2002.09.14

解説●新たな時代を迎えた冠動脈インターベンション

 欧州での薬剤溶出ステントの実用化により、冠動脈カテーテルインターベンションは新たな時代に入った。バルンカテーテルだけの時代、その後のベアステント(薬剤溶出ステントと区別するため、従来のステントはベアステントと呼ばれるようになった)時代が終わり、第三の時代が幕を開けたというわけだ。

 その先駆けとなったのは、2001年秋の欧州心臓病学会で発表されたRAVEL試験だ。同試験は、欧州と中南米の医療機関19施設で行われた二重盲検法によるRCT(ランダム化比較試験)。マクロライド系の抗生物質として発見され、免疫抑制剤として開発されたシロリムス(免疫抑制剤の商品名はラパマイシン)をコーティングしたステントと、同じ構造のステントで何もコーティングしていないステントについて、血管内腔の変化や再狭窄率、イベント発生率などを比較した。結果はNew England Journal of Medicine誌に既に発表され、MedWaveでも紹介した(関連トピックス)が、ステント留置6カ月後の時点で、シロリムス溶出ステントの再狭窄率は0%(ベアステントでは26.6%)。イベント発生率も5.8%(同28.8%)と、再狭窄ばかりかイベント発生率まで有意に抑制できた。さらに、米国が中心になって行っている1100例あまりを対象としたRCTのSIRIUS試験も、この秋には発表予定。途中経過では、こちらも再狭窄率は薬剤溶出ステントで2%(ベアステントでは31.1%)と低い。欧州では今年、シロリムス溶出ステントが発売された。

 さらに、抗癌剤として使われているパクリタキセル(抗癌剤の商品名タキソール)をコーティングしたステントの開発も進んでいる。パイロットスタディであるTAXUS1では30例にパクリタキセル溶出ステントを使用、6カ月後の再狭窄率はこちらも0%(ベアステントでは11%)だった。9月中にも、薬剤の溶出スピードが異なるステントを比較したTAXUS2の結果がまとまる見込みだ。

 多様な薬剤をコーティングしたステントの開発に、ステントメーカーはしのぎを削っている。ベアステントに比べた再狭窄の低さから、ここ数年で薬剤溶出ステントを商品化できないメーカーは淘汰されてしまうだろうという話もささやかれている。

長期予後の未確認、高価格など問題も多く

 9月9日〜11日に名古屋で開催された第50回日本心臓病学会でも、薬剤溶出ステントの話題に参加者の関心が集まった。虎の門病院院長の山口徹氏と藤田保健衛生大循環器内科教授の野村雅則氏が座長を務めたシンポジウム「冠動脈再狭窄予防の展望」では、米国スタンフォード大でSIRIUS試験に携わっていた板橋中央病院循環器内科の森野禎浩氏が薬剤溶出ステントの欧米での臨床成績を発表したほか、ディスカッションで中心的な話題の一つとなった。

 「わが国で薬剤溶出ステントが使えるようになったら、どのような使用方針をとるか」という山口氏の問いかけに対し、シンポジストの意見は「全例で使用したい」というものと、「(血管径が細かったり狭窄部が長く続くような)再狭窄が起こりやすい部位に使う」とに分かれた。

 これに対して山口氏は、「ベアステントで再狭窄が減ったのは、再狭窄しにくい単純で内径が大きな病変に多く使われたからという見方もある。だが当初は、そのような病変ならバルンカテーテルで十分という意見も多かった。薬剤溶出ステントでも同様な状況になるのでは」と聞き直し、シンポジストが返答に窮する場面もあった。

 ただ、新しいデバイスが導入されるときはいつも問題になるが、長期予後が明らかにされていないことに注意が必要だ。ブタを使った研究では、長期間観察すると再狭窄がベアステントと変わらなくなったというデータもある。また薬剤溶出ステントでも、頻度は低いながらもステント両端部分での再狭窄が起こることが分かっている。

 もう一つの問題は薬剤溶出ステントの価格だ。欧州での価格は2300ユーロと、ベアステントの3倍の値段という。ただ、それでも日本円で25万円程度。わが国でのベアステントの価格よりも安い。3倍という価格差がそのまま日本に導入されれば、わが国では薬剤溶出ステントは100万円近くになってしまう。今でもステントやバルンカテーテルの内外価格差が問題視されているが、100万円となると経済的な問題で使用が制限されてしまう可能性もある。「安ければ全例で使える」との意見が出るのもうなずける。

 また、わが国では薬剤溶出ステントの治験は行われておらず、海外のRCTの結果がほぼ出そろった段階で、そのデータで認可を申請するとみられる。そのため認可時期は欧米よりも年単位で遅れることは確実だ。新しい時代をわが国のインターベンションラジオロジストが享受できるようになるには、まだ幾多のハードルが残されているといえそうだ。このような障壁に打開策はないのか、日経メディカルでも一度考えてみたい。(高志昌宏、日経メディカル

*薬剤溶出ステントに関して皆さんのご意見をお寄せください。MedWave編集部までメールでお送りください。

■関連トピックス■
◆ 2002.6.17 PCI後の再狭窄問題に決着か、シロリムス被覆ステントの無作為化試験成績の詳細が公表
◆ 2001.9.27 日本心臓病学会速報】
冠動脈インターベンション後の再狭窄の解決に決定打か−ラパマイシン被覆ステント

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