2002.09.17

手根管症候群の手術療法は保存療法より長期成績が良好、無作為化試験で判明

 手根管症候群患者約180人を対象とした無作為化試験で、最初から手術を行った群の方が、夜間に固定具(スプリント)を手首に装着する保存療法で様子をみた群よりも、3カ月以降の治療成績が有意に優れることが明らかになった。研究結果は、Journal of American Medical Association(JAMA)誌9月11日号に掲載された。

 手根管症候群は、手関節の使いすぎなどにより、正中神経の通り道である手根管(手の母指球と子指球の間にあるトンネル状の組織)の一部が狭くなる疾患。正中神経に障害が起こり、親指から中指にかけてしびれや痛み、脱力感などが生じる。

 温熱療法やレーザー照射など、様々な治療法が試みられているが、治療法の主流は手術療法と保存療法だ。手首をひねる動作で症状が悪化するので、保存療法では手首を固定するスプリントを夜間のみ、あるいは1日中装着して、症状が軽くなるのを待つ。人によってはスプリント装着だけで症状が劇的に改善するが、なかなか良くならない人も少なくなく、早い段階で手術を行った方が長い目で見れば良いのではないかとの議論がなされてきた。

 そこで、オランダVrije大学医療センターのAnnette A. M. Gerritsen氏らは、最初から手術を行う群と、まず夜間のスプリント固定で6週間様子をみる群とに患者を無作為に分け、治療成績を比較する臨床試験を実施した。対象患者の平均年齢は49歳、8割が女性で、罹病期間は約1年。半数の人は両手に症状があったため、より重症の手を無作為割り付けの対象とした。

 第1評価項目は、治療前と比べた症状の全般的な改善度。患者に「完全に回復」から「かなり悪化」の6段階で評価してもらい、患者が「完全に回復」または「かなり回復」と答えた場合を治療の成功と評価した。なお、両群とも、必要に応じて非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAID)を処方した。

 割り付けから1カ月後の時点における治療の成功率は、手術療法群が29%、保存療法群が42%と、保存療法群の方が有意に高かった。ところが、3カ月後ではこれが逆転。手術療法群の治療成功率(80%)が、保存療法群(54%)を大きく上回った。18カ月後まで追跡しても、手術療法群の優位性は変わらなかった。

 米国神経学会(AAN)のガイドラインでは、手根管症候群の治療の第一選択は保存療法で、それでも症状が改善しない場合のみ手術療法を考慮すべきとしている。これに対し、研究グループは「今回の臨床試験で、手術療法を行った方が最終的な治療成績は優れていることが示された」と結論。明言はしていないものの、手術療法を第一選択とすべきではないかと示唆している。

「保存療法後手術」と「最初から手術」の治療成績はほぼ同等

 今回示されたデータで特に目を引くのは、保存療法群に割り付けられた患者のおよそ4割が、実際には18カ月後までに手術を受けていたことだ。18カ月が経過した時点での治療成功率は、保存療法群に割り付けられ、最終的に手術を受けた患者で94%だった。

 この時点での手術療法群(約9割が手術を施行)の治療成功率は90%で、数値的にはほぼ匹敵する。このデータからは、「まずスプリント固定で様子をみて、良くならないようなら手術をする」という戦略が、最初から手術をする戦略に勝るとも劣らない治療成績を挙げ得ることが伺える。一方、最後まで手術を受けなかった保存療法群の患者では、治療成功率は62%だった。

 また、今回の試験では、第2評価項目として理学療法士による「客観的な評価」も行われている。評価の際は、手術の傷跡が隠れるよう手首から手のひらまでを覆った上、患者にも口止めをして、どちらの群に割り付けられた患者かが評価者にわからないようにした。しかし、そのデータからは、手術療法群の成績が必ずしも優れているとは言えない。

 このことは、「手術を受けた」という事実が、客観的な改善度以上に、患者の満足度を押し上げている可能性を示唆している。もちろん患者本人にとっては、主観的な症状改善度が最も重大な関心事だが、「手術療法が保存療法より優れる」と言い切るためには、こうした“解釈の余地”を排し、手術合併症の評価も含めた、より厳密な試験が必要と言えそうだ。

 この論文のタイトルは、「Splinting vs Surgery in the Treatment of Carpal Tunnel Syndrome」。アブストラクトは、こちらまで。

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