2002.11.29

ホモシステインは心血管疾患の「原因」、遺伝子多型と疫学からの両面アプローチが強く示唆

 血中ホモシステイン濃度と心血管疾患との間に、単なる相関関係があるだけでなく、前者が後者の原因である可能性が高くなった。ホモシステイン濃度を規定する遺伝的変異と心疾患リスクに関する研究72報、前向きコホート研究20報をそれぞれメタ分析した結果、ホモシステイン一定濃度あたりの疾患リスク率が両者でほぼ一致したため。

 この結果は、ホモシステインがただのマーカーではなく、心血管疾患を引き起こす「原因因子」である可能性を強く示唆する。心疾患を予防する栄養素として、ホモシステイン濃度を減少させる、葉酸などのビタミンB群にさらなる注目が集まりそうだ。研究結果は、British Medical Journal(BMJ)誌11月23日号に掲載された。

 アミノ酸の一つであるホモシステインの血中濃度が高い人では、心血管疾患リスクが高いことは多くのコホート研究で報告されている。遺伝的に血中ホモシステイン濃度を増加させる変異がある人では、心血管疾患のリスクが高いという報告も既にある。注意すべきなのは、この関連性だけでは「ホモシステインが心疾患の原因」とは言えないことだ。どちらが原因でどちらが結果なのかは不明で、両者に共通の原因がある可能性もある。今のところ、ホモシステイン濃度と心血管疾患の因果関係を明示する証拠は揃っていない。

 そこで英国Southampton総合病院のDavid S. Wald氏らは、疫学研究と遺伝的研究の両者について個別にメタ分析を実施。心血管疾患を1.虚血性心疾患(心筋梗塞や冠動脈閉塞)、2.深部静脈血栓塞栓症(肺閉塞症の合併も含む)、3.脳卒中(脳梗塞、脳出血)−−の三つに分け、疫学研究のメタ分析から求めた疾患リスク率と遺伝的研究からの疾患リスク率とを比較するという、ユニークなアプローチで「因果関係の有無」を検証した。

 まず、代表的な医学論文データベースである「メドライン」や「CINAHL」などを用い、2001年10月までに発表された論文を抽出。メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)遺伝子の変異と心血管疾患リスクを検討した遺伝的研究72報(総対象例数:1万6849例)と、心血管疾患リスクとホモシステイン濃度に関する前向き研究20報(同:3820例)とを選択した。18歳未満の人や、血液透析患者、腎臓移植患者を対象とした研究は除外した。

 MTHFRはホモシステインをメチオニンに変換する反応に関与する酵素だが、677番目の塩基がシトシン(C)からチミン(T)に変わるC677T変異により、酵素の活性が低下して血中のホモシステイン濃度はおよそ20%高くなる。欧米人ではこの変異型遺伝子をホモに持つ「TT」型が約1割、野生型遺伝子をホモに持つ「CC」型が約半数で、残りが両者をヘテロに持つ「CT」型。日本人では「TT」型は同様の約1割だが、「CC」型は6〜7割といわれている。

遺伝的研究と前向き研究で疾患リスク率が類似

 次に研究グループは、遺伝的研究をメタ分析し、野生型「CC」に対する変異型「TT」のホモシステイン濃度の増加分から、5μmol/l当たりの疾患リスク率を算出。同様に前向きコホート研究もメタ分析し、年齢や性別、喫煙、血圧、コレステロール値の疾患危険因子、さらにホモシステイン濃度の対象者内での長期的変動を考慮して補正した後、5μmol/l当たりの疾患リスク率を求めた。

 その結果、血中ホモシステイン濃度が5μmol/l増加すると、虚血性心疾患リスクは遺伝的研究で42%、前向き研究では32%増加する計算になることが判明。同様に、脳卒中ではそれぞれ65%、59%にも及ぶことがわかった。なお、深部静脈血栓塞栓症のリスクは、遺伝的研究で60%だったが、前向き研究ではデータがなかった。

 以上からWald氏らは「遺伝的研究では疾患危険因子を考慮せず、前向き研究では遺伝的要素を考慮していないにもかかわらず、ホモシステイン一定濃度当たりの疾患リスク率は両者で類似した」と考察。「これは血中ホモシステイン濃度が心血管疾患を引き起こす原因であることを示す強いエビデンスだ」と結論付けた。

 このリスク率からは、ホモシステイン濃度が3μmol/l減少すると、虚血性心疾患リスクは16%、深部静脈血栓塞栓症は25%、脳卒中は24%低下すると推定できる。ホモシステイン濃度の3μmol/l低下は、1日0.8mgの葉酸を摂取したときの最大効果に価するという。

 今年8月、葉酸1日1mgを含めたビタミンB群のサプリメント投与による「ホモシステイン低下療法」で、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の再狭窄率が約4割低下することを示した「Swiss Heart Study」が報告された(JAMA;288,973,2002)。これは再発予防に対する効果であったが、このように実際にビタミンB群が個々の疾患の予防に役立つかどうかは、大規模な介入試験を行わなければわからない。今後の試験の実施が待たれる。

 この論文のタイトルは、「Homocysteine and cardiovascular disease: evidence on causality from a meta-analysis」。現在、全文をこちらで閲読できる。JAMA誌の「Swiss Heart Study」のアブストラクトは、こちらまで(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承ください)。(八倉巻尚子、医療ライター)

Information PR

ログインしていません

Close UpコンテンツPR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. インフルエンザの早い流行で浮かぶ5つの懸念 リポート◎AH3先行、低年齢でAH1pdmも、外来での重症化… FBシェア数:261
  2. 45歳男性。胸痛、冷汗 日経メディクイズ●心電図 FBシェア数:0
  3. 「肩や上腕のひどい疼痛」で見逃せない疾患は? 山中克郎の「八ヶ岳から吹く風」 FBシェア数:1
  4. 医師需給の議論の進め方は「異常かつ非礼」 社会保障審議会医療部会で厚労省の議論の進め方に批判が噴出 FBシェア数:1
  5. 膿のニオイをかぐのはNG? 倉原優の「こちら呼吸器病棟」 FBシェア数:4
  6. 新種カンジダによる侵襲性感染の世界的発生をCDC… トレンド◎3系統の抗真菌薬に耐性化した「C. auris」 FBシェア数:123
  7. ガイドラインにはない認知症の薬物療法のコツ プライマリケア医のための認知症診療講座 FBシェア数:118
  8. 療養病床のあり方に関する議論の整理案まとまる シリーズ◎2018診療・介護報酬同時改定 FBシェア数:1
  9. 医療事故調制度の「目的外使用」が続々明らかに ニュース追跡◎制度開始から1年、現場の理解はいまだ不十分 FBシェア数:87
  10. 教授の真似事をしてみたが…… 薬局経営者奮戦記〜社長はつらいよ FBシェア数:14