2002.10.20

【解説】 「イレッサ」にイエローカード、服用者に間質性肺炎が発症

 非小細胞肺癌を治療する「夢の薬」とも言われた、ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)の安全神話は崩れ去ってしまった−−。10月15日、厚生労働省はゲフィチニブに関して、使用上の注意の改訂、医療関係者に対する緊急安全性情報の配布を、製造販売元のアストラゼネカに指示した(関連トピックス参照)。

 ゲフィチニブの適応症は、従来の抗癌薬が効きにくい非小細胞肺癌。手術不能例と再発例が対象とされており、既存の抗癌剤の適応となれば処方は可能だ。服用者のほぼ全例で脂漏性発疹や下痢が発生するものの、副作用が非常に軽いとされており、しかも経口で服用できる。それだけに、医師・患者ともにこの薬に寄せる期待は大きかった。わが国では世界に先駆けて、今年7月5日に承認。薬価収載は8月30日だが、それより前の7月中旬から、特定療養費制度を利用した販売が行われていた(関連トピックス参照)。年間約5万人にも上る肺癌末期患者のほとんどが恩恵を受けるとも言われた。

 ところが、販売後3カ月、薬価収載後1カ月にして、ゲフィチニブの服用との「関連性を否定できない間質性肺炎を含む肺障害」が発生した。ゲフィチニブの服用者に、間質性肺炎を含む肺障害が26例(うち死亡13例)報告されたのだ。

 この事態は、予想できないことではなかった。治験段階でもゲフィチニブ服用による間質性肺炎の発症は報告されていた。ただし、当時は服用者の人数が少なかったこともあって、ゲフィチニブと間質性肺炎の関係は不明だった。間質性肺炎・肺線維症に詳しい東京大学老年病科講師の長瀬隆英氏は、日経メディカル2002年9月号の記事で注意を喚起しており、「ゲフィチニブによって、薬剤性肺線維症がどのくらいの頻度および程度で発生するのか、今後の報告が待たれる」と話していた。

 今回の緊急安全性情報の発出を受けて、長瀬氏は「ゲフィチニブが本格的に使用されるようになって1カ月のうちに、服用者約7000例中26例(約0.4%)で間質性肺炎が発症し、しかも13例(約0.2%)が死亡に至ったというのはかなり高い発症率と言える。発症までの時期としても1カ月以内というのはかなり短い」と指摘する。通常、薬剤性間質性肺炎は、薬剤の服用を中止すれば症状が改善する。だが、これまで報告されている、ゲフィチニブによる間質性肺炎では、中止後も症状が軽快せずに死に至った例もあった点を長瀬氏は重く見る。

 ともあれ、今後ゲフィチニブの投与の際は、細心の注意が必要とされる。アストラゼネカは同薬の投与に当たり、胸部X線検査を定期的に実施して、その上で胸部CT検査、動脈血酸素分圧(PaO2)、肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)、肺拡散能力(DLco)などの検査を行うように注意を促している。この点に関し、長瀬氏は「(胸部X線検査だけでなく)肺機能検査を毎回やるくらいの注意が必要だ」と話す。肺障害が起こった場合は、最初にDLcoの低下が見られるためだ。その場合、直ちに全ての薬剤投与の中止が必要となる。

 また、近畿大学第四内科教授の福岡正博氏は、「間質性肺炎が急速に悪化する例は、元々重症な患者である可能性が高い」と指摘する。咳や呼吸困難が現れた場合は、すぐ医療機関を受診するようあらかじめ指導すると同時に、「重症な患者に対しては、処方を控えた方が良いだろう」との考えだ。

 とはいえ、「現在、非小細胞肺癌に対する有効な治療が無いことも事実」(長瀬氏)であり、リスクを承知で投与に踏み切らざるを得ない状況も少なくない。長瀬氏は「ゲフィチニブを処方する際は、ほかの化学療法と同様に危険を伴っていることを認識することが重要だ。処方に先立って、患者にリスクを説明し、了承を得た上で使用することが求められる」と話している。(星良孝、日経メディカル

■関連トピックス■
◆ 2002.10.15 緊急安全性情報】新規肺癌治療薬「イレッサ」でドクターレター
◆ 2002.7.9 アストラゼネカが非小細胞肺癌治療薬「イレッサ」を薬価収載前から販売、特定療養費制度の初利用

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