2002.10.04

乳房自己触診は乳癌死を減らさない、「上海研究」の最終結果が発表

 中国・上海の女性工場労働者約27万人を対象とした、乳房自己触診の無作為化大規模試験「上海研究」(Shanghai Trial)の最終結果が発表された。10〜11年の追跡後も、乳癌死は乳房自己触診を行った群と行わなかった群とで全く変わらず、乳癌診断時の進行度も両群で不変だった。研究結果は、米国国立癌研究所(NCI)の学術誌であるJournal of the National Cancer Institute(JNCI)誌10月2日号に掲載された。

 乳房自己触診は、女性が自分の乳房を定期的に触診すれば乳癌を早期発見でき、乳癌による死亡率低減につながるとの考えから、30年以上も世界中で指導されてきた。しかし、症例対照研究などの観察研究では、自己触診を行っていた女性の方が乳癌死亡率が低いとするものがある一方、特に差を認めない報告もあり、一定した見解は得られていなかった。

 この問題に決着を付ける大規模な無作為化介入研究として、「上海研究」が1989年にスタート。先行するソビエト連邦(当時)・世界保健機関(WHO)の研究より規模が大きく、割り付けの均一性や追跡率の高さから、実質的に「唯一の大規模無作為化研究」として注目を集めてきた。

 対象は、上海および近郊の約500カ所の工場に勤務する、1925〜1958年生まれ(1989年当時で満31〜64歳)の女性労働者26万6064人。研究グループは、対象者を工場単位で無作為に2群に分け、一方にのみ乳房自己触診法を指導。10〜11年間追跡して乳癌による死亡率を比較した。

 乳房自己触診の指導法は、女性を約10人ずつのグループに分けて集団指導を行った後、最初の5年間は少なくとも6カ月に1回、医療者が見ている前で自己触診を行わせるというもの。1年目と3年目には再度、集団指導も実施した。自己触診は月1回行うよう指導、シリコン製モデルを用いた検討で、指導を受けた人の方がしこりの発見率が高く、より小さいしこりを見つけられることも確認できた。

 追跡期間中、自己触診指導群(13万2979人)では864人、無指導群(13万3085人)では896人が乳癌を発症。しかし、診断時に進行度がステージ0〜1の早期癌だったのは両群とも29.7%で、両群とも半数強に既にリンパ節転移があり、自己触診を指導しても早期発見にはつながらないことが明らかになった。

 さらに、1次評価項目である乳癌死亡率は、自己触診指導群で0.10%(135人)、無指導群でも0.10%(131人)。30万人近い人を10年以上追跡した試験であるにも関わらず、まったく差は見出せなかった。一方、追跡期間中にしこりを見つけ、生検で良性腫瘍だと確認された人数は、自己触診指導群が2387人、無指導群が1296人。乳房自己触診を指導しても、乳癌死亡率が減らないばかりか、“無駄な”生検が増える温床となる結果となった。

 乳房の自己触診に関しては、既にカナダ医師会が昨年6月、上海研究の中間報告などに基づいて「指導しない方がよい」との勧告を発表。一方、米国予防医療専門委員会(USPSTF)は今年2月に発表したガイドラインで、十分なエビデンスがないとの理由により判断を保留している(関連トピックス参照)。今回、新たに強力なエビデンスが加わったことで、各国のガイドラインにも大きな影響が出そうだ。

 この論文のタイトルは、「Randomized Trial of Breast Self-Examination in Shanghai: Final Results」。アブストラクトは、こちらまで。

■関連トピックス■
◆ 2002.2.25 米国厚生省、40歳以上のマンモグラフィによる乳癌検診を推奨

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