ。平均体格指数(BMI)は約30と、平均的な日本人高血圧患者と比べてかなりの肥満。心筋梗塞や脳卒中など心血管疾患の既往は52%、冠動脈疾患は25%、2型糖尿病は36%が罹患している。試験開始時の血圧平均値は146/86mmHgだった。平均追跡期間は4.9年。

降圧力、心血管イベント予防効果と忍容性の3点で利尿薬が第一選択に

 心血管疾患の予防効果を各種イベントの6年発生率で比較したところ、1次評価項目である「致死的冠動脈疾患+非致死的心筋梗塞」の6年発生率は、クロルタリドン群で11.5%。比較対照のアムロジピン群(9048人)は11.3%、リシノプリル群(9054人)は11.4%となり、3群間に有意差はなかった。2次評価項目の一つである総死亡率も、順に17.3%、16.8%、17.2%と有意差はなかった。

 対照薬のクロルタリドンと比べ、アムロジピン群で有意な差があったのは心不全。心不全の6年発生率は10.2%、「致死的心不全+心不全」による入院は8.4%で、いずれもクロルタリドン群(順に7.7%、6.5%)より有意に高かった(相対リスク:順に1.38倍、1.35倍)。

 リシノプリル群では、脳卒中の6年発生率が6.3%と、クロルタリドン群の5.6%より有意に高かった点が目を引く(同:1.15倍)。心不全(8.7%対7.7%)や狭心症(13.6%対12.1%)の発生率や、再灌流療法の施行率(10.2%対9.2%)も有意に高かった(同:順に1.19倍、1.09倍、1.95倍)。

 安全性に関しては、「消化管出血による入院」と「血管性浮腫」の二つを1次評価項目として評価。前者については3群間に有意差はなかったが、血管性浮腫に関しては、発生率が極めて低いものの、リシノプリル群で有意に多かった。癌や末期腎不全の発生率は3群間で変わらなかった。

 ちなみに、介入の方法は、各群とも降圧目標値を140/90mmHg未満として、まず割り付けられた薬剤を増量。それでも目標値に到達しなかった場合は、第2段階の薬剤としてβ遮断薬のアテノロール(わが国での商品名:テノーミンなど)、塩酸クロニジン(同:カタプレスなど)またはレセルピン(同:アポプロン)をオープンラベル形式で投与した。副作用などのため割り付け薬を服用できない場合は、オープンラベル形式で、原則としてクロルタリドン、アムロジピン、リシノプリルのいずれかを投与した。

 試験薬の用量は、クロルタリドンが1日12.5〜25mgと、日本における承認用量のおよそ4分の1。アムロジピンは2.5〜10mg、リシノプリルが10〜40mgだった。5年目の時点で、クロルタリドン群に割り付けられた人の80.5%、アムロジピン群の80.4%とリシノプリル群の72.6%が、割り付け薬及び同系統の薬剤(クロルタリドン群の場合、クロルタリドンまたは他の利尿薬)を服用していた。5年目の血圧は、クロルタリドン群が133.9/75.4mmHgで、アムロジピン群(134.7/74.6mmHg)より収縮期血圧が1mmHg低く、拡張期血圧が1mmHg高かった。リシノプリル群は135.9/75.4mmHgで、拡張期血圧はクロルタリドン群と変わらないが収縮期血圧が2mmHg高かった。

 この降圧の差や、ACE阻害薬にとってやや不自然な形の降圧プロトコールが結果にどの程度影響したかは今後大きな議論の的となりそうだが、研究グループは「血圧の差だけでは心血管イベントの差は説明が難しい」と考察。降圧力、心血管イベント予防効果、忍容性のいずれにおいても、Ca拮抗薬やACE阻害薬が利尿薬を上回らず(unsurpassed)、薬剤費も高いことを考慮すると、高血圧患者に対する第一選択薬にはクロルタリドンのようなサイアザイド系利尿薬を考慮すべきだと結論付けた。

 この論文のタイトルは、「Major Outcomes in High-Risk Hypertensive Patients Randomized to Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitor or Calcium Channel Blocker vs Diuretic」。現在、全文をこちらで閲読できる。JAMA誌ホームページには、この論文のほか、「ALLHAT-LLT」研究の原著論文と、「ALLHAT」研究に関する論説が全文、早期公開されている(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。

 「ALLHAT」研究に関するNHLBIのニュース・リリースは、こちらまで。ALLHAT研究のホームページからも、最終結果や関連論文を入手できる。

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