2002.09.16

新薬「ロトロネックス」のFDA再承認に疑惑と不安、BMJ誌が報道

 2年前に副反応の報告や死亡例が出たことで自主回収された、過敏性腸症候群(IBS)の薬「ロトロネックス」(英国GlaxoSmithKline=GSK社、一般名:塩酸アロセトロン)が、今年6月に米国食品医薬品局(FDA)の再承認を受け、年内にも再び上市する見込みとなった。だが、その背景に、患者団体の要望だけでなく、FDAと製薬業界との新薬承認をめぐる癒着があったとの疑惑が生じている。

 British Medical Journal(BMJ)誌9月14日号は、この疑惑について、FDA諮問委員会の一部の委員による内部告発に関する記事を掲載。併せて、製薬業界からの資金に依存した新薬承認システムや、FDAの「患者と医師の決定に任せる」政策転換への危惧を表明する論文を掲載している。

 IBSは、急激な腹痛を伴って下痢や便秘が頻回に、慢性的に繰り返す疾患。先進国では5人に一人が悩まされているという。塩酸アロセトロンはセロトニン(5-HT3)の受容体拮抗薬で、米国ではFDAが2000年2月に、下痢を主症状とした女性の過敏性腸症候群の治療薬として販売承認した。

 しかし、発売後に副反応が次々に報告され、死亡例も出たことから、FDAの勧告を受けGSK社は9カ月後の11月下旬に同薬を自主回収した。2002年4月までに服用が原因と見られる虚血性大腸炎は84例、重度の便秘は113例報告され、うち143人は入院、7人が死亡しているという。

 その後、今年6月になってFDAは、再び塩酸アロセトロンの販売を限定付きで承認した。限定は適応に関するもので、重度の下痢症があり、他の治療薬では改善しなかった女性の患者のみに投与対象が絞られた。ところが、FDA諮問委員の内部告発によると、4月のFDA特別諮問委員会では、医師側にも限定を設けるべきとの意見が出されていたという。しかしながら、「投与について訓練を受け認定された医師だけが処方できるようにすべき」との意見は、6週間後に行われた承認の書類には明記されなかった。

 年内の再発売に向けて、専門家や市民団体からは徐々に不安の声も広がりつつある。BMJ誌の記事によると、一部のFDA諮問委員は、塩酸アロセトロンが再上市すれば再び死亡例が出ると警告し、発売中止を訴えている。その一人、Paul Stolley氏は、「FDAは製薬業界のしもべ(下僕)と化している」と酷評する。

 その根拠となっているのが、製薬メーカーが新薬承認申請費用として、FDAに30万ドルを支払うことになっているシステムだ。2002年にFDAは、実際の新薬調査費用の倍に当たる1億6200万ドルを企業から受け取るだろうといわれており、この資金システムの改変を求める声が米国では高まりつつある。

「自己責任」に任せるFDAの政策転換にも批判

 もちろん今回の再承認は、塩酸アロセトロン服用によるリスクよりも医学的利益が上回っており、死亡例も服用との直接の関連性に確証がなかったことから決定した。しかし、この件に関する論説をBMJ誌に執筆した、フランスLyon大学のMichel Lievre氏は、承認の理由はほかに三つあると考察している。

 第一の理由は、「Lotronex Action Group」など、発売を要望する市民グループが大規模な運動を行ったこと。次にLievre氏が挙げるのは、製薬業界からの働きかけだ。

 米国には約4000万人のIBS患者がいると見込まれており、GSK社だけでなく、スイスNovartis社やベルギーSolvay Pharmaceuticals社も、この大規模な市場を狙っている。実際7月には、Novartis社のマレイン酸タガセロッドが、便秘を主症状とするIBSの女性患者に対する治療薬として承認された(関連トピックス参照)。

 そして、今回の再承認にまつわる最後の理由として、Lievre氏はFDAの政策転換を挙げる。これまでの「父権的な姿勢から、共和主義的姿勢に変える」、つまりFDAは患者や医師が自分たちの意思で、薬を使用するかどうかを決定するための情報を提供するだけの役割に徹するというのだ。だがそういった政策の下では、「国民は十分な医療訓練が必要になり」(Lievre氏)、患者は新たな課題を課されることになろう。

 Stolley氏による内部告発は、論文「Alosetron: a case study in regulatory capture, or a victory for patients' rights?」内に記載されている。全文は、こちらまで。Lievre氏による論説のタイトルは、「Alosetron for irritable bowel syndrom」。現在、全文をこちらで閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承ください)。(八倉巻尚子、医療ライター)

■ 関連トピックス ■
◆ 2002.7.31 FDAが初の過敏性腸症候群の女性向け治療薬を承認

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