2002.11.29

有機水銀は冠動脈疾患を増やす? 相反する研究結果がNEJM誌に掲載

 米国心臓協会(AHA)が先週発表した、「冠動脈疾患の予防には魚油を」との声明(関連トピックス参照)は、米国で大きな反響を呼んだ。それに呼応するかのように、New England Journal of Medicine(NEJM)誌11月28日号には、魚に含まれる有機水銀と冠動脈疾患との関連をみた二つの研究結果が掲載された。

 有機水銀による健康被害が全世界的に大きな注目を集めたのは、日本で起こった水俣病がきっかけ。しかし、食事から摂る有機水銀の危険性に関し、日本では、あたかも“のど元を過ぎて”しまったかのような状況だ。だが米国では妊娠中・育児中の女性や小児に対して、米国食品医薬品局(FDA)が、サメやメカジキなど有機水銀含有量の多い魚を食べないようにとの勧告を行っている。

 AHA声明では、中年の人や高齢者、閉経後の女性なら、ガイドラインの範囲内であれば、魚を食べるメリットが(有機水銀などを摂取する)リスクをはるかに上回るとしている。しかし、「有機水銀そのものが、(水俣病のような神経系だけでなく)心血管系に悪影響を及ぼす」とする疫学研究も少数ながら報告されており、冠動脈疾患予防という観点では「魚のω-3脂肪酸による良い効果が、有機水銀によって相殺されてしまうのでは」との意見もあった。

 今回発表された二つの研究は、いずれも、足の爪に含まれる水銀量と冠動脈疾患との関連を調べた症例対照研究。一つは「関連あり」、もう一つは「関連なし」との結果になった。

 一つは、欧州8カ国とイスラエルの国際共同研究である「EURAMIC」(European Multicenter Case?Control Study on Antioxidants, Myocardial Infarction and Cancer of the Breast)で、参加者男性を対象として行われた解析。足の爪に含まれる平均水銀量は0.25μg/gだった。

 既知の心血管危険因子に加え、臀部から採取した脂肪組織中のドコサヘキサエン酸(DHA)濃度で補正すると、心筋梗塞を起こした人では起こさなかった人より15%、足の爪の水銀濃度が高いことが判明。水銀濃度で4群に分けて比較すると、最も水銀濃度が低い人と比べ、最も高い人では2.16倍、心筋梗塞を起こしやすいとの計算になった。

 もう一つの研究は、歯科医や薬剤師、獣医師など、医師以外の男性医療従事者が参加する前向きコホート研究「HPS」(Health Professional Study)の追跡研究からのもの。足の爪に含まれる平均水銀量は0.74μg/gで、興味深いことに、歯の治療に水銀を使う歯科医(0.91μg/g)ではその他の男性医療従事者(0.45μg/g)より有意に水銀含有量が多かった。

 魚をよく食べる人ほど足の爪の水銀含有量が多かったが、既知の心血管疾患の危険因子で補正すると、心血管疾患を起こした人と起こさなかった人とでは水銀含有量に差がないことが判明。魚から摂取するω-3脂肪酸量で補正しても、結果は変わらなかった。

 全く相反する結果が得られたことで、この分野は今後も論争が続きそうだが、私達が最も知りたいのは「魚をよく食べる日本人ではどうなのか」ということ。両論文とも、日本からの疫学研究結果は全く引用されておらず、世界に向けた情報発信に今後期待がかかりそうだ。

 前者の論文のタイトルは、「Mercury, Fish Oils, and the Risk of Myocardial Infarction」。アブストラクトは、こちらまで。後者の論文のタイトルは、「Mercury and the Risk of Coronary Heart Disease in Men」。アブストラクトは、こちらまで。

◆ 2002.11.19 AHA学会速報】冠動脈疾患予防のためにω-3脂肪酸の摂取を、AHAが声明を発表

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