2002.10.11

前立腺癌のPSA検診はやはり意味がない?、米の長期観察研究結果が発表

 前立腺特異抗原(PSA)を用いた検診は、前立腺癌の診断数や加療数を増やすが、必ずしも死亡数の減少にはつながらないとする観察研究結果が発表された。PSA検診の受診率に大きな差があった、米国内の2地域を11年間追跡調査したもの。PSA検診の有用性をめぐる議論に一石を投じそうだ。研究結果は、British Medical Journal(BMJ)誌10月5日号に掲載された。

 PSAは前立腺癌の腫瘍マーカーで、前立腺癌に罹患していると血中濃度が上昇する。米国では癌の早期発見を目的に、1980年代後半から、中高年男性を対象としたPSAによるマススクリーニングが積極的に行われてきた。その結果、米国では前立腺癌と診断される人が1990年代に急増、それに比例して治療を受ける人も増えた。

 その後、1995年以降になって、これまで増加の一途をたどっていた前立腺癌による死亡率が初めて減少。「早期発見が死亡率減少につながった」とする声が高まった。しかし、治療手段の改善などによっても死亡率は減るため、「PSA検診が有効だとする根拠は希薄」との声も根強く、論争の的となっていた。

 そこで、米国HealthStatのGrace Lu-Yao氏らは、1980年代後半に既にPSA検診を積極的に行っていたSeattle地区と、当時はまだ導入が進んでいなかったConnecticut地区を比較する観察研究を行った。前立腺癌による死亡率は白人と黒人とで大きく異なるが、この両地区の人種構成は94〜95%が白人、2〜3%が黒人と極めて似ている。

 さらに、この2地区は日本の「地域がん登録」に類似した制度である「SEER」(Surveillance, epidemiology, and end results)の実施地域。地区内の住民が癌と診断された場合や、癌で死亡した場合はデータベースに登録されるため、正確な比較が可能になる。Lu-Yao氏らは、1987年における両地区のメディケア(米国の高齢者公的医療保険、65歳以上が対象)受給者21万5521人を11年間追跡し、PSA検診受診率の違いがその後の予後にどのような影響を与えるかを調べた。

 1988〜1990年の間、Seattle地区でPSA試験を受けた人の比率はConnecticut地区の5.4倍。前立腺生検の実施比率も2.2倍に達した。治療に関しても、1987〜1990年に前立腺を摘出された人の比率には約5倍、放射線療法の実施比率にも約2倍の格差があった。

 ところが、前立腺癌による1997年までの死亡率推移は、Seattle地区とConnecticut地区でほぼ同一。仮にPSA検診による早期発見が死亡率の低下につながるなら、PSA検診が早期から普及していたSeattle地区の方が先に死亡率が下がり始めるはずだが、そうした“タイムラグ”も認められなかった。

 以上から研究グループは、「今回のデータは、検診や治療の強化が、前立腺癌死亡率の減少につながるとする仮説を支持しない」と結論付けている。

 なお、PSA検診の有用性をめぐる議論に決着を付けるには、やはり無作為化介入試験が不可欠。米国では1992年から、前立腺癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌の4種類の癌について、PSA検査も含めた血液スクリーニングの有効性を調べる無作為化試験「PLCO」(Prostate, Lung, Colorectal & Ovarian Cancer Screening Trial)が開始された。結論が出るのは数年先と見られている。厚生労働省のがん検診評価委員会が昨年12月にとりまとめた「新たながん検診手法の有効性の評価」では(関連トピックス参照)、PSA検診の有効性に関して判断を保留している。

 この論文のタイトルは「Natural experiment examining impact of aggressive screening and treatment on prostate cancer mortality in two fixed cohorts from Seattle area and Connecticut」。現在、全文をこちらで閲読できる。

 PLCO試験については、米国国立癌研究所(NCI)ホームページのこちらから詳しい情報を入手できる。厚労省委員会の「新たながん検診手法の有効性の評価」については、東北大学ホームページのこちらから全文をダウンロード可能だ。(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承ください)。(八倉巻尚子、医療ライター)

■関連トピックス■
◆ 2001.12.21 続報】ガン検診の有効性を死亡率減少効果の有無で判定

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