2002.10.23

V-Pシャントがアルツハイマー病の進行を抑制、初の無作為化試験結果が発表

 水頭症などの治療手段として行われるV-Pシャント(脳室−腹腔短絡術)手術が、アルツハイマー病の新たな治療法となる可能性が出てきた。アルツハイマー病患者29人を対象に米国で行われた無作為化比較試験で、V-Pシャント手術を受けた人では、1年間ほとんど認知機能が低下しないことが確認され、脳脊髄液中のβアミロイド蛋白やタウ蛋白の濃度も低下したという。研究結果は、Neurology誌10月22日号に掲載された。

 「痴呆に脳髄液ドレナージが有効」との報告が最初になされたのは1969年だが、その後の研究で確証が得られなかったこともあり、きちんとした比較試験が行われないまま初期の報告は忘れられていた。しかし、1999年に、正常圧水頭症の人を対象とした脳脊髄液ドレナージの臨床試験で、アルツハイマー病合併者では痴呆の進行が抑制されたことが報告。にわかに脳脊髄液ドレナージ術への期待が高まっていた。

 米国Stanford大学脳神経外科のG. D. Silverberg氏らは、アルツハイマー病との診断が確定しており、水頭症(正常圧を含む)や早発型アルツハイマー病ではない29人の患者を対象とした1年間のパイロット研究を実施。V-Pシャント群と無介入群とで、認知機能や脳脊髄液中のアルツハイマー病関連蛋白量などにどのような違いが出るかを検討した。V-Pシャントには、水頭症治療に用いられるシャントより流量が少ない(1日40〜140ml)、米国で治験中の「Cognishunt」(米国Eunoe社製)を用いた。

 対象患者の平均年齢は72.4歳で、およそ半数が女性。アルツハイマー病の発症から約3年、アルツハイマー病との診断からは約2年が経過している。割り付け時のミニメンタル試験(MMSE)の平均スコアは20.7、マチス痴呆診断スケール(MDRS)の平均スコアは114.0だった。2群間の患者背景はほぼ同じだが、平均年齢は無介入群(14人)が約2歳高齢で、女性比率はV-Pシャント群(15人)の方が高かった。

 なお、対象者の8割は、試験期間中もアルツハイマー病治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬)を服用。アルツハイマー病への効果が期待されている、イチョウ葉エキス、ビタミンE、ホルモン補充療法や非ステロイド抗炎症薬(NSAID)も8割の人が併用していた。

 1年間の経過観察で、無介入群ではMDRSスコアが112から98にまで低下。ところが、V-Pシャント群では開始時が116、1年後も115で、認知機能がほとんど低下しなかった。脳室内脳脊髄液中のアルツハイマー病関連蛋白量(V-Pシャント群でのみ評価)も低下が認められた。

 一方の副作用は、V-Pシャント手術を受けた15人中8人が術後の痛みを訴え、他に主なものとして7人に吐き気、5人に頭痛、4人に発熱、二人にけいれんが生じた。手術による死亡や不可逆的な神経障害が生じた例はなかったという。

 研究グループは、今回の試験はあくまで少数例を対象としたパイロット試験であり、これだけでV-Pシャント手術がアルツハイマー病の治療法として「有効で安全」とは結論付けられないと強調。脳脊髄液の循環改善が、なぜアルツハイマー病の進行抑制につながるのかという検討も必要だとした。

 とはいえ、1年間に渡り認知機能の低下が食い止められたインパクトは大きい。研究グループは現在、より多くの患者を対象とした、多施設共同のプラセボ対照試験を進めているという。

 この論文のタイトルは、「Assessment of low-flow CSF drainage as a treatment for AD」。アブストラクトは、こちらまで。

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