2002.10.29

【ACR学会速報】 大道芸人に技あり、ライム病の予防に貢献

 「ライム病って知ってるかい? そう、ダニに咬まれてかかるんだ。でも、かゆくなって、腫れるだけじゃないよ。放っておくと大変なことになるんだ……」。こんな教育的なパフォーマンスを、ユーモアたっぷりに大道芸人が繰り広げた後にパンフレットを配ると、ただパンフレットを配った場合と比べてライム病にかかる確率が6割低くなることがわかった。米国で行われたユニークな「プラセボ対照無作為化試験」の結果で、米国Brigham & Women's病院のNancy A. Shadick氏らが、10月28日の「ACRプレナリー3」セッションで発表した。

 ライム病は、マダニが媒介する細菌感染症。原因菌はスピロヘーターの一種であるBorrelia burgdorferiで、原因菌が突き止められたのがほんの20年前という、新しい感染症だ。Borrelia burgdorferiに感染すると、数日から数週間後に咬まれた部位を中心に皮膚が赤く腫れ上がり、リンパ節が腫れ、風邪に似た症状が現れる。この段階で抗菌薬治療を受けないと、関節炎や多発性神経炎、髄膜炎などを引き起こしかねない。

 米国では1975年に、病名の元ともなっているConnecticut州ライムで子供に関節炎が集団発生し、社会的な関心が高まった。予防には、マダニの多い獣道を避け、防虫スプレーを使うこと。また、マダニは一度咬みつくと数日間はその場で血を吸いつづけるので、できるだけ早く見つけて除去することも感染を防ぐとされる。しかし、病気の存在や原因、予防法が広く知られていても、発症予防にはなかなか結び付かないのが現実だ。それは、具体的な行動を起こすための動機付けが足りないためではないか−−。そう考えたShadick氏らは、大道芸人に協力してもらって、「ユーモラスな動機付け」の教育効果を調べることにした。

 Shadick氏らが介入の場に選んだのは、19世紀の町並みと自然を今に残す米国有数の観光地、ナンタケット島に渡航するフェリー。実は、ナンタケット島でのライム病罹患率は島民の15%に上り、米国内で最も「危険な地域」の一つでもある。Shadick氏らはフェリーを船単位で無作為に2群に分け、一方でのみ大道芸人にライム病に関する教育的パフォーマンスを行ってもらった。さらに、“プラセボ”として、もう一方のフェリーでは大道芸人が自転車などによる怪我の予防に関する教育的なパフォーマンスを実施。どちらのフェリーの乗船者にも、ライム病の予防策に関するパンフレットを渡し、2カ月後のライム病発症率を比較した。

 このユニークな「プラセボ対照無作為化試験」は3年間に渡り、夏期のバカンスシーズンに、のべ292隻のフェリーを舞台に繰り広げられた。介入船にはのべ1万3562人、対照船にはのべ1万6602人が乗船した。うち2万1852人が、ライム病にかかったかどうかなどを尋ねる質問票を2カ月後に返送してくれた。

 フェリーの乗客の3%は島民で、残りは観光客。全体の85%は2週間以内の短期滞在で、12%は2週間以上の長期間に渡り島に滞在した。ライム病の罹患者は144人で、罹患率は島民、長期滞在者、短期滞在者の順となった。罹患率を介入の有無で比較すると、島民や、罹患率そのものが低い短期滞在者では差が出なかった。しかし長期滞在者では、ライム病に関する教育的パフォーマンスが繰り広げられたフェリーに乗った人の方が、罹患率が6割、有意に低くなることが確認できた。

 さらに、「ダニに咬まれていないか毎日チェックした」と答えた人は、対照群の37%に対し、介入群では51%と有意に高いことが判明。同様に、「ダニに咬まれないよう毎日気をつけた」と答えた人の比率も、介入群は58%で、対照群の39%より有意に高かった。

 以上からShadick氏らは、「ライム病という既に良く知られている疾患でも、ユーモラスなパフォーマンスで改めて注意を喚起することで、予防行動の動機付けができ、感染率の低下につながった」と結論。会場の大きな拍手を浴びた。

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