2002.10.17

【日本癌治療学会速報】 胃癌の術後補助化学療法、実施の可否めぐり議論

 10月16日に行われた指定シンポジウム「がん治療のcontroversy」では、延命効果を支持する確たるエビデンスはないものの、日本では7割以上の医療機関が実施している「胃癌術後の補助化学療法」に関し、二人の専門医が討論を繰り広げた。

 日本胃癌学会が昨年3月に発表した「胃癌治療ガイドライン」では、早期癌(病期1A)の術後補助化学療法については、予後の改善効果がみられないことから不要である旨を明記している(関連トピックス参照)。これに対し、九州大学大学院消化器・総合外科学分野の前原喜彦氏は、術後補助化学療法を必要とする立場から意見を述べた。

術後の再発・転移の抑制策は不可欠、患者に選択権を

 前原氏はまず、術後化学療法が必要と考えられる根拠として、1.治癒切除であっても再発がある、2.術前に既に遠隔臓器で癌細胞が検出されることがある、3.手術操作によって癌細胞が散布される、4.原発巣の切除で転移巣が増大する可能性がある、5.手術侵襲で上昇するサイトカインが癌の増殖・進展を促進し得る−−の五つを列挙した。

 その上で前原氏は、1960年代からの胃癌術後補助化学療法に関する臨床試験の歴史を概括。日本での無作為化試験(JCOG8801)ではリンパ節転移のない早期胃癌に関する術後補助化学療法の有用性は示されていないが、複数の無作為化試験のメタ分析では再発ハイリスク群に対する延命効果が示唆されているとした。

 さらに前原氏は、癌治療における“臨床判断”においては、エビデンスだけでなく社会的制約や患者・医師の価値観などについても考慮すべきと強調。エビデンス面では「再発ハイリスク群を対象に、手術単独群を対照とする臨床試験」や「個別化医療を目指した臨床研究」を推進しつつ、現状では患者に対して補助化学療法の臨床成績を提示した上で、補助化学療法を受けるかどうかの選択権を患者に与えるべきだと述べた。

現状では“有害手技”支えるエビデンスは希薄、「行わない」勇気を

 一方、「補助化学療法を行わない」という立場からは、国立がんセンター中央病院外科の佐野武氏が登壇。術後補助化学療法はあくまで、「治癒切除後に残っているかもしれない微小転移に対し、再発抑制を目的に行う治療」であり、「手術で治癒しているかもしれない患者を対象に、副作用があり生活の質(QOL)を損なううえ、医療費もかかる化学療法を行うには、やはり確固たるエビデンスが必要」と述べた。

 その観点で現状のエビデンスを評価した場合、小規模な無作為化試験のメタ分析で有用性が示唆されているのは事実だが、小規模試験では公表バイアス(良い結果が出た試験のみが論文化され、望ましくない結果は論文として残らない)がかかりやすいと佐野氏は指摘。メタ分析結果は大規模臨床試験での確認(confirmation)を経ない限り確たるエビデンスとはならないとした。

 さらに佐野氏は、日本胃癌学会が胃癌の術後補助化学療法の実施に関して行ったアンケート結果に言及した。胃癌術後補助化学療法の実施率は、全国がんセンター・成人病センター協議会(全がん協)所属施設と大学病院とで大きな差がある。この点について佐野氏は「大学病院で極端に実施率が高いのは、術後補助化学療法を“行わない”経験が無いためではないか」と分析。「経験の無いことを行うのは不安なものだが、胃癌術後補助化学療法にはエビデンスが無いことを自分に言い聞かせ、化学療法を行わずに経過をみる勇気を持とう」と会場に訴えた。

 両者の意見が一致したのは、「現状の化学療法は力不足だが、胃癌術後の予後改善にはやはり化学療法しかありえない」という点。胃癌の術後補助化学療法に関しては、「N・SAS-GC」(National Surgical Adjuvant Study of Gastric Cancer)と「ACTS-GC」(Adjuvant Chemotherapy Trial of TS-1 for Gastric Cancer)の二つの無作為化試験が日本で進んでいる。前者はテガフール・ウラシル配合薬(UFT)、後者はテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬(TS-1)を用いるものだが、この二つの試験が、今後胃癌の術後補助化学療法の位置付けを決める鍵を握ると言えそうだ。

■関連トピックス■
◆ 2002.2.12 日本胃癌学会速報】欧米GLと遜色ない胃癌治療GL、患者の自己決定に基づく治療選択が基軸に−会長講演より

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